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「ふ、ふふふふふふふふふ! ははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「ロ、ロムニル! 落ち着いて!」
狂ったように笑うロムニル。普段からどことなくマッドサイエンティスト時見たところがあるが笑うと余計にその傾向は酷い。研究者で研究狂いだからそもそもマッドサイエンティストは間違いなわけではないのだが。そんなロムニルの狂気状態をリーリェが止めに入っている。流石にいきなり大きな声で笑いだしている状態はあれな夫だとわかっていても流石に酷いからだろう。
「落ち着いてるよ、落ち着いているけどね、ふ、ふふ、ふふふはははははははははは!」
「気持ちはわかるから落ち着いて!」
「はははは、はあ。ああ、早くキミヤ君を呼んで……いや、すぐに報告、実践だ! ちょうど植えたばかりの所があったっけ!」
「落ち着いて、だから。一応そうするにしても事前に話を通しておいた方がいいでしょう」
「ああ、後で文句を言われても嫌だしね! じゃあキミヤ君の所に行こうか!」
ロムニルとリーリェは公也の所へと向かう。特にロムニルがルンルン気分なのでそれをリーリェが抑える形で……今のアンデルク城にはそれほど人がいないのでそんなロムニルの奇行に関してはそこまで噂になると言うか風聞悪いと言うこともないだろう。そもそもロムニルがその手の風聞を気にするようなタイプではない。リーリェが気にする方なのでどうにか頑張っている形だが……まあ普段は研究するために部屋に押し込めておけばそれで十分なのであまり気にしても仕方ないのかもしれない。
そうして二人が公也の所に来る。道中で少しこの城にいる人間に見られたりするがそこは気にしていない様子でロムニルが元気よく公也に話しかける。
「キミヤ君! 遂に完成したよ!」
「…………何がだ?」
「植物を成長させる魔法さ! これで農地の開墾とか手入れとか面倒くさいことから解放されるよ!」
「………………」
そういえばそんなことを話していたようないなかったような、と公也は思う。どっちでも構わないが新しい魔法ということでそれだけでありがたい。いや、そもそも植物成長の魔法なんてものは普通は存在しない、作れない魔法の類だ。それを新しく作ったと言うこと自体かなり驚きのことである。
「待て、植物成長の魔法? どうやって作ったんだ?」
「ふふふ、やはり気になるよね、キミヤ君も!」
「当然だ」
「それにはまず苦痛を伴わない治癒魔法の実現から話さなければいけない……」
「待て、それも新しいことだよな!?」
植物成長の魔法も治癒魔法も……厳密に言えばそれらの魔法は不可能ではないが苦痛やストレスという点で現在作られている魔法は使えないものとされている。しかし今回わざわざロムニルが公也のところまで出向いて言うほどのものなのだからその問題点、治癒や成長に際する苦痛、魔法を受ける側のダメージに関しての解決ができているということである。それの実験のために魔物や獣の類を捕え部屋に入れていたほどなのだからなんとも熱心なものである。
「そうだね。ともかく、詳しく内容について話そう」
「……頼む」
「治癒魔法、成長の魔法共に生物にかけるのに問題はあるのは何故か? どちらも生物に起こり得る現象だ。しかしそれを普通に魔法でやろうとすると苦痛を伴う。それは何故か?」
「……生物の変化には弊害があるからか?」
「まあ、それもないとは言えないでしょうね……でも、別に魔法を使うことで反発があるとかそういうわけでもないでしょう?」
「魔法をかけてもちゃんと魔法は発動する……そもそも他者に魔法をかけられると問題になるなら自分で使った場合は問題にはならない。つまり誰の魔法であるかは関係なく治癒、成長の魔法は悪影響になる」
「だから生物を変化させるものだから、じゃないのか? 肉体を変化させるものだから本来の肉体の在り様とは異なる。そもそもこの世界に魔法を発現させることも世界にとっては大きな苦痛を伴うもの、だからそれを直そうと言う修復力が働くから魔法は消える」
「面白い話だね。実際どうなのかはともかく」
「今回の話とはずれ込むからそういう話は置いといてくれない?」
「はは、後で論議しようか。さて治癒や成長……これは普通に起こり得ることだ。しかしそれが起こることに苦痛はない……まあ成長痛とかそういう話はあるけど、基本的に育つこと、治ること自体は苦痛ではないはず」
「まあ、悪い物を良くする、あるいは戻すが理由だからな……」
