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城を作る。それは誰がどう考えても重作業である。少なくとも通常一人でできるようなものではない。城を作る場所の土台作り、整地、城という建築物を作るための基礎作り、そして建築物としての城も通常の建物以上に大きな物であり建てるだけでも大変作業だろう。また城を作るうえでの目的の違いも重要になる。現在のアンデルク城は砦風な城……武骨な戦闘向けの住む以上の目的には使われない城、と言った感じの城である。別にそこまでアンデルク城に求める機能というものはないので別に構わない点ではあるが。
大きく作る、というだけならば単純に砦の規模を大きくするだけでいいだろう。しかし、アンデルク城はこれからアンデール領の中心的な部分となる。いずれは人も来ると思われるし客も来るだろう。もっとも場所が場所、アンデルク山というかなり過酷な場所にあるため人が来ると言うのも簡単な話ではない。人が住むにもまずすむ場所を作らなければいけない。まあ、それを行う上でも城を中心として、だが。ともかく単純に増築する、大きくするというのはどことなく物足りない感じである。内部には今の所雪奈の経営する宿を作るつもりではあるし、街をつくるにしても人がいない現状アンデール領にいる人間がほぼすべて住むアンデルク城をしっかりとした場所としていろいろな機能を持たせたい、理由としてはいろいろあるがつまりはアンデルク城を立派な多機能多目的なお城にしたい、ということである。
元が砦風な城であるためそれを再構築すると言っても簡単ではないだろう。中心地点である砦風の城はまた別の形に直すとしてその部分を土台に付加、接続するような形で作っていくのがいいかもしれない。ペティエット、城魔がどういう形で構築すれば作った城を自分の体として認識するのか、それに関しての検証もする必要がある。仮に接続する形で作ればいいだけならかなり城づくりは楽になることだろう。その場合接続して自分の城として認識した後砦の方を解体した場合どうなるかも気になるところかもしれないが、ペティエットの生死にかかわるのならば無理はしないほうがいいだろう。
ともかく、城作りをするにしてもどういう城にするのか、仮に城を作り変えるにしても増築するにしても作る城次第とはいえ結構な資材が必要になり城を作るための人手が必要になり、それに必要な資金の問題も出るし城を作るための時間の問題もある。そういった点においてアンデルク城は他の地域よりもかなり条件が悪い。場所的に人が来ることのできる場所ではない。土地に関しても山地、山の上である。立地的に悪環境と言ってもいい。まあそのあたりに関しては公也やロムニルなどの魔法使いが魔法によって環境を整えることでどうとでもなる可能性はあるが。しかし地面、山地である部分は多少解消できても結局来やすさという点は厳しいが。それも公也ならばある程度は解決できる。ワイバーンもメルシーネに寄って言うことを聞かせられるしメルシーネならば人を運ぶのもかなり楽になる。とはいえ、それでも来たがるかどうかは別だしワイバーンやメルシーネに運ばれることを良しとするかもまた別の話。結局来てくれるかどうかはまた話が違う。
そのあたりのことに関して公也はクラムベルトと話し合いをする。
「……はっきり言って難しいかと」
「まあ、確かに場所が悪いからな……一時的に来てもらう、という形でも厳しいか」
クラムベルトに相談してもやはり難しい、という話になる。クラムベルト自身そういった方面の知り合いはそこまで多くない。知っている相手にしても通常の建築ならばともかく城づくりとなると……ちょっと難しいかもしれない。城を作ると言うのは大作業であるしそう年に何度もあるとかいった事業でもないだろう。少なくとも現状公也の住んでいるアンデルク城、アンデール領地が属するキアラートにおいてそう城づくりということが行われる機会はほとんどない。そもそも各領地で城を作ると言うこと自体そうないだろう。城というよりは館の方が建築機会は多いと思われる。キアラートにおける城づくりは王都の王城くらいだろう。
