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「はっ!」
「っ! さすが つよい!」
公也とウィタ……フェイが戦っている。フーマルとの戦いの後に公也の実力はどれほどなのか、フーマルとフェイがそう気にしたことがきっかけである。ちなみにフーマルとの戦いもしたが既に公也の勝利で終わっている。
「きみや つよい うぃた と ふぇい より はやい!」
「肉体の強さならウィタのそれよりも高いからな……当然!」
「っ!」
ホムンクルスであるウィタ、その肉体スペックを十全に使えればそれなりに戦うことはできたと思われる。しかしフェイが使う時点で、ウィタの時点でもフェイを持ち続けているため片手が塞がると言う弊害がある。それでもフェイがウィタの肉体を扱う時は十全に使える時ほどではないにしても強い。だがそれ以上に公也の方が強かった。暴食や魔法なしでも公也の肉体スペックは多くの生命の肉体スペックを加算した状態であるがゆえに当然だ。というか普通に、まともにそのスペックを完全に使っているのならば勝負にすらならない。公也はあくまで今の公也の肉体で使える力のみを使い戦っている。手加減、というかそうしないと周囲への被害も大きいしそもそも模擬戦、仮に本当に戦闘する場合でもあまり本当の意味での本気は使わない。
手を抜く、手加減する、本気を出さない……少々そういった全力で戦わないと言うのはある意味不義理なのかもしれないがそうしないと色々とやばいのである。神がこの世界に降り立つとき、神そのものの力全てを持って降り立つとそれだけで周囲の被害が馬鹿にならない。そのため神は一部のみを抽出しそれを世界に表出させる形で降り立つ。公也がしているのはそれに近く、公也の持ち得るすべての力の内公也という人間が持ち得る肉体、存在における本来のスペックに合わせた形にしている。もちろん本当の意味での公也では圧倒的に弱いため自分の強さに応じた倍率のスペック上昇をしているので弱くはない。
「っと、こんなものか」
「まけた くやしい ………………くやしい」
フェイも悔しいと言い、ウィタも悔しいと言う。若干ながらも悔しいと言う感情であったがウィタにも情緒が芽生えている。戦闘という形で以外にもいろいろな部分で少しずつ精神的な成長が見えている。
「よし。じゃあ戦闘訓練はこの程度にしておこうか」
「そうっすね…………流石に師匠相手はきつかったっす」
「…………………… きみや あと で すこし いい?」
「ああ、いいが……」
そうして後片付けやらなにやらして、フーマルは去り公也も戻り……そこにウィタとフェイがついていっている。
「……それで何か用事か?」
「………………………… いちおう ぼく が ようじ でも うぃた の からだ も つかう」
「……どういう用事なんだ?」
「ぼく ゆうれい だから べつ に ふだん は ない でも うぃた の からだ つかう とき かんかく うまれる よっきゅう できる あばれて かいしょう できる の も ある でも そう じゃ ない の も ある」
「…………まどろっこしいから具体的に」
「よっきゅう はっさん したい うぃた の からだ で ない と できない きみや と まじわる」
「…………………………………………」
そのフェイの言葉に流石に公也も言葉が出ない。フェイは幽霊である。肉体にとらわれぬ幽霊は基本的に肉体における欲求というのはなく、精神や魂に由来する欲求、あるいは幽霊としてフェイが成立する際に起きた欲求が持ち得る欲求となる。しかし、憑依などの形で肉体に宿る場合……肉体における欲求が宿る存在に生まれる。人間であれば簡単に性欲食欲睡眠欲、三大欲求がある。まあこれは人間に限った話ではなく、動物もまたそうだろう。もっとも通常動物の場合性欲は発情期でもない限りはそうはないだろうと思われるのだが。ただ、ホムンクルスという特殊な存在に通常生物の要素を持つ兎の幽霊、特に兎の性質のせいか多少欲求に偏りの影響が出る。そもそも食事もフェイがウィタを通して欲求を満たしていたりする。なお別に普通の兎のような食生活でなくていい。本来ホムンクルスはそれほど食事を必要とする者ではないようだが。
さて、つまりは何が言いたいのか……というのはわかりづらいが、フェイがウィタを通して発散したい欲求は性的欲求ということである。これは今までもフェイがウィタの体を使う時に起こっていて、それでもまだ軽い物であるため発散する必要性はない場合が多かった。一度たまりにたまった欲求の発散で適当な相手と交わりを持ったことはあるがその時はあまりいい記憶ではなかったようだ。
しかし、ヴィローサを経由してとはいえ公也に対してウィタとフェイはある程度信頼を置いている。まあそもそも行きずりの何処の誰とも知らない相手よりはましという話になるので公也が相手というだけだ。最悪公也でだめならフーマルあたりに話が行っていたかもしれない。
