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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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「おはようございますー! どうでした! 快適でしたー?」

「……まあ、居心地は良かったよ」


 そういう公也は何処か疲れた様子である。一応雪奈相手にかなり警戒していたためゆっくり休むと言うわけにはいかなかった。いかに安全そうに見えても相手は魔物、それも宿を経営すると言う特殊な魔物……ある種城魔に近いような特殊性を持つ魔物である。そんな相手に警戒しないでいるということはまずありえない。なのでずっと部屋で寝る時も警戒状態で寝ていたのだが…………別に雪奈が何かをして来るようなことはなく、そして寝心地自体は快適だったと言う状態だ。まあやっていることの都合上安眠というわけにはいかなかったわけであるが。

 そして部屋で過ごすこと以外、食事の提供に風呂場の提供も快適な物だった。一応風呂場もある当たり宿泊施設としてはそれなりなのかもしれない。この世界の宿だと風呂場がないような場所もある。なのでここの設備は十分……平屋とはいえ大きさも広さも十分であり、雪奈一人で経営していると考えれば宿泊できる人数を考慮すれば十分以上の仕事であると言える。

 もっとも現在の所公也が初のお客でそれ以外のお客が来るような可能性はないと言っていいような状況、場所にあるわけだが。


「何か問題ありました? 次のお客様のためにぜひとも改善解決をしていきたいんです!」

「……問題か。最初に行っておくが、そもそもこんな場所に宿を立てていると言うこと自体結構な問題だと思うぞ?」

「えー? そうですかー?」

「そうだ。人が来ないんだからそもそも次のためにって言ってもしかたない。根本的に場所を移す必要があると思う」

「うう、場所を移すですかー……ちょっと、それはそのー」

「やっぱり自分が魔物だからか?」

「まあ、そうと言えばそうですねー。できれば故郷付近で誰かのためになるようなことをー、ということでこんな宿をやっているわけですがー。やっぱりお客様は来ないですかー。そうですかー…………」


 しょぼん、とちょっと気落ちした様子の雪奈。雪奈自身そのことを全く考慮していないわけではなかったのだろう。しかし考えたくはなかった……雪奈自身の諸々の問題もあったからだ。できれば人のために働き安心安全ゆっくりゆったりできる落ち着いた癒しの空間を、安らいでいられる幸せの空間を。魔物という立場であるが彼女はそういう考えを持ちそのためにこの場所を設け人のために休息できる場所、宿を提供しているのである。だがそれをどれほど人間が考慮してくれるのか……場所を移さなかったのはそういう点も無意識のうちに考えていたからだろう。だからこそ、人が来ないこんな場所で宿を提供していた。だr目行いことは半ばわかっていたと言うのに。


「はっきりお客さんに言われちゃうと辛いですね」

「……言わないほうが良かったか?」

「いえー。言ってもらってちょっとすっきりした感じです。でも……やっぱり私としてはこういった宿の提供をしたいです。なので! 改善点を!」

「ここでずっと宿をしていると?」

「はい! そうするつもりです!」


 彼女はこうやって宿をしてお客のための、来た人のために癒しの空間を提供することをやめるつもりはない。それだけはブレない。彼女は宿を経営するための生き物……本人は化生狸と自称しているが宿の魔物と言ってもいいくらいである。まあ宿が本体ではないので宿魔、城魔の一種みたいな感じではないのだが。


「誰も来ないのに?」

「お客様みたいに誰か来るかもしれません! それまで待ち続けます!」

「……俺が来るまで何年もあったのに?」

「うう、そういわれると厳しいかもしれませんねー…………」


 仮に山の中でこんな怪しい宿を見つけたならば……まず近づかないほうが多いのではないだろうか。いや、冒険者ならば近づいてどのような場所か調べるだろう……つまりこの場所に来るような冒険者は基本的にいないと言うことだ。そもそも国境に使われるような超えるのも難しい山脈沿い、山脈中の山の深い場所にある宿、そんな場所に人はめったに来ない。何年待ったとしても簡単に人が来ると言うことにはならない。いずれはもしかしたら人が来るかもしれないが、この世界で公也のような例外がくるまで十年以上も経っているのにそこからさらに人が普通にくるようになるまでどれほどの時間が必要か。


