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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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 アリルフィーラの紹介に関して、その正体、アリルフィーラがハーティア皇国の皇女であると知っている人物はアンデルク城においては極めて少数だった。公也の貴族関連の諸々に関与するクラムベルトのような人物であったりすると流石に知っていた。面識こそないがその情報、姿に関しての知識を持っていた。しかしそれ以外の多くの人物はアリルフィーラのことは知らない。一応アリルフィーラは自分のことを紹介する時にリルフィと名乗っている。これはアリルフィーラの愛称である。それだけだとどうにもリルフィがアリルフィーラであるということには繋がりにくい。もっともアリルフィーラの着ている服が高貴な人間の着るような上質な物であったこともあり、そういった方面に関して観察や発想の能力が高いリーリェは名前を聞いて何か引っかかるのか考え込む様子だった。なおロムニルはいつも通り、大して気にせずよろしくと簡単に済ませていた。フーマルに関してもアリルフィーラであるとはわからない。

 そもそも今アンデルク城にいる人間はキアラートの出身の人間。キアラートはハーティア皇国とは別に特に仲がいいというわけではなく、ある程度近い国家の一つとしてそれなりに相手をしているくらいでありそこまでの交流があるわけではない。それゆえに皇国にどんな人間がいるのか、皇国の皇族の家族構成などそういった方面に関しては貴族など政治的に余所の国に関わるような人間しか知り得ないと言うことが多い。さらに言えばそういった人間は貴族でも一部に限定される。多くの貴族は自国、キアラート内でのみの活動に留まる。なのでアンデルク城においてクラムベルトが知っていると言うこと自体結構異質な話であり、リーリェが恐らく推測になるがリルフィがアリルフィーラであると言う結論に達すと言うのはありえないような特殊な事態であると言うことになるだろう。

 まあ、結局のところアンデルク城においてアリルフィーラの正体に関して知っている人間は極めて限定される。そのうえでアリルフィーラの身の上に関して気に掛ける人間はせいぜいクラムベルトくらい、リーリェも多少は気に掛けると思われるが国やら皇族やらとそういった方面になるとリーリェも手の届かない範囲であり関わったとしても仕方のない話。貴族関係、国家関係の話しとしてクラムベルトが上にどう報告したものかと頭を悩ませるくらい。

 もしアリルフィーラがアンデルク城にいると知られた場合色々と国家関係で問題が起こり得るのだが、アンデルク城においてはそこにおける情報は外に漏れにくく、またアリルフィーラの正体も分かっておらず仮に漏らすとすればクラムベルトくらいだろう。脱出に関してもアリルフィーラ単独では山を下りることすらできない。つまりそもそもアリルフィーラがアンデルク城にいることが知られるようなことは起こり得ないと言うことになる。そしてアリルフィーラもアンデルク城からあまり出ることはせず、外で野良仕事をする以上のことはしない。なのでその存在が知られることはないだろう。故に問題はない。


「はあ……げほっ」

「大丈夫か?」

「……げほっ、だいじょう、ぶ、です」

「ダメそうだな。まあ無理はしなくていい。そもそもそこまで期待できるとは思ってないし」

「………………そういわれるのは少し不満です」


 現在アリルフィーラは他の人員と同じく外で農作業である。とうぜん服装は元々彼女が着ていたような高貴な人間の着る動きにくいものではなく普通の女性が着るものだ。しかもリーリェに借りた物なので大きさがあっていない。農作業という結構な労働を行う上で服装的に動きづらい中、その立場上やったこともない労働ということで大変な状態だろう。


「あんまり無理させちゃだめよ?」

「早く成長の魔法を完成させたい…………」

「いえ…………今の私ができることはこういうことくらいですから」


 そう言ってアリルフィーラは農作業の手伝いをしている。あとは料理、洗濯などをペティエットから学んだり……ある意味こういうことは花嫁修業の一環か何かなのかもしれない。皇族のやることではない気がするが。