「えっと…………お前はそれでいいのか? いや、フェイもそうだがウィタも……」
「もう いちど やった でも あまり よく なかった らんぼう そざつ てきとう でも きみや しんらい できる まだ しんらい できる」
「…………」
「だめ なら ほか の ひと いく」
「あー、それは………………でも、あー…………」
果たしてこういう形でフーマルに相手をさせていいものか……かといって自分がそうするのはどうなのか。
「キイ様」
「っ! ああ、ヴィローサ……聞いてたのか」
「初めから聞いていましたわ」
にこりと笑っているヴィローサ……その表情を見て少し公也は怖い、怯えている。実力とか生死とか、あらゆる面でヴィローサよりも公也の方が上なのだが……男と女という面においてはやはりこういう場合ヴィローサ、女の方が強いのだろう。ある意味浮気に近いものだからなのかもしれない。もっともその点に関してヴィローサは極めて寛容的………………といってもいいくらい受け入れているはずなのだが。
「もう、キイ様? そこで迷わなくていいのですよ?」
「え?」
「その子は私が見つけた子、私がキイ様のために持ってきた子、連れてきた子。つまりその子は私がキイ様に献上差し上げた物なのです。つまりその子はあなた様の所有物。あなた様がどう扱おうと構わないのですよ? いえ、他の誰かに使わせるなんて……それこそ勿体ない。キイ様が使うべきだと私は思うの、思うわ、思います」
「………………いいのか?」
ヴィローサとて独占欲はある。それゆえに公也はつい訊ねてしまう。なんというかそのあたりのことに関して公也はヴィローサに対して多少甘くなっている。やはりそういう形で関係を明確にした影響は大きいのだろう。
「キイ様は王子様だもの。妻はたくさんいてもいいし、妾も全然問題ないわ。それに、道具を使ったって別に怒ることでもないでしょ?」
「………………」
「私がとやかく言えることでも、言うことでもないもの。私はキイ様の御心のままに。キイ様の思うようにすればいいと思うの。それに、ウィタもフェイもキイ様が相手がいいと認めているのなら、むしろキイ様がお相手するのが一番ではないのかしら?」
「………………」
公也としてはそのそのあたりとても複雑な心境だ。公也にとってその手のことはどうにもイメージしづらい、意識しづらい、考えづらい内容だからである。だが…………流石にここまで言われるとどうにも断りづらいと言うか、受け入れないという選択をしづらいと言うか。自己、自我、自分の意思が強い公也であるがこちらの方面はとにかく弱い。知識というものを用いてならばともかく……感情方面に関しては公也はどうにも制御できないタイプであった。
「あー……わかった。ならこっち、ほら……」
「ついて いく」
そうしてヴィローサの勧めもありながら、ウィタとフェイの二人との関係も公也は持つ。ちなみに……フェイはぼくと自分のことを言っているが、僕っ娘ではない。フェイは男の子である。まあそもそも兎であるので性別という面でどうこう言ったとしてもあまり意味はないのかもしれないが。人間に近しいホムンクルスと兎ではどちらであろうとも感覚が違うだろうし。まあ、具体的にどうこう言える内容ではない。少なくともここでは。
※私の作品における世界内の一般的な空間において神格は限定的な形で出現する。この作品中においては一番最初に出ていた邪神とかもかなり力は抑えられていたりする。他の作品世界中でも基本的に神が出る場合は本来より明らかにスケールダウンした強さとなる。なおあくまで一般的な世界の内の空間おいてであり世界の外側やそのためにつくりあげられた空間などでは例外もある。
※この作品の主人公の場合。その力は神から受け取った……それも邪神と呼ばれる存在はこの世界の創造主の対となる存在でありその力は絶対的。本気で行使すれば世界そのものを食らうこともできる程度には力の危険性が大きい。もっとも現状ではまだ主人公は神格と呼べるレベルにまでは至っていない。
※ひらがな よみ にくい という話はさておき。フェイのそれはウィタの体を借りての発散行為。なお初めてではない様子。フェイは雄でウィタの体は女性なんだけど大丈夫なのか。TouSaku的な。兎は性欲凄いという話を聞くけど実際どうなのだろう?
※ヴィローサは基本的に主人公が他の女と関係を持つことに関しては寛容的。ただし嫉妬しないわけではない。それとは別にフェイの場合は相手がフェイであり厳密にはウィタでないこと、彼らを拾ってきたのがヴィローサであること、そもそもウィタが主人公に対し恋愛感情を持つ可能性が極めて低いことなど、そういった点からただ相手をすると言うだけであれば特にそこまで強い感情は見せない。言うなれば医療行為のようなもの、という見方であるのかもしれない。




