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城の建築に関していろいと考えていた公也。とりあえず設計に関しては一応受けてはもらえたものの、設計だけというのには頼んだ相手は不満そうな様子だった。まあ、基本的に設計した建築家、その関係の人間が設計した建物を建てるのが一般的だろう。設計をした以上その設計内容に関して設計者が責任を持つ職人的な気質であったり、設計した建物を建てるという建築することによる報酬、賃金など。大きな仕事があるという時点で建築側にとってはうれしいことである。それを設計だけであとは頼んだ側でどうにかする、というのであれば少々納得がいかないというか、気に入らないと思わなくもないだろう。まあそれはそれで設計だけというのも建築する人間の仕事の一つではある。相手が貴族であるということもあって多少不満はあっても文句は言わない。仮に公也が貴族でなくとも一応は受けてもらえた可能性もある。もっとも納得いくかどうか、その仕事を気に入るかどうかなどいろいろな点で相手に不満を持たせることになると思われるが。
「建物の設計図はもらったようなのですけど、資材はこれから集めるのですね」
「ああ。だからお前に運んでもらおうかと」
「資材をなのです?」
「いや、集めた資材は俺が空間魔法で作った異空間の倉庫に入れる。メルには資材を集められる場所、山でよさげな場所を探すための移動を手助けしてもらう」
「どこか当てはあるのです?」
「今のところはない、かな? まあ、人のいない手の届かない山の中を空からあちこち探す感じだ。土は掘ればいいし木材は森を切り開いて集めればいい。石材もいくらか山を切り崩す形でいい。別に場所がこの近辺である必要はないから適当に人の手の届かないどこかから、でいいだろう。あとは一番気にかかるのが金属資材、鉱石、鉱床、鉱山、そのあたりをどうにか探せればいいかと思ってる」
「空から探せるものではないと思うのですよ。でも探すというのならわたしもてつだうのです」
メルシーネに乗っていくのであればワイバーンよりも移動速度は速いし体力的にもメルシーネのほうが長く空を飛べる。公也と同格、同等……本当の意味で同レベルの強さを有するわけではないものの、基本的な強さは公也と同等でありそれゆえに一日動くだけならば公也とほぼ同じだけの活動能力を彼女は持つ。なので様々な活動をするうえでメルシーネに手伝ってもらうというのはかなり仕事がはかどるということを意味する。
「…………キイ様、また出かけるの?」
「……ヴィラ。悪い、留守番を頼めるか?」
「ええ、もちろん。キイ様の頼みであればもちろん。でも、さすがにここしばらくずっとというのは少し寂しいです」
「……埋め合わせは考えておくよ」
ヴィローサはここしばらく公也のそばにいない状態で生活している。別に通常ならば日常的に常にそばにいなければならないということはないのだが、ヴィローサはそのあたりずれて歪んでねじ曲がった精神性を持っている。公也のために、というのであればどれだけ過酷でも辛い生活でも構わないところであるが、やはり想う相手がそばにいないというのはなかなかつらい話。しかもここ最近はずっと公也は城から出ずっぱりである。一応ある程度城にいた期間はあるが、それでも城にいない期間のほうが長くなっているだろう。
もっとも現状城を作るために必要なものを集めるという以上の目的はなく、城づくりに取り掛かればしばらくはアンデルク城に残ることになるし、それが終わった後現状やることは多くない、また領地持ちの貴族として領地を人の住める形に整えることなど、いろいろと城近辺でやることも多い。人も増えたし、フーマルに対して師として教えたり導いたりもしていない……まあそれはもともとからだろうか。
ともかくこの近辺でやるべきことが多い……ほかに行ってやりたいことが特にない。もともと旅自体新たに知識を得るため、という目的のもとで行うものであって何も意味がないのに旅をするわけでもない。人材集め……に関してはそもそもその人材を活用することができる状況になってから集めるほうがいいだろう。ただでさえアンデルク城には特にやるべき仕事もない不労所得状態の人材が少ないにしてもいる。それらが活動できる環境をそろそろ用意してやるべきだろう。そういうことでアンデルク城、およびアンデール領の発展のための活動を公也は行うことになる。なのでその間はヴィローサの望み通り公也のそばにいることができると思われる。
まあ、それと埋め合わせは少々別物といえるかもしれないが。
「ご主人様、その前にとりあえず仮住まいでいいのでワイバーンたちの厩舎を作ってほしいのです」
「ああ、そういえばそういう話もあったな。とりあえず収容できるだけの大きさがあればいいか?」
「それで問題ないのです。命令はわたしの方から指示するので大丈夫なのです」
厩舎に関しては簡単に寝床とできる場所、ワイバーンを入れることのできる入り口、雨や風を防ぐことのできる屋根や壁、一応日光を取り入れられる窓などもあったほうがいいがとりあえずは簡単に作るだけでいい。それならば別に木材など必要とせずとりあえずの形を作ることはできるだろう。魔法で形を作るだけならば基本的にかなり楽である。もっともワイバーンたちが住まうということでどうしても耐久力の問題はある。入るときに少し引っかかるだけでも結構ごっそりと耐久力が削られることだろう。つまり簡単に壊れやすい。仮住まいということなのだから多少壊れやすくてもいいかもしれないが……まあ、壊れないようにある程度余裕をもって広く大きくしたほうがいいだろう。
「あ、でもメルは俺と一緒に行くからその間は……」
「わたしがいない間のことはヴィローサにお任せするのですよ。できるのですよね?」
「ええ、もちろん……それがキイ様のためになるというのならやりましょう。メル、あなたの言うことに従う形になるのは少々気に入らないけどね」
ヴィローサがじろりとメルシーネを睨む。メルシーネの方は特に気にしていないがヴィローサの方はメルシーネに対し若干敵対的な様子を見せている。なんというか、仲が悪い……とまではいかないが性に合わないといった感じなのだろう。まあその理由としてはヴィローサが公也にぞっこんでありいきなり公也のそばに降って湧いた従者が気に入らないというのが大きいのだろう。ペティエットは気にならないのか、といえば気になるとはいえあちらは自由性が低い。メルシーネは普通にずっとそばにいられるうえに便利に使えるのでかなり利用価値としては大きいだろう。ペティエットの方はペティエットの方でいろいろと価値はあるが。あちらはそもそも城、公也が帰ってくる家であるためそういう意味ではメルシーネ以上の価値があるといえる。はっきり言ってヴィローサは公也にとっての価値は特別必要とする存在ではないという点では低いと言わざるを得ないかもしれない。だからこそ焦りのような感じでメルシーネに敵対的だったりするのかもしれない。
まあ、公也が受けいれた相手を放すことはしないのでその点は心配する必要性はないのだが、ヴィローサも公也の心根まで見通せるわけではないので精一杯捨てられないようにいろいろ頑張っている、努力しているのだろう。その精一杯がこういう形で表れているというだけで。
「とりあえず、厩舎を建てるか」
魔法を用いてワイバーンの厩舎を建てる……仮のものとはいえ、雑で適当であるとはいえ、これもまた建築経験の一つである。これを城扱いの館を建築するための練習とするにはとても心もとないものであるが、少しは役に立つ経験になる……かもしれないと希望を抱きながら公也はメルシーネに頼まれた通り、ワイバーンたちの仮の厩舎を作り上げた。




