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「っと……周りの様子が変わったな」
「脆いものだ」
「……破壊している奴が言うことじゃないと思うが」
斬撃の余波、攻撃の余波、それらによって周囲の樹々が破壊されなくなっている。周辺に隠れていたメルシーネも公也の後方で巻き込まれないように男性の動きを見ながら、その攻撃、その余波を回避している。
「しかしよく避ける、そして防ぐ。人間にしてはよくやる」
「……そちらこそ」
「神だぞ? なかなかやるが、所詮人間、この世界の唯人か。力も持たぬ、大したこともできない」
「風よ」
「ふん」
「……魔法も効かないか」
「この程度の、この世界の法則の力でどうにかできるものか。そもそも力で対抗しようなどと……甘い」
簡単な魔法は素手で払われる。別に攻撃は当たっていない、その力によって払われたものだ。力……公也の持つ力は魔法が主体になるし、その肉体の力も大きなものである。しかし、何よりもその特殊性は能力、<暴食>にある。それを使うのは今のところ控えられているが、それに限らずその系列、傾向の力も存在する。というよりも、この世界では認識されていないが、神の使う力などは存在力と呼ばれる力であり、その存在に由来する力である。この世界ではない世界では普通に使われる力である……というよりこの世界ではむしろ使われない、多くの世界では使われない力、と言う方が正しいだろう。
その力は存在の格によって力の大きさが比例し強い存在、存在として他を隔絶した存在であるほど強力な力となる。神の力は当然他と比しても強大な力である。単純な力でもそうだし、魔法などの特殊な力においてもそう、そもそも肉体の力は"生霊力"と呼ばれる力に由来し、魔法などの力においては"希世力"と呼ばれる力に由来するもの、そして"存在力"はその二つの力の根源、あるいはその二つの力の複合、どちらかというとその二つに分かれた由来の力とは別の性質の違う力である……まあ、ともかくその二つの力に容易に対抗できる強大な、あるいは根源的な力である。
ゆえにその力を行使できるのであれば……いや、そもそもその力は力そのものと言うよりは存在の格、密度、強大さ、世界における存在の在り様を強めるもの。弱い力程度であれば……手で払う程度でかき消すようなことができる。剣に力を籠めることで容易に払うこともできる。それが神の圧倒的強大さである。
「天より降る雷光、雷よ裁きとなり下れ! サンダーボルト」
「神に裁きとは笑わせる!」
雷、詠唱を備え呪文を唱えた強大な一撃も……強大と言えるほどの魔法であってもあっさりと払われる。
「……………………なら、これで!」
魔法において強力な一撃とする手段、詠唱や呪文、そういったものを組み合わせて強力なものにする。一般的にはそうするものだが公也の場合は少々特殊で膨大な、絶大と言ってもいいエネルギー総量……膨大な魔力を保有している。例え詠唱や呪文がなくとも魔力だけでも魔法は使える。ただ、効率が悪いので行われないだけ、そして一般人の魔力では魔力をどれだけつぎ込んでも魔法の威力はそこまで極端に高くはならない。
しかし公也の魔力量は数人数十人どころか数百人以上の人間の魔力量……いや、それ以上の魔力量と言えるだろう。それだけの魔力量を持っているのであれば、その魔力量から魔力によるごり押しで魔法を使うのであれば、その威力は詠唱や呪文を気にしてあれこれする魔法以上の魔法になり得るだろう。もちろん詠唱や呪文を組み込めばその分だけ威力は上がるし効率も良くなるものだが、そういったあれこれを考えると逆に枠に落とし込むことになり得るためただ魔力によるごり押しの効率の悪いやり方をした。その方が純粋な力として成立させやすいと考えたゆえである。
「ほう。それはなかなか強大な一撃だな」
男性は公也の使った無理やりな攻撃を見て呟く。しかしその表情に焦りはなく、笑み……嘲りに近い笑いを浮かべていた。
「だが、私は神だ。神を相手にこの程度とは」
男性が剣を振る。
「笑わせる」
あっさりと、公也の膨大な魔力を用いて行った攻撃を剣で斬り払う。
「……………………」
結構な魔力を込めたとはいえ、確かに公也の使った魔法は神を相手には不足していると言える……以前戦ったことのある神ではない、邪神の眷属たる存在に使った魔法を思い出せばその結論に至ってしかるべきである。公也の魔力の数割、それくらいを消耗するような大規模の空間圧縮、それくらいの威力でもなければ神には届かない……とまではいかないが、そんな規模の、強力な魔法を使うべきではあるだろう。
「しかし、やはり強いのは確かだ。楽しませてもらえている。噂になるだけはある。だがここまで、と言うところでもあるか」
そう言って男性は公也に攻撃する。相手の強さは公也に合わせ、公也よりも強くなるように強くなっている。公也もそれに合わせているが、それぞれの出力のあげ方は違う。公也はあまりそういった極端に上げるのは得意でも徐々にというバランス的な強さの上昇は得意では得意ではなく、一方で男性の方はそれに慣れている。相手の強さに合わせ自分の強さを引き上げる、さらに言えばその強さの一つ上の強さに合わせ相手を甚振る。そして殺すつもりになれば二つ上、三つ上の強さにすればいい。それだけで相手は対応できなくなる。
「っ!」
「む。耐えるか」
もっとも公也は普通の人間とは強さが違う。強いというか、男性のように強さを引き上げることが可能な……普段自身の全力、最大の力を出さないように制限しているという点では同じ。相手の動きに対応できる。しかし公也は得意ではない。それゆえに急激な段階の引き上げの変化は動きに若干の混乱を見せることになる。そこに男性が合わせないわけがない。男性の一撃で公也が死ぬようなことはない。いや、死ぬには死ぬが肉体的な破損はすぐに復活できるため大きな問題はない、と言う話だ。その点で公也は普通の人間から大きく離れている。なので多少けがをしようが、一度死のうが問題にはならない。まあ今回は相手が相手なので問題にはなるかもしれないが。
しかしそれを止める者もいる。この場において二人の戦いに唯一干渉できる存在……強大な力を持つ神を相手にも戦える存在。
「むっ!」
「っと……メル?」
「加勢するのです」
熱線、熱量を集め光線のようにして放った竜のブレス。流石に神と言えどそれを安易に受けることはできず避けた。メルシーネの加勢……彼女は竜であり強くはあるものの、決して神に届くほどの力量ではない。しかし公也の手助け程度であれば彼女でも問題はない。どこまでできるかはわからないが。




