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万策尽きた……公也の持つ<暴食>も手段としてはあるが、公也の感覚としてはそれが効かない……あるいは届かない相手であるような、少なくとも使ってちゃんと効果を発揮する、倒すことができるようには思えない、そんな感じな問題がある。
<暴食>は神が公也に与えた力、その存在は邪神と呼ばれるこの世界において最強格、最上位の神である。その力は神が相手でも十分通じる力である……本来は。その力の根源は邪神であり、邪神の元にありその力を振るう分には問題なく他の神にも通ずるだろう力である。一応神が他の神を始末するなどの事情に関しては世界の管理を統括する存在による取り決めや連絡、書類の提出など色々とやる必要があることもあったりするがそのあたりの話はともかく、髪相手でも十分通じる力ではあるがあくまでそれは神のもとに在るが故。その力を公也の元に送った時点でその力は大幅に減衰している。それでも世界を食らいつくすことができる程度には強力な力であるが、神は世界に匹敵するような存在、強大な力の存在……ある意味では世界よりも格が上の存在である。世界に通じる力であっても神には通じない、少なくとも神が万全に近い、その抵抗力が減衰していない状態では恐らく通じないだろう。絶対に、全く通じないってことはおそらくないにしても、それを通す、その効果を与えることができる状況、条件を整えなければ厳しいと思われる。
魔法もダメ、能力も届かず、振るった最大の剣技は相手と同格の力であり根本的な格が上である男性には通用しない。魔法も多少無理や無茶を混ぜた強大な一撃にすれば届くかもしれないが……なんだかんだ相手は神、この世界の法則にある魔法ではどれだけ力を込めても届かないかもしれない。試す前に諦めるのもどうかと思われるが、そもそもそれを試すだけの時間を待ってくれるかどうか。そんな状況である。
「これで終わりか。予想外、想定外とも思えることも多かったが、やはり人は神には勝てない。生まれた時からその差は絶対、圧倒的、私の方がお前たちよりもはるかに上に在るのだ」
「…………」
勝利宣言。其れにも等しい言が男性から公也に向けられる。公也もその言を受け諦めるということはないが、現状有効な攻撃の手立てが思いついていない。座して死ぬよりはと攻撃的になる、何もしないまま終わるよりも無我夢中で全力で抵抗する、それくらい思考や理性のない動きをしてもいいところではあるが、無駄に無意味にどうすればいいか、あれやこれやと考える結果、何もしないままになっている。
「さあ、これで終わらせよう」
男性が公也たちに向け剣を振るおうと、高く掲げるように構える。特に剣の技を扱うような型には見えない、しかしそこに籠められた力は下手な魔法を超えるような膨大な力……公也が使う魔法、その中でも特殊な超強力な魔法を使うときに必要とするくらいのエネルギー量に近しいくらいに思える。それを咄嗟に防ぐのは膨大な力を持つ公也でも難しい……公也が大きな魔法を使う場合、単純な魔力のみでは使われていない。ほぼ必ず詠唱や呪文の類を含め時間を要ししっかりと使われる。目の前の相手の攻撃に咄嗟に対応できるものを練り上げるのは流石に無理だろう。
「死っ!?」
死ね、そういいながら振り下ろそうとしたところで……急激に男性が苦痛でため込んだ力を霧散させ体勢を崩す。
「っ……なに?」
「傷……なのです?」
理由は簡単、その身に大きな傷をつけている……その傷を受けるような攻撃、そんな何かを受けた様子だ。
「なんだっ! 何故! どこから! 先ほどの魔法、あのような魔法使いのそれとは違う……これはまさか、私達に追いつこうとする有象無象の無意味な努力の結果か! そこの男には到達しきれていない極地! まさかまさかまさか!」
自らの傷に男性自身がその傷の発生理由を想像し、勝手に憤っている。あるいはそれは先ほど公也がそれに至る手前の剣を振るったからこそ想像に行きついたのだろうか。
「神儀一刀の一撃か!」
「……出鱈目」
「そうですか?」
「魔法でもない、ただの斬撃を届かせる……いや、あれはもう斬撃でもない」
「私は剣の才、戦う実力も能力持ち併せていませんのでそういうものではありませんよ」
「絶対に嘘。戦う能力はある……恐らくただ普通に戦うことができないというだけ、砲台としてなら十分やっていける。そういう点では魔法使いに近いのかもしれない」
神儀一刀の剣、その技を振るったのはアリルフィーラ。この地に存在する真っ当に神儀一刀を纏った、その才を持つ極めて特異な存在。彼女は自身が話す通り、戦闘における才はない。まともに戦うとなれば彼女はあっさり殺されることだろう。肉体的に見ても、戦闘能力、戦いの経験、戦い方の習得状態を考えてもそうなる。
しかし、夢見花の言う砲台としての働きは恐らくできる。今彼女が公也と戦う男性相手に行ったように。
「剣戟、斬撃じゃない……あれは爪痕?」
「あれはメルシーネの爪による攻撃ですよ」
「……再現? 剣を振るい、それによってメルシーネの攻撃を再現した?」
とんでもない出鱈目な一撃……剣を振るっておきながら、それによって行われた攻撃は剣戟、斬撃ではない。メルシーネの爪による攻撃……竜の爪による攻撃だ。剣による疑似的な攻撃の再現ではない。そもそも再現だったとしてもその場にいない彼女が公也たちの前にいる相手にその剣、一撃を振るうことができるものだろうか。遠隔攻撃とは言えかなりの出鱈目具合である。
「よくわかりませんけど……私は公也様と関わりのある方、その力を統括してこうやって振るうことができるみたいです」
再度彼女はその剣を振るう。剣とは言うが、彼女はそもそも剣の才能がない、身体能力的にも一般的な剣を振るうのあまり得意ではない能力である。彼女が振るうのは普段から持ち歩いている小刀、いざというとき自らの命を絶つために使うべきと王家の妃や姫に持たせるような自決用の小刀の類である。
神儀一刀はそもそも剣の技であるがその技は根本的に出鱈目な代物、特異な技術である。根本的にそれは現実では置き得ないようなことを剣を振るい引き起こすもの、そもそもからして剣を使うが剣の技ではない。ある意味ではこの世界における魔法……そこに至らぬ武器を用いての技の方が近しい代物だろう。技と違いそれは流派と呼ばれる独自の剣技、戦闘技術の類であるが、ともかく神に相対するだけの資質を持ち得る者であればどのような存在であれ学べば使える技術である。その奥義を見れば神に匹敵するようなもの、そこを目標とするものであるがゆえにそこに至らぬものも神に近しい物、この世界における法則の垣根を超えた技となる。その必要とするエネルギーもまた魔法とは違うかもしれない。本当によくわからないものだ。
「しかし、相手の方が見えるのは良いですね。でなければ流石にできません」
「……見えるだけでその位置、場所がわからなくてもできるのは凄い。認識しているだけで良い、というのも少し出鱈目なところ」
アリルフィーラがその技を男性に使うことができる、届かせられているのは夢見花が公也たちの様子を見えるようにしているからだ。アディリシアにどうしたのだろうと気を引かれ入ってきたアリルフィーラ、その彼女が公也の現状を見た結果今このようにその剣が振るわれている。もっとも、見えるだけで届かせることができるというのは夢見花も言う通り、結構とんでもないことができる彼女からしても出鱈目である。ある種公也の<暴食>に近しいとんでもない攻撃能力である。




