表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
172/1638

30




「しかし、この宿を持っていくのは流石に骨だな……解体すれば一応物資として持っていくことはできなくもないが、流石にこのまま入れるのは無理だろう」


 寝夢の宿そのものを公也は持っていくことはできない。公也の持つ異空間も物量では宿を構成する物質を入れることはできるがその入り口の問題がある。建物の倉庫などと同じように入口そのものはそこまで広くできない。いや、公也の魔法で無理すればできなくもないと思えるのだが……それはそれで面倒である。かといって寝夢の宿を解体するの手間として大きい。そもそも解体した後戻すのも手間だ。かといって宿をそのままこの場に置いていくのもありえない。相応に物資もあるし建物を無駄にするのはもったいない。


「あ、宿なら大丈夫ですよー」

「大丈夫?」

「はい。宿を建てたのは私なので。だから元に戻すのも簡単ですよー」

「……ふむ」


 化生狸。そんな存在に宿を建てる能力があり、それを元に戻す能力がある……そもそも化生狸という魔物自体公也は初めて聞いた名前だ。その存在に関してかつて食らった魔法使いの知識にも存在しない……もしかしたらあるかもしれないが、かなり曖昧なものだろう。少なくとも詳細な情報があるとは思えない。

 だが公也にとって狸という存在ならばもしかしたらそういうことがあり得るかも、と考えられる。公也のいた世界に化生狸のような特殊な能力を持つ魔物らしい狸という者はいなかったものの、伝承や民話など物語の中ではそのような狸は存在する。狐と同じで化ける力、化かす力を持つ狸。狐が幻の村を作り上げる話など、人や食べ物建物を化かして作り上げる例がある。幸いなことに公也の食べた食べ物は別にそういうものではない。雪奈は自分で山の中食料を集め精一杯のおもてなしで作り上げたのが前日食べた料理である。まあもしその手のものだとするなら、その辺の野良の生き物のものかあるいは雪奈のもの、雪奈のものならばコアな悪食趣味を持つ頭のおかしい変人であれば逆に喜んだかもしれない。公也にその手の趣味は一切ないが。

 まあ、何を言いたいのかと言えばつまりこの建物は雪奈の作り上げたもの……自分で建てた、というのは本当に建物として建てたわけではなく化生狸の持つ特殊能力によって作り上げたものかもしれないと言うことである。


「なら元に戻してもらおう……っていうか元に戻すって、元々は何もなかったのか?」

「そうですねー。骨子になるようなものをちょいちょいと用意して、それを埋め込んで……そこで仮の建物と扱ってそこに私の力で建物を上書きした感じですー。だから元に戻せばほとんどのものはなくなりますねー。中身ごと、わたしが全部回収します!」

「へえ。なら見せてもらおうか。外に出るよな?」

「はい。中でやると元には戻せないかも……もしかしたら雇い主様も一緒に中に入れちゃうかもしれません」

「それは危ない……ところで、俺は公也・アンデール。雪奈の名前は聞いたが俺の自己紹介はしてなかったかな?」

「そうでしたっけー? 宿帳には名前を書いてもらったかもしれませんけど……まあ、いいです! 雇い主様は雇い主様ですから!」

「それで通すのか……」


 公也のことを雪奈は雇い主様で通すようだ。まあ今の所公也は彼女の雇い主という扱いなので別に間違いではないのかもしれない。仮に今後公也が雇い主でなくなれば彼女は公也のことを名前で…………呼ぶのだろうか。そこはわからない。






「さあ! 戻しますよー!」


 公也と雪奈が建物の外に出る。外にはワイバーンもいるが大人しく待っている。そして外に出たところで雪奈は建物の前に立ち、建物を元に戻そうとした。公也はその様子をどうやってやるのかとみている。

 建物は分解されるように、幻であったかのようにするりと空気に溶けていく。さささ、と溶けて消えて、力の塊のようになった何かがその場に滞留し、それが徐々に雪奈に流れていくように集まっていく。雪奈の前でそれらの力は宝珠のように形を変えていき……最終的に宿であった建物は消え、建物を作り上げるために必要だった要素である柱が数本、そして雪奈の手元には宝珠が残っていた。平屋とはいえ結構な広さの建物だったというのにそれが宝珠一個に変わると言うのもなかなか想像できない事実である。公也たちのような魔法よりもさらに異常ともいえる特殊能力……やはり雪奈が魔物と呼ばれるような生物だからだろうか。別に特殊能力を持っていれば魔物というわけではないが、魔物は結構な確率であり得ないような特殊能力を持つ。雪奈のそれもまたそういうものなのだろう。