「でも、それでも私は宿をします。それが私の使命なのです!」

「いや、俺は辞めろと言っているわけじゃないんだけどな……提案がある」

「はい? 提案ですか?」

「あああ。この宿を移設すると言うのはどうだろう。今のように人が来ない場所じゃなくてもっと人が来る場所に。まあ、今の所来客と言った存在はほぼいないんだが……いずれは来客が増えると思う」

「移設ですか……今まで考えたこともなかったですねー」


 公也が言う移設……宿の移動に関して。どこに移動するかと言えば当然公也の治める領地、お膝元のアンデルク城である。現状公也が考えているのはアンデルク城内に宿屋施設を置くことである。宿として使うのもいいし、雪奈にアンデルク城内での仕事を任せられる……料理やら家事やら、雪奈ができることはアンデルク城内にいる女性よりも多い。一般家庭という点ではアンデルク城内にいる人物ができることでも十分だが、やはりしろとしてはしっかりとしてた施設、能力が欲しい所である。雪奈一人だけとはいえ勧誘できればかなり大きい。宿の経営も現状のアンデルク城にとっては外からの来客を迎えられるちゃんとした場所を作れるのでありがたいことであるわけだし。

 ただ、公也としては城魔とのかち合いだったり雪奈の魔物としての存在の立場など、気にかかる点はないでもない。しかし雪奈が人間に対し敵対的、悪意があると言うことはなく。危険が低いと考えられるため連れて行っても大丈夫だろう。城魔と一緒に置いた場合どうなるのかは気にかかるが、だめならば外に宿を作ってもらってそちらで宿の経営を、という形でもいい。そもそもアンデルク城も現状では殆ど広くないのでこの宿みたいに人を多く入れることができるだけの余裕はないだろう。

 どちらにしてもまず雪奈がどう判断するかである。


「そうですねー、なんだかんだで私はこの宿に愛着があります。お客様が来なかったとはいえずっと住んで綺麗にしてきたところですしー」

「…………そうか」

「でも、お客様がいないで私だけが住んでいる宿って宿じゃないです。お客様がいて、私がお客様をもてなして、快適に、楽しく、心豊かに過ごしてもらえて初めて宿は宿として機能するんです。今のままじゃ、ただの建物でしかないですよね。このままじゃダメだっていうのは私も……わかってはいたんです」


 物は正しく使われてこそ。使命として雪奈が抱いているものはこの宿では果たされていない、果たされる可能性が低い。それでは意味がない。何のために宿を経営しているのか。作った意味がない。


「わかりました! あなたの提案に乗りましょう! 移設ですね! やってみせますよー!」

「……ああ、わかった。ありがとう」

「いえ! そのかわりちゃんと宿の場所の提供と、お客様も連れてきてくださいね! 雇い主様!」

「いつの間に俺は雇い主になったんだ……」


 なぜか雪奈の中では公也は雇い主ということになっているらしい……まあアンデルク城に住まわせそこで宿屋をさせると言うのならば城主、領主としての立場である公也は雪奈とその宿寝夢の宿を誘致した雇い主というのは間違いではないのかもしれない。



※宿狂いの雪奈さん。宿をするためだけに何でもする覚悟がある……宿経営に差し支えないレベルなら割と何でもすると思うぞこの人。

※この場所で宿を続けても人が来る可能性は低い。山地の開拓が進み来ることが容易になればまだ誰か来るかもしれない。今までも冒険者で実力のある冒険者でもいれば誰か来た可能性はあるがこのあたりには特に何もなく開拓する必要もないと考えられ人が来ない。そもそも山に人を送り開拓する余裕があまりない。ただでさえ人同士の争いも多く時折魔物による被害で場合によっては国の滅亡もある。魔物が多く強さもかなりのものである山地などの危険地域の開拓は難しいと考えられている。アンデルク城なんかはちょっとした例外。そもそもあれ自体安全で人が過ごすうえで問題ないものであるが魔物である。ある意味ではあの場所も魔物に支配されている地域と考えることだってできるくらいであり………………(以下略)

※主人公が勧誘を行っている。しかし雪奈は魔物である。アンデルク城は城魔、魔物である。妖精も一応は魔物である。フェイはアンデッドでウィタはホムンクルス、人外である。人間の数が増えないなあ。

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