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魔法が降り注ぐ。小規模……この世界の一般魔法使いからすれば十分大きな規模だが、公也など魔力の大きい存在や魔女など魔法使いとしても特殊、上位に当たる存在からすれば小規模の魔法群が男性を襲う。神たる存在である男性であっても流石に大量の魔法、無数とは言えないが連続で降り注ぐそこそこ大きな範囲を攻撃する魔法群は流石に厄介である。ダメージは受けないだろうがそもそも魔法で押し出されたり押さえつけたり動きを阻害されたり。男性の力、特殊な存在としての力であれば防ぐこともできるが現状咄嗟にそこまで行動できているようではない。まあ一切ダメージは受けていないが。
「くっ、この魔法を止めろ!」
「こっちがやっているわけじゃないんだが……」
「ふむ………………」
男性が動きを止め、魔法を受ける。ダメージはない。無数の魔法が男性の周りから発生し攻撃していく。それを受けながら、男性は何やら見回す様子を見せている。
「……………………向こうか」
男性は上の方を見上げる。特にこの位置からは何があるか見ることは普通はできない。しかし男性は普通ではない。
「あの城だな」
「っ!」
城、アンデールのアンデルク城。男性がそれを見つける。自分を襲う魔法群、その発生の力の大本がそこにいるのを見つけた。別にその存在……夢見花の姿が見えるとかそういうことはなく、自分も襲ってくる魔法、その発生に至るまでの魔力の流れ……その流れを追い、大本を発見するに至っている。その正確な場所まではわからないが、アンデルク城にその流れが繋がっているのは分かっている。
「まったく、何を目的としているかはわからないが……愚か者には制裁を」
「止めるっ!」
「ですっ!」
「ふん」
公也とメルシーネがアンデルク城へと攻撃しようとする男性に対しその動きを止めようと攻撃をしかけるが男性は二人を止める。近づこうとする二人を未知の力で……神の権能、特殊な力で寄せ付けない。そんなことが常にできるくらいなのに無意味に近接戦、剣で戦おうとしているのだが、まあそういう話はともかく男性はその力で公也達を止める。そしてアンデルク城へと狙いをつける。
「行け」
斬撃、アンデルク城へと届くような長大強大な剣の一撃が向かう。
「来た。でも……恐らくこれくらいならまだ大丈夫」
神たる存在、その存在が放つ攻撃。城を狙うそれは城ごとそこに存在する者を吹き飛ばすつもりの一撃である。当然その威力は強大、山の一角を吹き飛ばし破壊するような一撃。そんな攻撃を普通は受けることはできない。アンデルク城は城魔と言う魔物だが城魔自体はそもそもただの魔物、普通の城と大して変わりようのないものである。アンデルク城は公也がいろいろ手を加え強化されていたり、魔法陣を使い様々な仕組みを追加したり、アンデルク城そのものであるペティエットがいろいろな理由で強くなり城自体が強化されていたりなどしているが、流石に一撃を容易に対処できるほど強いかどうかはまた別、というかそこまでの強度は流石にない。
しかし、アンデルク城はそのいろいろと抱える問題、複雑な事情もあり様々な問題への対策を考えられている。夢見花がいる、その点において夢見花の作った塔と同規模の対策を考えてもおかしくはない。まあ塔に比べるとアンデルク城は地脈からの力の吸い上げがそこまででもないし、そもそも城が魔物であるという点で管理する存在がペティエットであるがゆえに夢見花も過剰に手を加えるのは難しい。
ただ、今のアンデルク城はかなり特殊な状況が成立している……とんでもなく色々とあれな存在が多いのである。夢見花を筆頭に、魔法道具を作る存在、膨大な魔力を持つ存在、何かあった時どうにかできる存在がいる。
振るわれた剣、その力がアンデルク城にぶつかると思われた瞬間、障壁のようなものが発生し防ぐ。
「おお、見事に機能しましたね」
「エネルギーは十分。魔法道具がちゃんと機能するかどうかにかかっていた」
「一応試しはしましたよね?」
「私の魔法などで色々と試したけど確実に今の攻撃を防げるかはわからなかった。出力的、障壁維持、魔力、問題ないとはわかっていても実際にはどうなるかは判別できない。実際に攻撃を受けどう反応するか……それ次第だった」
「……機能してよかったですね」
「機能しなかったら死んでる……ということもない。他の防衛機構もちゃんとある」
「あ、そうなんですね」
夢見花がアンデルク城に仕掛けている防衛機構は当然他にもある。公也も手を加えているし、ペティエットも色々と対策は考えている。全部が全部ちゃんと作れているわけではないし、機能していない者もあるかもしれないが、今回みたいな強大な力に対抗できないにしても、緩和できる程度の力はある。
「そちらはともかく……こちらをどうにかしないと」
「流石にそっちは私は関与できませんね」
「魔法道具を使って手を出すようなことはしないように」
「しませんよ。もともと私も戦闘が得意とかそういうわけではないですし」
アディリシアは魔法道具を作ることができる程度の存在。いや、それでも普通は十分と言うか能力的に優秀なのだが、今回は相手が相手、強力な魔法道具程度でどうにかできる相手でもない。相手の攻撃を防ぐことができているのはそれ用にしっかり調整して作られた上で、膨大な魔力源、無数の魔石を利用した防衛機構の魔法道具であるからこそだ。
「さて…………どうするのがいい? とりあえず……塔に使っていた仕組み、使い魔の利用を」
夢見花は塔の魔力を利用できる。まあその塔はアンデールのある大陸とは別の大陸であり、そこから力を引き出すのは本来はアンデールにいては不可能だ。ただ、魔法道具の作成ができるアディリシアにその力の利用をできるような魔法道具を作成してもらうことでその力を利用できるようにしている。もともと魔力の多い彼女、多彩な魔法の力を使える彼女であるがゆえに、膨大な魔力、地脈の力を引き出し使えるならばとてもできることが増える。
そしてその力を利用できるのならば、ただ魔法を放つ以外のこともできる。
「ふん。小細工を」
腕だけの魔物が男性を襲う。魔物と言うよりは魔法で作り出された疑似的な魔力生命体と言うべき存在、それが男性を攻撃する。
「この程度」
剣で斬るだけであっさりと消える腕だけの魔物……しかし、魔力で作り出されているそれは夢見花の魔力が持つ限り生み出せる。そして夢見花の現在の魔力は塔から魔法道具の利用もあり、魔力は無尽蔵に使える。いくらでも、その魔物は生み出せる。
「…………数で押してくるだと? 魔法も同じだがこの程度で倒せると思われるとはな」
倒すことはできずとも、動きを抑えることはできる。であれば公也など、実力者に任せることができるならばそれでいいのだろう。