「……それが建物か?」

「厳密には私の力ですよー。きゅっ、と」


 宝珠を掴みそれを握りこむ。公也の目には見えないがそれは溶け込むように雪奈に吸収されていく。それに伴い雪奈の姿がいつの間にか変わっている。薄い紫色のような髪からぴょっこりと出ている狸耳。人間の耳も残っているが、そちらとは別に生えている。服装はどこか和風チックな服装をしている。そして穴もなにのに服を貫通して出ている尻尾……恐らくは服装も含めて彼女の体の一部なのだろう。だから尻尾が服を貫通している状態になっている……魔物の生態はかなり謎が大きい。太っているわけではないが、どこか彼女の服装は横に大きい。狸というイメージに引っ張られているからだろうか。そこはわからない。


「それが本来の姿か」

「はい。別に隠しているわけじゃないですよー? 宿の人間として、女将として働くならあの格好が一番だからあの格好をしているだけです! あ、でもこの格好になるの大分懐かしいですねー」


 数十年ぶり……一応数十年は本人が否定しているが、結構な年数がたっているのは間違いないだろう。その間彼女はずっと宿の中にいる時の姿のまま、宿の従業員としての姿のままだった。今のような化生狸の本来の姿はとっていない。本来の姿が懐かしいというのもまたなかなか珍しい話だろう。


「これで別の場所で建物に宿を上書きすれば問題ありません。また宿を経営できますー」

「そうか……まあ、上書きできるかはわからないが……予定の場所がだめなら外に建物を新たに建てるしかないか……」


 城のことも含めやはり大工のような人材が欲しい所、と公也は思った。自分で出来れば一番だが自分でやるのもなかなか難しいだろう。あるいは大工の知識を持たずとも作ろうと思えば魔法を利用しながら普通の建物とは違う形で建てることができる……しかしそれではだめだろう。やはり正しい知識を学ぶ必要がある。暴食を使えば容易であるがそれを行うのはあまりよくない。そうやって知識を得るのはできればあまり日常的な行使はしたくない。まあ普段から力を使っているので今更な話だが、悪人や殺すべき相手、倒すべき相手などに使うのではなく善良な一般人に力を使うのは可能な限り避けたい。倫理はあれだが人殺しが好きなわけではない。絶対に必要ならともかく、自分で何とかなるうちは自分で何とかする、そういう方針だ。


「雇い主様ー?」

「ああ、とりあえず……戻るか。いや、まだ旅の途中だったんだが……でも畳ませちゃったしなあ」


 今後雪奈を連れて旅を続けるか、雪奈をアンデルク城に戻すか。本来ならば戻すのが一番正しいだろう。人を連れて旅をするのは大変だし雪奈には宿を畳ませた。彼女の使命ともいえる宿の経営を止めさせて連れまわすのは彼女的に不満が生まれることだろう。アンデルク城に連れて行き宿の経営場所を決め、そこで一時的に経営してもらうのがいい。そう考えているところに公也の元に連絡がきた。


「……遠話の魔法か。ここで通信が入るとはな」


 ある意味タイミングがいい、ともいえる。連絡の内容が何であれ少なくとも公也に意見を求める、あるいは公也自身を必要とする急な案件である。つまりそれはアンデルク城に戻る必要がある可能性が高いと言うこと。雪奈という存在がいる以上戻らざるを得ないがこれで余計に戻る必要性ができる。少なくとも雪奈を連れての旅をすると言うことはあり得ない、公也自身も戻らなければいけない状態になるのだから。



※雪奈は魔物としてはかなりの強さを有する魔物。宿の経営を行っている間は宿に自分の力を費やしているためあまり強くない。本来の強さであれば魔物としてかなり厄介なものとなる。さらに言えば宿を作ることにしか使っていない力だがそれをそのまま攻撃や補助に使えば厄介極まりないものだったりする。彼女が宿を経営して生きることを決めたことは人にとってはかなり幸運な出来事だったと言える。

※ちなみに雪奈はサブのヒロイン扱い。メインとサブの違いは……六章で一度キャラ登場のラッシュが終わってからで。

※主人公はいろいろ知識を仕入れているが自分の趣味優先なため広い範囲の知識はあまりない。そもそも彼が知識を得るのをはじめてから一応普通の生活を行う範囲で得られる知識、常識的に入手できる知識の範囲を考慮するとどうしても持っている知識に限度がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