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「っ!」
神を食らう一撃が放たれ、それが男性を切り裂く…………その直接の光景は見えず、男性がその力をもって防ごうとした、何らかの防衛の影響、一瞬攻撃が何かの防御と拮抗する瞬間、そこで火花のような光、攻撃と防御のせめぎ合いの余波が周りへと広がり直接その光景を見るには眩しいというか、目をしっかり開いてみるのが難しい状況へと陥った。しかし公也は確かに攻撃を防がれたがその防御を突破し攻撃を振り切った、そんな感覚がある。そして男性に対して確かに攻撃を与えた、その感触を感じている。
だがそれも少しの間、斬撃が入ってすぐに破裂するような、爆発するような衝撃波が男性から発生した。その衝撃波に流石に吹き飛ばされるようなことはなかったがどうしても身を守る動きをせざるを得ず、体を、視界をかばうように腕を出して結果を見ることはできなかった。確かに気った感触はあったから倒した、そう捕らえてもいい状況ではある。男性は公也の攻撃で爆発四散、消し飛んだ……そうみてもいいような感じ、だろうか。
「……いない」
男性の姿は衝撃波とともに消えた。爆発した、にしては肉体も残っていないように見えるが存在として特殊な神と言うものである男性が死んだ場合その肉体を残すかは定かではない。
ただ、肉体が残っていない、そこに何も存在していないのなら確かにそこから消えたことは事実……死んだと断定はできないものの、強力な神殺しの一撃、神儀一刀の技が入った以上は恐らく倒せた……倒せてなくとも恐らく活動不能、逃げざるを得ないとみて逃げた可能性はあるにしてもかなりの大怪我、致命的ではないが致命傷に近いくらいの傷は受けている確証……とまではいかずとも結構な大事にはできていると公也自身は見ている。
「……大丈夫だろうか。たぶん倒したと思うが」
確かに斬ったという感触はあるものの、倒したという確証はない。色々と考えた結果、恐らく倒せてはいる、そう思うところだが不安がなくもない。死体が残らないというのは死んだ事実を確定できるものではないためどうしてもそう考えざるをない。
「っと、メル!」
既に存在しなくなった敵についていつまでも考えて仕方がなく。それよりも戦いが終わったのであれば現時点での問題を解決するべきである。戦いにおいて個々の被害はそこまでたくさんあるわけではないが、アンデルク山の一部が破壊されてあれ尽くしているうえに少し吹き飛んでいる状態、また個人の被害で夢見花やメルシーネの怪我がある。特にメルシーネはその腕を切断されている。その治療を行わなければいけない。流石に片腕を失った状態では生活するのも大変だし戦闘能力と言う点でも大きな問題だ。本人も主の世話をするという仕え魔の本分を果たせなくなる、果たせても多くを完璧のこなせないのは不満を持つところである。
「大丈夫か?」
「一応、怪我としては死なない程度の問題なのです。ただ……治しておくべきではありますね。流石に自然回復はやろうと思えばできるですけどここはご主人様の魔法を頼りたいところなのです」
「それはわかってる。回復魔法で治すか」
腕一本を切り落とされるそれはかなりの大怪我、というか下手をすれば死にかねないくらいの怪我だろう。メルシーネが通常の存在ではないこともあり治療は難しくないし、その気になればメルシーネだけでも腕を切り口に当て回復力を高め治す、なども不可能ではない。まあその場合はすぐに動かすことはできずできる限り固定して回復しきるまで待つ必要があるとか面倒……手間のかかる状態になるだろう。
「終わったみたいですね」
「終わった……とはいえ、まだ本当に終わったかどうかはわからない」
「凄いことになったみたいですけど」
「周囲に影響の出るような爆風、消滅現象……これがどういうことかはよくわからない。普通生き物が死んでも別に何か特別起きるようなことはない」
「そうですね」
アリルフィーラと夢見花がアンデルク城から公也たちの様子を見ている。戦っていた男性を抑えていたのはアリルフィーラの剣の技であり、夢見花が魔法で見えるように、届く状況になるようにしていた。当然男性を公也が攻撃したそのタイミングでの出来事も見えている。ただ、公也の攻撃が当たったまでは見えたがそれ以降ははっきり見えない……光のように衝撃波と言うか、視界への影響はあった。まるで隠すかのように見えない影響が魔法にも及んでいる。幸い見えないだけで済んで悪影響はなかったが。通信映像は乱れたものの。
「向こうに行く」
「え? なぜですか?」
「安全かどうか、状況を確認する。恐らく大丈夫だけど何か必要ならこちらも手助けした方がいい」
「……そうですか。その判断は私にはできませんので公也様をよろしくお願いします」
「わかってる」
そう言って夢見花が公也の元へと移動する。
「問題はない?」
「夢見花? いや……というかそちらは?」
「怪我は治した。城の方へのダメージも防壁がきちんと機能しているから問題なく済んだ。少しため込んだ地脈の力、魔力の消費が大きい。もっとも今回の事態に関して考えればこの程度の消費で済んでいるのはむしろ悪くないと思う」
「そうか」
「メルの怪我は?」
「一応治した……まあ、それに関してはより効果の高いものを夢見花に任せたい」
「わかった」
メルシーネの怪我に関しては夢見花が魔法でより良い治療を行うこととした。
「………………」
「どうした?」
「違和感。空間的な変化、穴……逃走の可能性」
「…………死体がないから考えてはいたが」
夢見花は魔法使い、そしてその魔法の能力は極めて高く、将来的な目標に天層や底層、要は他世界を目指す目標がある。それゆえに時空間や次元移動に関する魔法はそれなりに開発と構築を行っており、その影響……魔法によるものに限らず、次元的、空間的な影響や異変に関して彼女は察知能力が高い。そんな彼女が明らかに意図的に手を加えられた空間異常を察知した。
当然ながらそれを行ったのは公也と戦っていた男性である。神である彼であれば他世界へと逃れることなど難しくもないだろう。あの瞬間にそれが咄嗟にできるかと言えば難しいところはあるが、なりふり構わず消耗や無傷であること、安全であること、この地に戻ることなどを考慮に入れないなど、本当にただ無作為に逃げ出すのであれば不可能ではないだろう。一応一時的に、一瞬とはいえ防ぐことはできていたわけであるしそれくらいの余裕はもしかしたらあるかもしれない。
そういうことで絶対的な安全はない。神と言うとんでもないレベルの敵、それが逃げ出した。将来的に報復してくる可能性があり、公也たちとしては若干不安な状況になったと言える。まあ、すぐにそれが行われるかはたぶんない、と判断して良いと思われるが。




