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ちょっとした騒動が冒険者ギルドで起きたが、それに関してはすぐに解決し問題なくなった……同時に冒険者ギルドにいた多くの冒険者は公也の実力を見て、相応にその実力を意識することだろう。とは言っても、そもそも公也は積極的に誰かを害するつもりはない。自分を襲ってきたりすれば相応に対応するし、見えない場所ならばそれこそ暴食を使い殺してしまうこともあるかもしれない。必要ならばそれに応じて殺すことに躊躇しない。それは最初に魔法使いの女性を食らったことからもわかるだろう。
まあ、何かあるかもしれないといちいち気にしても仕方がない。公也はこれから冒険者として活動する。その様子を見ていれば、公也がどんな人間か……恐らくわかるだろう。と、そうして話が進む前に、騒動のせいで忘れかけていたが、公也に懐き掴まっているフズと名前を付けた警戒烏を冒険者ギルドで飼っている鳥として登録する。これをしておかないと警戒烏の扱いの関係で面倒になるからである。
ちなみに、警戒烏は冒険者が公也の前に来ても鳴かなかった。あの冒険者は明らかに公也を害するつもりがあったというのに、一体何故か? 答えは妖精であるヴィローサの迫力に恐怖していたから、である。というか、それは警戒烏がヴィローサと会った時点から続いている。なので途中で一切鳴いていない。本来の役割すらできずに掴まっているだけなど怠慢であり、随分と精神的に弱い物である。まあ、恐怖している相手がヴィローサだから、だろう。ヴィローサは毒の妖精でありフズを殺すことは容易にできる存在、そして公也を妄信し、その近くにいる存在に敵意をむき出しにする。それはとても怖い。悪影響が大きすぎる。現在はまだ鳴けないが、側にいる期間が長くなり、ヴィローサの恐怖に慣れてくればそのうち警戒烏が鳴くようになるだろう。まあ、警戒音の鳴き声はともかく普通の鳴き声はヴィローサがうるさいと言ってきそうなのでフズもあまり鳴かないようになるかもしれないが。食事が欲しい時とかは鳴くだろう。
と、まあ、そんな感じで公也の冒険者生活が始まった。ちなみに泊まる宿は元冒険者の盗賊…………ではなく、魔法使いの女性の知識にあった宿にした。これは元々の稼ぎ、安全性などの都合で泊まる宿の良し悪しが明らかに違うためである。
冒険者としてはいきなり騒々しいスタートを切った公也であるが、冒険者としての仕事は基本的に張られている依頼を受ける形で適当に仕事をしていた。基本的に冒険者と言えば、魔物退治などそういうわかりやすく力を示せる依頼を受ける事が多く、それにより毎回新人にそれなりの被害が出るわけだが、そういうことが起きるのも冒険者としてはよくあること、そういう経験をすることもやはり新人にとっては重要な経験なわけである。ともかく普通の新人はわかりやすい魔物退治の依頼を受けることが多い……のだが、公也はそうではなかった。公也は適当に依頼をとり、街中で出来る仕事を受けていた。
冒険者を殴って吹き飛ばすだけの力があるのになぜ魔物退治の依頼を受けないのか。自分の力に自信がない、冒険者になったのは他にできる仕事がないから、とかそういった理由ならばまだわからなくもないが、公也には明らかに十分以上の力がある。後に多くの冒険者が把握することであるが、魔法を使えることも分かる。さらには妖精がついており、警戒烏という存在も飼っているのになぜ街の中で仕事をするのか?