「しかし、治癒の魔法を使うと苦痛を伴う。もう何度も言ってるからいちいちいうのもなんだけどね。それの原因なんだけど、恐らく合っていると思うんだけど、通常の傷の治癒は時間をかけて行うことだ。しかし魔法はそれを通常よりも極めて短時間で行っている。それが問題なんじゃないかな」
「……そういった推測自体はできるな、確かに」
魔法は現象を起こすものである。ありえないことでもあり得ることでも可能であり、またそれがどれだけ時間のかかることでもかからないことでもできる。しかし、それによって起こる出来事は通常ならばありえないほどの短時間に圧縮する。先ほど肉体が成長するときに伴う痛みがあると言う話もあったが、身体が治る際に肉体は相応に負荷がかかる。まあ傷ついた部分の修復をするのだから当然だ。それを短時間に行うゆえに肉体側に反動が出る……それが痛み、ストレスとして現れる。
「時間をかけて行うことを短時間に行うから問題になる……のならば。時間をかければいいんだよ」
「時間をかける……?」
「時間魔法、時空魔法、つまりは短期間で起きた現象ということではなく、長期間で起きた現象ということに時間魔法で誤魔化すのよ」
魔法により魔法の効果による現象の時間を加速させる……時間魔法の効果で現象が短期間に起きたのではなく長期間に起きたことにする、そういうことだ。はっきり言って極めて異常ともいえる魔法の効果だろう。はっきり言えば現実的ではない……しかしそれは魔法だからこそできることだろう。魔法はあり得ないような出来事も起こせる。一瞬での治癒を治癒の魔法の時間を加速させ通常の傷の治癒速度と同等にする。
しかしそれ自体の魔法としての現象は確かに時間が加速された中で起きていることだが、その肉体に対する反動に関しては少々別の話になってくるのではないだろうか。肉体の治癒に伴う肉体的負荷は変わらないはずだ。
「……魔法による現象は誤魔化しがきくのかもしれないが肉体の方は? 傷を治すのに必要なものは大丈夫なのか? そういうのは肉体の方から捻出するものだろう?」
「そこまではちょっとわからないな……でも、大きな問題にはなっていないよ」
「魔法だから、と一言でいうのはどうなのかと思うのだけどね……それ以外の理由が思いつかないわ」
「……まあ、確かに魔法ならできるのかも入れないが……」
研究者としては魔法だから、というのは思考停止になるのであまり望ましいものではないだろう。しかしそう言わざるを得ないくらいに魔法だからという理由でなければありえないような出来事である……まあ魔法に関して今更そういったことを言ったとしても仕方のないようなことな気がするが。
「それで、植物の成長のほうだが」
「ああ、つまりね、治癒と同じで時間の加速を行えば弊害がなくなるということになるんだよ」
「……まあ、確かにそうなのかもしれないが……土の栄養とかは?」
「そちらは流石にどうにもならないと思うのだけど……そこは実際に試してみるしかないわ。でも、逆に言えばそれだけが問題ならばそちらも魔法でどうにかしてしまえるかもしれない」
「なるほど……この近辺ならもしかしたらアンデルク城の影響もあるかもしれないしな……」
城魔の範囲に存在する土壌ならば城魔の影響を受けているかもしれない。城魔が回収した人の排泄物、老廃物、そういった物をきれいにし回収した際、そういった物を外に排出する……それも肥料化して排出する機能があるかもしれない。まあ、それに関しては少々発想が突飛な物になるが。
「それはあるとありがたいわね」
「ともかく試そう!」
「……確かに実際にやってみないとわからないことだな」
治癒の方はともかく成長の方が先ほど完成したばかりのものであるため実際に一度試してみることが必要である。それの許可を貰いに来たわけである。そういうことで公也を伴いロムニルとリーリェで開発した植物成長の魔法を試すことになる。ちなみにこの発想に今まで他の魔法使いは到達しなかったのか、と少し公也の方で疑問がわいた。この世界の人間はそこまで馬鹿ではないはず。公也もそちらの研究に傾倒すれば少しはその手の発想を抱いてもおかしくない。そんな疑問を抱きつつ、公也はロムニル達の魔法の研究成果の確認に向かうのであった。
※ロムニルもう農業しなくてもいいことに大喜び。
※本来の治癒より早く治癒させるから痛いのであれば本来の治癒と同じ形になるように魔法に仕組みを加えればいい、というお話。なお成長の魔法も時間経過を魔法に組み込むことで解決。あるいは未来の姿、成長後を将来の時間に結実する形から今の形に当てはめ栄養素や自分の持つ栄養から補填し成長後の姿に変化させる、という手法も考えられる……普通に時間経過を組み込むほうが消費魔力は少ないかな?




