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腕だけの魔物、夢見花が作り出した使い魔……魔法によって無理やり作り出した一時的な疑似生物群は男性を襲う。神たる存在、単純に肉体的にも強い男性は腕だけの魔物が襲って来ようと特に大きなダメージもない。魔物の方は肉体的に多少強くはあるが特殊な何かがあるわけでもなく、普通の人間であればもみくちゃにするような圧倒的物量の攻撃でぐちゃぐちゃにできる強さであるものの男性には特にダメージがない……逆に腕の方にダメージがある程度には男性の方が強い。
しかし男性自身にダメージがないからといって男性にとっていいかどうかはまた別の話。痛くなくとも何度も何度も体中にぺしぺしと攻撃を受けることを受け入れるのはありえないし、ダメージを受けなくともその影響は存在するだろ。地面に踏ん張るという行為ができなければ押し出すだけで体を浮かされる、移動させられる。こればかりは物理的な法則ゆえのもので男性がいくら強靭無比であっても向こうにはできないものである。いや、一応神である以上多少無理やりな法則変換はできなくもないが、それをしていない、それをするようなことはしないという点もあり攻撃でダメージを受けずとも移動させられるなどでイラっとくるところはあるだろう。
男性は基本的にあまり攻撃を受けることがない、というより今のような長時間の戦闘自体碌にしない。強い相手と戦う意思はあるが別にそれは生きるか死ぬかの戦いをしたいわけでもなく、単純に強いとされる者をその程度で強者と言うのかと自身の強さを見せつけ撃破、失意のままその命を終わらせるのを楽しむだけでしかない。ある程度戦い、満足すればそこで相手を倒し終わらせる、それだけ。そんなことばかりしているわけだからこんなダメージがないとはいえ一方的に攻撃を受けることに対してイラっとくる、不満を持つ……堪え性がなく、怒りを発露させることになる。まあ別に多少忍耐力があろと一方的に攻撃を受け続けることを許容するわけもないが。
「………………随分とふざけた真似をしてくれる」
男性がその気配を増大される。いや、格という物を挙げたというべきだろうか。存在感、そこに在るという力が大きくなる。
「行け」
男性が剣を振るう。膨大な力が乗せられたその剣の振りは腕を一撃で消し飛ばす。強大な力のこもった剣、特殊な剣戟にもなった一撃…………それはただ腕たちを消すためだけの一撃ではない。男性自身の意思、この腕たちを生み出した存在へと向けた怒りが乗せられている。男性は神、神と言う存在は極めて特殊であり……やろうと思えば割と何でもできるような特殊な存在である。意志だけで現実に対する影響、改変、魔法以上の世界法則を超えたことができる。
「っ!!」
このように。腕の魔物たちを切り裂いた斬撃、その余波が夢見花を襲う。
「…………滅茶苦茶。とんでもない」
「大丈夫ですか!?」
「一応問題ない。それにしても……本当にとんでもない相手」
あくまで余波が届いたのは夢見花のみ、近くにいたアディリシアには影響がない。この剣の一撃の余波はあくまで腕に対しての攻撃をその腕の生みの親、魔力や魔法的なつながりのある存在へと届かせる程度しかできない。そのあたり結構特殊な効果を付与されたような一撃、と見れるだろう。神だからこそできるもので魔法でも流石にできない。
「回復するための魔法道具とってきます!!」
「あ」
怪我を見たアディリシアが出て行く。傷を治すため治療の魔法、その効果を持つ魔法道具を取りに行ったようだ。
「……この程度自分で治せるのに」
多少の大怪我でも魔法で治療が可能である。アディリシアが取りに行く必要はなかった。
「大丈夫ですか?」
「……? なぜここに?」
「声が聞こえたので。ケガですか?」
「問題ない。仮に四肢切断されても治すことは容易」
「それは凄いですね」
そしてアディリシアが出て行ったところに一人、通りがかって出て行ったアディリシアが気にかかったため入ってきた者がいた。
使い魔たちの向こう、夢見花の方の状況はともかく、公也たちと戦っていた中使い魔に襲われた男性は大きく息を吐く。うざったい敵、邪魔な羽虫に等しい存在を破壊しその先にいるそれらを生み出し使っている存在に痛打を与えた。殺せたかどうかは彼にはわからないがそれはどうでもいいこと、これ以上余計な邪魔がなければそれでいい。
「さて」
「っ」
「……!」
男性は公也たちに目を向ける。先ほど夢見花に痛打を与えた時と同じ、その圧倒的な存在の格をそのままに公也たちに目を向けている。そこにいるだけで圧迫感を感じるような圧倒的な存在、巨大で強大な存在を前にするかのような感覚で体を硬直させ冷や汗をかく。
「これでお前たちを始末するだけだな」
そういって男性は剣を、公也へと振るう。何でもない一撃、距離も空きその攻撃は当たることはない……そんな妙な油断があった。しかし先ほど、使い魔たちを一掃した一撃を思い出せばそんな油断はできない。距離が空こうと斬ることができる……そもそも別に今相対している男性でなくとも、公也であっても同じようなことはできる。だからこそ油断して良いものではないだろう。
「ご主人様!!」
「っ!?」
公也をメルシーネがつき飛ばす。そして斬撃は彼女へと届いた。
「ほう。一本で済むか。そんなに力を抜いたつもりはないのだがな」
「メル!」
「大丈夫なのです! 流石に戦闘への参加は厳しくなるかもなのですが……」
腕が斬り飛ばされた。戦闘への関わりはメルシーネは今回近接戦闘を行っていないこともありそこまで大きくはないものの、怪我としては当然大きなもの、その痛みも余裕そうに見えること自体がおかしなもので下手をすれば失血で死ぬ危険もそのまま放置すればあり得る。もっとも怪我に関しては一時的に抑える、自身の肉体の状態を整えるくらいはできなくもない。少なくとも今すぐ死ぬようなことはない……とはいえ、戦闘への参加が若干厳しい事実はある。その点で公也たちが不利なことには変わりない。もともと有利でもないが、なお厳しくなったと言える。