「なら、こちらから行く分には問題ないか?」
「……とりあえずは問題はないと思います。ですが話を聞いてくれるかどうかは別でしょう」
「ああ、単純に設計だけでも頼めればいいかなと思ってる」
「……設計だけですか?」
「城づくり自体に必要な労力は俺が魔法でどうにかする」
「いや、それはどう考えても無茶だと思いますが……」
公也の魔法は確かにいろいろなことができる。しかし魔法を用いて一人で城づくりを行うと言うのも実に無謀な手法だろう。
「そもそも資材の問題もあるからな。城作りに必要な物品をまともに買おうとすればまずお金が足りない」
「当たり前です。領地を経営しているとはいえ人もいない、税収がない、今必要な資金として動かせる財産は国からアンデール領に支給されている資金以外ではアンデール様の持っている資金しかありません。その資金で城を作れるとは到底思えません」
城作りは国家事業とまではいかずとも、領地における一大事業と言える。必要な資材を集めるだけでも大金が動くことになるし、建築を行う人員もまた雇用の維持にかなりの費用がいる。食料などの生活に必要なものもあるだろう。それらを総合して必要な資金を考えるならまず今の公也の持っている資金では絶対に足りていない。いくら公也があまり無駄にお金を使わない、結構いろいろな冒険者の仕事をしてお金が余っているにしても、それでも足りない。それくらいの大事業が城作りだ。
「だから一人で作る」
「いえ、それは流石にどう考えても無理だと思いますが……」
「どういう形にすればいいかさえ分かっていればある程度はどうにかなる……それが本当の意味で正しい城として成立するかはわからないが、そのあたりはこの城がそもそも城魔であることを利用すればいくらか無茶なことはできるだろう。魔法陣による補強とかでな」
「そこまで魔法は便利で万能な物ではないと思いますが」
「まあ、一度やってみるだけやってみてもいいだろう。どっちにしてもお金も人員も足りていない。時間は特にやるようなこともなく余っている。それなら城作りで暇を潰すくらいはいいんじゃないか?」
「そこまでやると言うのであれば……まあ、私の方からは特にこれ以上は何もいえません。ですがこちらで管理している資産は動かせませんので」
「それは構わない。俺の資産という扱いになっている貴族側の資産に関してはそちらに問題ない管理を任せる」
公也の持っている資産、貴族、アンデールとしての資産はクラムベルトに管理を任せている。貴族に関する事柄は公也はクラムベルト任せだ。少々任せきりにするのはどうかとも思われるが……そのあたりクラムベルトはまじめで裏で何かを企む様子も見せない。まあ、彼は一応国側から送られてきた人材でその能力、人柄は保証されているのだろう。裏で動けば監視としての役目を果たせなくなる可能性もあるゆえにそういったことはしない可能性が高い。また、公也はこの城、城魔であるアンデルク城における監視能力にも自信がある。ペティエットによる城にいる存在の監視はかなり監視性能が高い。ペティエットがずっと城内部のすべてを見張っているのだから。それもまた城を大きくすればもっと性能が上がるだろう。それも期待できる、様々な能力の追加、魔法陣のさらなる追加、いろいろな物を期待し公也は城を大きくするつもりである。
※前々から話のあった建築。今回の章のメインとなる内容。
※常識的に考えて城作りを行う建築家ってそうはいない。そもそも主人公のいる場所の立地上簡単に人を雇うのも難しく城作りとなると期間だってどれほどのものになるか。
※主人公は基本的にお金を使う人間ではないし冒険者として仕事をして素材も集め貴族の給金だって一応もらっている。しかしそれでも城一つ作るにはお金は足りない。流石にそんなに安く城が作れるとは思えない。
※ぶっちゃけ形だけならば土の魔法で作るとかできなくもない。ただ魔法で形だけ作ってもその後の安全安定が問題視されるし強度の問題とかいろいろとちゃんと建築するよりも劣化は速いし耐久性なども低い。一時的に使うならばともかく今後ずっと使うような城を魔法で作るのは厳しいものがある。




