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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
七章 館城建築
198/1638

7


「ここに突き刺すべきなのです?」

「とりあえずこの位置に柱、だな……こういうのは本当なら鉄柱とかのほうがいいのか?」

「鉄筋コンクリートはこの世界ではちょっとたぶん無理なのです。コンクリートを作ることはできるかもしれないのですけど。魔法を使うとです」

「魔法で……コンクリート……素材さえあればどうにかできるだろうけど、その素材がな。なんだっけ?」

「たぶんいろいろなのです。でもわたしはよく知らないのですよ?」

「そうか……」

「ご主人様は知識を集めているのに覚えてないのです?」

「建築系はあまりたくさんは覚えてない。かなり曖昧だ。昔の知識も今はそれなりに引き出せるが、それでも完全ではないし、なんでも全部覚えきったわけでもないからな」


 公也の持つ知識はこの世界の住人よりは遥かに多いし高度なものもある。しかし、覚えている内容自体はそこまで細かく深いところまで突っ込んで覚えていないことも多く、多種多様、浅く広く、一部公也自身が興味を持つことの多かった部分は専門的な部分にも触れていたりするが、それくらいだ。公也の人生の長さを考えればそこまでの含蓄があるわけでもない。それでも知識を求める者、知識を食らう者として結構な量を獲得してはいるが。


「…………大変そうですね」

「……リルフィ? 外に出てくるのは珍しいな」

「リルフィさんなのです? 特にここにお仕事はないのですよ。役に立たないのでそのあたりに椅子でも用意して座ってみているといいのです」

「……メル、一応言い方には注意な。だけどリルフィがここにきてもやることはないぞ?」

「あ、いえ、特に何もやることなく部屋にいるのも不健康ですから、散歩でも……と。その、ごめんなさい、私みたいなのが外に出てきてキミヤ様の邪魔をするほうがお困りですよね」


 アリルフィーラがアンデルク城から外に出てくることはかなり珍しいことである。まあ、アリルフィーラの立場……皇国の皇女であるという事実だったり、そもそも外に出て何かをする用事がないという事情であったり、いろいろなことが絡んでいる。外に出て危険な目に合うと彼女を匿っている公也が困ることになる。普段は部屋で過ごし、家事の手伝いをするくらいで人とのかかわりが彼女には少ない。まず関われる人間が少ないということ。彼女の正体を知っているのは数人、一応公也の関係でありヴィローサたちも知ってはいるが、実質知っているのは公也、リーリェ、クラムベルトくらいでほかの人間はアリルフィーラが皇国の皇女であるという事実は基本的に知らない。一応それなりに貴人であるという事実は何となく察している者もいる。まあそんな彼女に家事手伝いをさせていたりするのがあれだが。

 そしてそういう立場であるため誰かと仲良くするということもあまりない。家事でリーリェたちとは多少仲がいいが、家事を手伝うくらいで普段の会話もあまりない。そもそもこのアンデルク城において会話するような目新しい出来事というのもあまりなく、昔話、家族の話をするほど仲もよくないしそもそもアリルフィーラの場合その手の話は自分の正体に通じるのでしにくい……まあ、リーリェ含む家事する女性陣は彼女の正体は知っているわけだが。あまり情報を漏らしたくはない感じなので話すことはない。

 いろいろな事情もあって基本的にアンデルク城においてアリルフィーラは孤独で寂しい生活を送っている。そんな彼女に時折公也が様子見にくることがあるくらい。一応公也が彼女をこの地に連れてきたので責任があるということでいろいろとそれなりに手を尽くしてはいる。


「いや……まあ、あまり気にするな」

「そうですか?」

「ヴィローサならとやかく言いそうですけど、わたしは別に気にしないのです」

「そういえば、今はヴィローサさんはいませんね」

「ちょっとフーマルにつかせて森に行かせてる。今は作業中だから巻き込むと危ないからな……まあ、さすがに遠くで見てくれるとは思うが」

「やっぱり私がいると邪魔になるのでは……邪魔ですよね?」

「いや、だから気にしなくていいって……」


 アリルフィーラはどうにも自分の立場を気にしている様子である。そのあたりは普段からそうで、どこか卑屈に……わざとそうしている様子が見られる。


「リルフィさんは相変わらずなのですね。あまり絡んでくるならおとなしく引っ込んでるのです。役立たずのお邪魔虫なのですから」

「…………そ、そう……ですか…………」


 メルシーネの言葉に俯くアリルフィーラ。通常ならばひどいことを言われてショックを受けている、という風に見えるかもしれない。しかしアリルフィーラの色々な面を見て彼女のことを知っていれば、別にショックを受けたから俯いたのではなく、今のメルシーネの言葉で少し喜んだような表情をしている彼女を見ることができるだろう。


「………………」


 どこか悪く言われることを喜んでいるような、そんな彼女の性質。公也が彼女に出会ったときも似たような表情をしている場面を見た。あの時は悪く言われるのではなく、殺される場面だったりしていた。いったいなぜそのような表情になるのか。公也としては謎に思い、そして気にかかる。その根源に何があるのか……まあ皇女という立場の彼女は色々と複雑な事情があるのかもしれない。皇国もいろいろあるのだろう。彼女が何者かに頼まれて裏の人間に殺されかけていたりするくらいだし。


「とりあえずどうする? 別にいてもらっても構わないが、特にやることもないし見てるしかできないぞ?」

「役立たずの立場を甘受するのです」

「…………えっと、見ていることしかできないと思いますが、とりあえず……ここにいさせてもらいます」

「そうか。なら椅子だけは用意しておく」


 公也が異空間から空間魔法で椅子を取り出しアリルフィーラの近くに置く。そうしてアリルフィーラが見ている中公也とメルシーネの手によって建築の一作業が再開する。現在は建てる建物の柱を建てている。地面深くまで埋め込み動かないようにする支柱的なものを。公也自身あまり建築の仕方というものは知らないが、知っている知識を使いこれでいいか、これでできるか、いろいろ試しながらどうにか建物を作れるまでもっていく。うまくいくにしてもいかないにしても、なんとかなればとりあえずそれでいい。そんな考えで作業をしている。最悪ダメだったにしてもそれはそれで経験で、どうしてもできないのであればやはり頼みに行くのもあり、ともかくやれることをやってからという考えだ。後で直すことになってもそれはそれでいいとも思っている。何よりこの作業、資材も含め基本原価は零、公也やメルシーネがちょっと苦労するのと作業に時間が費やされること、そして彼らが集めてきた資材が消費されるくらいでお金的な問題もほかの人員の消費的な問題もない。まあ、それはそれで無駄になるものもあると思われるが、それくらいなら問題ない、といった感じである。



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