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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
六章 竜谷異変
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10


 ぱちり、と竜少女が目を覚ます。


「…………はっ! ここはどこです!? あ、お兄さん…………あっ、えっと、その、さっきはごめんなさいなのです!」

「……ああ、うん。あんまり気にするな」

「いいえ! 気にしますですよ! 生まれたばかりとは言え、わたしはそれなりに優秀なのです! なのに生まれたばかりでやばい気配があるからって、本能のまま暴れるのは良くないのです! しかもそのまま本能のまま行動し続けるなんて余計に! 人の姿をとれるのですから人らしく理性的な活動をとれなければいけないのです! あんな乱暴で自分勝手で敵でもない人に襲い掛かるなんて愚の骨頂なのです!」

「そ、そうか……」


 先ほど暴れていた彼女の行動に関して彼女自身悪いこと、と思っているようだ。実際あの時の彼女は今の彼女のような理性がなく、ほぼ本能だけで行動していた。人の姿をとるようになった後も本能のままで実に理性のない愚かしい行動だったと言えるだろう。


「それで……お前は一体なんなんだ? 生まれる際にもこの谷の生物から生命力を奪ったり、地脈の流れを通じて力を吸収したり……」

「それに関してはわたしも悪いと思うのです。でも、この世界で私が生まれるのにはあれだけの力が必要とされたのです。しかも場所的な問題もあったのだと思うのです。この谷でなければもうちょっと別の手段が使われていたのかもしれないのです。わたしが意図的にああしたわけではないので許してほしいのです。ごめんなさい」

「いや、俺に謝られても困るんだが……」

「そうなのです……でも、個々に謝りに行っても理解されないと思うのでここであなただけに謝っておくのです。それで、わたしのことですが。わたしは……この世界においては認知されるようなものではないと思うのですが、<仕え魔竜>と呼ばれるそんざいなのです。竜の一種と言えば一種なのですが、少々特殊な存在なのです」

「……仕え魔竜」

「そうなのです。わたしたち仕え魔竜は祖たる始原の竜、天の祖たる竜より生まれしものなのです。まあ、言ってもわからないのですが……それにしても、あなたからは懐かしいような感覚がするのです。何か特別なものをもっているのですか?」

「……特別なもの、といわれてもな」


 色々と教えてくれるのはありがたいものの、竜少女の言葉は公也でも理解の及ばない範囲だ。そもそも竜少女の言うこの世界、という発言もあって彼女は本来この世界に由来するものではない可能性もあるだろう。公也のような異世界由来の存在、彼女が懐かしい感覚、特別な物、というのはその異世界に関しての何かがあるのか……あるいは公也の持つ特殊な力、暴食、それに関しての何かかもしれない。


「……それに関しては秘密にしておく」

「そうですか……それはしかたないのです。ええっと、ところでここはどこなのです?」

「ワイバーンの谷……っていうか、理解しているわけじゃないのか?」

「一応は場所として、地脈からの力の流れで雰囲気的な理解はあるのです。でもここがどこなのか、というのがはっきりわかっているわけではないのです。そもそもわたし生まれたばかりなのですよ?」

「ああ、そういえばそうか……」


 竜少女はこの世界に生まれたばかりの存在。そもそもいろいろなことに理解が及んでいるはずはない存在だ。


「こういっては問題なのですが、わたしは仕え魔竜なのです。他者に仕える魔竜、つまり従者メイド召使、誰かに使われることが私の本分なのです。使い魔みたいなもの、なのです。仕え魔ですけど」

「……何か違いがあるのか?」

「ご主人様のお世話をして、守るために活動するのです。祖は<仕え魔竜>で<守護魔竜>なのです。わたしもそういった感じで誰かに仕えて自分の役目を果たすのが仕事、いえこれは生きがいというか、わたしの生きる意味なのです! でも、誰でもいいわけではないのです。私にも選ぶ権利があるのです! そういうことでよろしくお願いしますなのですご主人様!」

「………………はい?」

「わたしに勝てるあなたを私のご主人様と認めるのです。よろしくお願いしますなのですご主人様」

「………………」


 あまりにも唐突すぎる少女の発言に公也は言葉が出ない。かなり戸惑っている感じである。


「いや、なぜそうなる?」

「わたしは色々と危険なのです。場合によっては世界を滅ぼせるくらいに強いのです。それを御せる人じゃなきゃ簡単に仕えちゃいけないのです。でも、生まれた以上しかたがないなー、という思いもあるのですが、今回はちょうどあなたがきたのでよかったのです」

「…………たしかに強かったが」

「本能の行動であれだけ強いのです。今の私はもっと強いのですよ? それを押さえつけて言うこと聞かせられるくらいの強さがいるのです。ご主人様ならそれくらいできるのですよね?」