「ねえ、キミヤ君」

「なんだ?」


 ちょいちょいと手招きしてリーリェが公也を人のいないところまで誘導して声をかけてくる。


「あの子なんだけど……アリルフィーラ様?」

「……皇国の皇女様らしいな」

「ああ、やっぱりそうなの…………」


 やはりリーリェはリルフィがアリルフィーラであるとわかったようだ。もっとも確証に関してはなかったようだ。だからこそ公也に訊ねたわけであるし。


「なんで………………っていうのは聞いても仕方ないわね」

「連れてきた以上今更だからな。下手に聞く方が面倒ごとに関わるぞ」

「ああ、そういう事情なの……」

「どうせここから移動する機会はほとんどないだろうしここにいたところで問題があるわけじゃない」

「そうかしら? とてもたくさんあると思うのだけど?」


 アリルフィーラがいることの問題は色々とあるが……まあ彼女の存在が外に漏れなければまず何も起きない。そもそもの痕跡自体がろくに残っていないからだ。目撃者もいない、生き残ったのはアリルフィーラのみ、そこに関わっている公也は別にそのこちに関して漏らすつもりはなく。アンデルク城にのみ情報を留められればそれでいい。


「まあ、いいわ……それにしても、まさか皇女に土仕事をさせるなんて……家事とかも……」

「本人はいいって言っているんだしいいんじゃないか?」

「いいわけないわよ……あとでばれた時どうするの……」


 色々と頭の痛い思いをしているリーリェである。アリルフィーラの正体を知っているため心労が凄まじく溜まる。それに関してはリーリェだけでなくクラムベルトもまた同じような心境だろう。


「あの子の方はどういうつもりでここにきているのかしら……」

「自分から言い出したことだからな。どういう心境なのかは知らないが……まあ、色々とあるんだろう」

「まあ、もう気にしないことにするわ。気にしていると頭が痛くなってくるし…………あの子とは別に、ヴィローサちゃんが連れてきた子なんだけど」

「ホムンクルスと兎の幽霊か」

「名前で呼んであげなさいよ」

「ウィタとフェイか」


 いつの間にか公也によって名付けられていた両名、ホムンクルスがウィタ、兎の幽霊がル・フェイである。兎の方はルを入れずにフェイと呼ぶことが多い。


「そのホムンクルスなんだけど…………やっぱり例の?」

「恐らくな。アンデッドのことも考えればあのネクロマンシーとあれがいた組織が関わる内容だろう」

「…………こんなところで関わってくるなんてね。あの子たちは特に何も知らないようだけど」

「知ってたら色々とできることも増えたんだが……知らないなら仕方がない」


 一人と一匹の持つ情報からもしかしたら逃げた組織の足取りを追えるのでは、と思わなくもないが残念ながらそう簡単な話ではない。そもそもウィタは自意識がなく記憶もほとんど持っていない状態であり、フェイも生きることに精一杯でせいぜい自分を使役していたネクロマンシーに関して多少知っている程度、あの時ホムンクルスを作っていた組織に関しては両者とも知り得ない。


「…………まだ子供出来ていないのに子育てをしている気分だわ」

「ああ、一般常識がまだまだ足りていないし精神的な成長もまだまだだからな……」

「フェイの方も、人間の知識を教えるのは大変よね……」

「元が兎だからな。それでもウィタよりは教えて直ぐに学んでくれる分やりやすいが」


 アリルフィーラ、ウィタ、ル・フェイと今回アンデルク城に増えた新住人三人はこの世界における一般的知識、常識的な内容を知らないことが多い。まあアリルフィーラはまだましだがウィタやル・フェイはその存在的に無知が過ぎる。様々な普通の常識を教えるのに公也やリーリェが結構苦労を重ねている。公也はともかくリーリェはかなり面倒事を押し付けられている感じで大変そうだ。



※アリルフィーラの正体に気付くリーリェさんは正直異常。なんで魔法使いの研究者やってんのレベル。多分愛に生きているからかも。

※多分心労は貴族寄りのかかわりの強いクラムベルトのほうが大きい。

※ホムンクルスの少女はウィタ。アクアウィアエから。兎の方はとあるところで見たモルガン・ル・フェイが兎になったことからル・フェイ。なお兎は雄。

※アンデッドの活用に関しては魔法の使用さえしなければネクロマンシー扱いにはならない……もっともそれが受け入れられるかは不明である。それに魔法の使用に関して本当に使用していないのか、ということも疑問視される。本来ならあまり望ましいことではない。まあフェイの存在を知らなければただ布を被った兎の人形に見えるだろう。布の下は兎の骨だけど。

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