「あら、悪いねえ。腰が痛くてね……」
「いえ。仕事ですから」
「これ、もう生えてこないようにした方がいいんじゃないの?」
「流石にそれは問題だろう……雑草以外も生えなくなると問題になる」
「それもそっか……」
例えば草むしり。ざっと簡単に草むしりをしつつ、暴食で草を食らいその情報を蓄積。ヴィローサの毒の力があればすべての草を枯らすことが容易であり、以降雑草が生えないようにもできるが、さすがにそこまでするのはあまりにも乱暴で、雑草以外にも被害が出る危険があるので流石に止める。それにこの依頼は人によっては小銭稼ぎ、実力のない初心者や街の外に出ることのできない人物が稼ぐのに使える依頼であり、以降この依頼が出ないようにするのはあまりよくないだろうとも考えている。
「これを全部あそこまで持って行ってほしいんだ。ついでに片付けてくれれば言うことねえな」
「わかりました」
「……私、たぶん持てない。キイ様を手伝えないわ」
「運ぶ以外のやり方で手伝ってくれればいい」
例えば倉庫の片づけ。物を運ぶ力仕事は公也であれば十分に可能である。ヴィローサはその手の仕事はできないが、単純な目録のチェックや、簡単な分類分けなど運ぶことに直接かかわらない間接的な部分で働くことはできる。それを公也はヴィローサに頼み、任せることにした。彼女は公也だけが働いて自分が何もしていない状況は死にたくなるほど苦痛であるから。
「これね、毒草と食用の草が混じってね……いや、徹底的に調査すればわかるんだけど、時間が足りなくて……」
「フズ」
「カアッ! カアッ! クォアッ!」
「これが毒草か」
「ああ、警戒烏がいるのねえ。便利だわ」
「…………烏に負けてる。毒なら私だって……」
例えば毒草と食用草の見分け。突発的な出来事、事故のせいで混ざってしまった食用草とそれに似た毒草を分ける仕事。少々急ぎでどうしても冒険者を頼らざるを得ない状況になり、同時に報酬もあまり出せないということで受けるような人間がほとんどいない状況だったが、公也が受けることになった。警戒烏はその毒の有無を何故か判断できるので実に楽だった。ヴィローサも毒の妖精であるので毒草の判断はできる。
「流石にちょっと面倒だな……フズ、ヴィラ、頼めるか?」
「カアッ!」
「烏にもできるなら私にもできるわ。キイ様、しっかり探してきます!」
例えば迷子の子猫探し。子供の依頼ということでとても値段は安く、それこそ冒険者に依頼するより自分で探したほうが速いし楽だという依頼。何の酔狂か、それを見つけた公也がそれを受け、ヴィローサとフズの移動能力と観察能力を利用し探すことになった。なお、一日かけて探し出し、子供へと引き渡した…………のだが、その二日後また同じ依頼が出ていたりする。よくあることで、自分で見つけては依頼取り下げをして、冒険者が見つけては再度依頼をして、の繰り返しで今では誰も受ける者がいない依頼だったりする。
と、まあそんな感じで公也は冒険者ギルドにあった様々な依頼を受けた。雑事の依頼ではあるが、様々な能力を駆使する必要のある依頼ではあった。しかし、一般的な冒険者の受けるような依頼ではないだろう。冒険者とは冒険をする者……つまりは冒険と言ってもいいような危険のある依頼をするのが普通である。公也はそれをしていない。そのためか、最初の公也の姿を見た人間もその姿勢に少し侮る様子を見せていた。
別に公也は危険のない依頼を受けたい、というわけではない。公也の目的は単純だ。公也は知を貪っている。それは経験であり、それは情報であり、それはこの世界のことであり。何があるのか、どんなものが存在するのか、どういうことをこの世界の人間は依頼するのか、どのような職業があるのか。それらを仕事という形で受けた中で観察している。そもそも、公也に冒険者としての仕事を行った経験は存在しない。元々いた世界の性質上当然と言えば当然だが、そういった新しい経験もまた公也にとっては充実した知の貪りである。目的が新しい経験なので公也は一度受けた依頼と同じ内容の依頼を二度受けることはほとんどない。もちろん全くないわけではない。支払われる報酬の良さや、その内容の若干の違い、行く場所の違い、経験する内容が違えばやってもいい。そもそも冒険者としての仕事は名声を得るものではなく金銭を得るためのものであるのだから。
しかし、ずっと街の中で仕事をするつもりは公也にはない。冒険者らしい仕事もまた公也は行う。そう、荒事や魔物退治などの街の外に出て行う危険な仕事を。ようやく公也はそれを行うのである。
※フズ。名前の元はブザーから。警戒音を発する点からその命名に。警報機扱い。現時点においてはヴィローサが近くにいると役立たず。慣れてヴィローサがフズが鳴くことを許容するようになれば警戒音を上げるようになる。
※実際こういう仕事が冒険者ギルドに出される者ものだろうか。割と何でも屋というか便利屋みたいな扱いの冒険者。どんな仕事でも頼めば受けてくれるかもしれないと言うのはそれなりに都合がいいかもしれない。
※街で出来る依頼を先にするのは仕事場所が近いから。順番。




