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結論から言えば植物成長の魔法は成功した。ただやはり何度も同じ場所で成長の魔法を行うのはできない……と言う形である。流石に植物の栄養に関わる部分は魔法でもそこまで万能な効果にはならなかったようだ。ただ成長効果がそのまま続き結果枯れるということにはならず、それ以上成長できないと魔法側が認識するとその時点で魔法の効果が停止する、という形であるらしい。一度途切れた魔法は栄養が回復すれば再起動するようなことはなくその時点で終了ということのようだ。まあ魔法は一時的一過性の現象だからそういうものだろう。
ちなみに植物の栄養に関してはやはりどこからか調達される様子である。恐らくは城魔からの供給であると推測されているが正確には不明、そもそも確認すること自体が難しい。そういった情報を入手できる魔法を使うか、あるいは公也の暴食の能力を利用するくらいだろう。
「……もう外に出て仕事をする必要はないんですか?」
「ああ。城の人間が植物成長の魔法を完成させたからな」
「そうですか…………」
結果的にアリルフィーラを城内に留まらせ外に出て人目に触れると言うことが少なくなったのは公也たちにとってはありがたい……のだろうか。そもそも城の中にいる人間に知られたところで問題ないし外に出たところでここまで来る人間がいないのでこれまた問題ない。また今のアリルフィーラは多少土仕事に触れ皇女としての生活をしているわけでもないためかなり皇女であった頃の印象から大きく変わっている。そのため彼女が皇女アリルフィーラであると言われてもすぐに信じることはできないかもしれない。
「つまり私は役立たずなのですね」
「そういう言い方はどうかと思うが……そんなこと言うとこのアンデルク城における人間の半数以上は今のところ役に立たない人間が多いと言うことになる」
「私もその人たちと同じでやるべきことがない、仕事のない立場であることは変わりありませんよね?」
「むしろリルフィに仕事がある方が問題なんだが……」
アリルフィーラのことは基本的に秘匿事項である。彼女にアリルフィーラに求められるような仕事が与えられることはあり得ない。かといってリルフィという普通の女性に対して与えるような仕事も現在のアンデルク城では基本的にない。そもそもアンデルク城においてやるべき仕事自体少ないのだから。
「それとも何か仕事が欲しいのか」
「……どうでしょう。ただ城の一室で過ごすと言うのも…………悪くはないですけど…………何かやったほうが…………」
しかしアリルフィーラはアリルフィーラで思うところがあるのだろう。むしろアリルフィーラの表情を見る限り公也が感じる限りでは役立たずである方がいいのか、それとも何かやったほうがいいのかどちらかで少し迷っているような感じである。
「……家事くらいなら手伝いとかできるぞ? っていうかこの城における家事仕事の出来る人間は少ないからやってもらった方がありがたいかもな」
「家事……ですか?」
「ああ……リルフィはやったことなさそうだな。そうだな、皇女だしな……」
「………………それは私にとっては侍女がやるような仕事でしょうか?」
「ものによってはそうだろう。重労働……とは言わないにしても大変な労力を必要とする仕事とは言えるかもな」
「ならば手伝いくらいはさせてください。ここにいるのでもいいですが……こき使われる方がいいですから」
「仮にも皇女相手にこき使うとはっきりは言えないが……やりたいのならペティエットかリーリェに話すといい」
「はい」
と、言うことでアリルフィーラは家事に関しての仕事をするつもりであるらしい。皇女が手ずから家事をすると言うのも大概な話だし、皇女が作った料理などその価値は如何ほどのものとなるのか、そして今まで家事の一切をしたことがないだろう皇女が家事をした場合どれほど酷い状況を作り上げるのか……色々な意味で気にかかる、心配になる内容である。
「っと! やるっすね!」
「………………!」
「その兎の人形持ったまま戦うっていうのはすごいっすけど、手が減ってるっすよね!」
「…………! ……、…………!」
フーマルを相手にウィタが戦っている。その手にはいつも通りフェイを持っており、そのためウィタは片手での戦いとある。そのため圧倒的にフーマルに有利な形だ。しかしこうしなければウィタは基本的に戦わない。ウィタは現状フェイの指示がなければ動かないタイプであり、自意識の成長が期待されている状態である。実力だけで見ればフーマルよりも恐らく強い可能性がある。少なくともスペック上ではフーマルよりも強いだろう。もっとも経験や感覚という面ではフーマルの方が上でありウィタ単体でまともに戦闘できたとしてもフーマルの方が優位と言える。
「なら こんど は ぼく と やる」
「っと、おっ!? いきなり動きが変わったっすね……ウィタじゃなくてフェイっすか!?」
「ぼく は うぃた で あり ふぇい でも ある いま うぃた を つかって いる の は ふぇい」
一方でウィタの体をフェイが使っている場合。これは片手が塞がった状態でも若干フェイの方がフーマルよりも優位に立つと言うくらいに強い。フェイは元々野生の兎であり、またアンデッドになったあともそれなりに経験を蓄積している。そしてウィタを連れての移動時ウィタを守っていたのはフェイ。ウィタに動きを任せることもあったが基本的にはフェイが干渉してその身体を動かすことが多かった。つまりウィタとフェイではフェイの方が圧倒的に強い。まあそれはウィタの身体スペックがあるからこそともいえるが。
仮にフェイ単体で戦う場合、それはアンデッドとしての戦いとなる。フェイの場合兎の幽霊としての幽霊部分と骨の体である。しかしこれ単体ではフェイはそれほど強くない。仮にこれがネクロマンシーの支配下にあるのならば多少特殊な能力、強化などもあったかもしれないがネクロマンシーの影響から逃れたフェイはそこまでの強さはない。それでもアンデッドらしく特殊な戦闘能力は有しているため決して弱いとは言えない。ただ魔法であっさり消し飛ばされる程度の強さ、だろう。そこは大きさも霊的強さもその程度しか発揮できないため仕方がない。
「…………フェイ、ウィタも十分強いな。しかし、この様子だとフーマルも実力が圧倒的に上がっている。なんだかんだでこのアンデルク城付近の魔物と戦っているから自力も上がっているし戦い方もうまくなっているのかな」
そしてウィタとフェイだけでなくフーマルも実力が上がっているのが確認できた。以前よりははるかに強くなっているのがわかる。
「……いずれは冒険者として独り立ちするのか。その際には俺のことは秘密にすることを厳守させないと……今のうちに契約による口外を禁ずる魔法でも考えておくか」
その様子から冒険者として立派に成長し自分の冒険者パーティーを作る。今は師匠と弟子だがいずれはその関係からも外れるだろう。そう考え、様々な形での準備を公也は考慮する。もっともそれに関して言えばこの場にいる状況である限りはまだまだ遠い先の話になるだろう。
※アリルフィーラさんは性格の問題と立場の問題があってめんどくさい。
※ウィタ(フェイ)>フーマル>ウィタ>フェイ
なおウィタ、ウィタ(フェイ)は人形を持っている片手の状態での話。両手ならウィタだけでもフーマルよりも強い……かもしれない。実際にはウィタ自身は自分の経験、思考、精神の問題があってそこまででもないと思われる。