「まあ、さっきのようにできなくもないだろうけど……」

「それにご主人様、なんか懐かしい感覚があるのです。同胞というか、近い感覚なのです。だからご主人様のこと結構好きなのですよ!」

「……出会ったばかりなのに?」

「運命なのです!」

「そうか…………」


 公也としては正直困った、と思わなくもない。ただこのままこれを放っておくのはどうなのか、と思うところでもある。竜少女の言う通り彼女は公也でもけっこう戦うのが大変な存在だ。まあ殺していいのならば幾らでも対応策はあっただろうし、この世界でも倒せる人間はいるだろう……しかし、脅威度でいえば公也の戦ったドラゴケンタウロスよりも上だ。これはあくまで強さの点での脅威度であり本人は理性的でそういった暴走や凶暴な危険性はないものの、だからといって安易に野放しにしていい物でもないだろう。これが他の国にわたりそこでその力を振るうことになれば公也たちにも脅威になり得る。

 だから公也としては下手に放置して余所に行かせるより自分の所の預かりにした方がいいだろうと考える。何より公也自身彼女を殺すのがもったいないと感じていたというのもある。だからこそ生かした。そしてその結果彼女は自分に仕えると言っている……恐らくは彼女の懐かしい感覚というものと、公也に殺すのがもったいないと訴える本能的な感覚は近しい何かのある物だろう。それがこういう形に結末を導いたのだからその結末に相応しいように進める方が都合がいいのだと思われる。


「わかった。ただ、ちゃんと言うことは聞いて大人しくしてくれるならいいぞ」

「もちろんなのです! 誠心誠意、わたしはあなたに仕えるのですよ! あ、えっと、その、なのです……わたしあなたの名前を聞いてないのです。あと、わたし今生まれたばかりなので名乗る名前がないのです! あなたのお名前を教えてくださいなのです。そしてわたしのお名前を決めてほしいのです! 名づけは仕え魔が使える主から受ける大きな貰い物なのですよ!」

「……また名前を付けなければいけないのか」


 かれこれ名前を付けると言う行為は公也にとって三回目……なんとなくその流れ自体にはなれた感じである。まあ、簡単に名前を付けろと言われても困るのだが。人に名前を付けると言うのは意味や由来、その存在に望むものなどを考慮してつけなければならない。意外と大変なことである。


「とりあえず、俺は公也・アンデール……この世界ではそういう名前になった」

「わかったのですご主人様!」

「名前呼ばないのに名前聞く意味はあるのか?」

「知っているのと知らないのは全然違うのです! ご主人様の名前も知らないとかありえないのですよ! それに名前の交換というのも結構重要なのです!」

「そうか……とりあえずお前の名前に関しては、今すぐつけろと言われても困る。とりあえずここじゃなくてもっと落ち着ける場所に行ってから決めるってことでいいか?」

「わかったのです!」


 竜少女は素直に公也の言葉にうなずく。まあ、彼女は主に仕える魔竜として、主の言うことには基本的に従順。既に公也に仕えることを決めその意に従うことにしている。それが頼みであれ、命令であれ、素直に言うことを聞き従う。

 そうしてそんな少女を連れ、公也は山に下りる。ワイバーンの谷の様子を改めて確認し問題ないかどうかを調べ、オーガンとも合流するつもりだ。


※○○です口調でキャラ付けされている。

※今回の事変は彼女が生まれるために必要な力を収集した結果であるが別にそれは意図的なものではない。ある意味では事故のようなもの。また場所がワイバーンの住みやすい、地脈的に竜に適正が高い地だったということもあった結果でもある。

※<仕え魔竜>。元々は単純に<仕え魔>とされていた竜だったが創造主の能力改良により徐々に格上げされ成長した結果<仕え魔竜>となり、最終的に現在は<三王姫>の一人、<桜>の<紋>を持つ存在としてあらゆる世界における竜種の起源という扱いを受けている。この竜少女はその存在の<紋>、力の一部を持っておりそれとほぼ同種に近い状態になっている。

※竜少女は創造主の力の一つの眷属みたいなもの。一方主人公は創造主から派生する神の敵対者たる邪神の力を受けし存在。懐かしい存在という理由はそこにある。また彼女が発生し主人公が近づいたときに生まれ敵対した理由もそこから。しかし神も邪神も本質的には創造主の力であり、両者とも同じ起源から派生する分野の力を有する。なお立場上竜少女よりも主人公のほうが格上。(創造主-神-三王姫-竜少女:創造主-邪神-主人公 という形での力の渡り方ゆえに)

※仕え魔は仕える存在だからこそ仕え魔と言うのです。懐かしい者を感じる同胞だからこそ仕えるのもいいかな、と思わなくもない。

※また名前つけなきゃあかんのか……いや、多分これで最後。今後登場予定キャラに名前を付けるキャラはいないはず……

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