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「…………っと!」
公也は男性の剣戟を受け止める。このとき公也の感想はヴァンデールよりも弱い、という感想になる。ヴァンデールは公也に認識できない速度で動くことが可能、しかしこの男性は公也が認識できる速度で動いている。その時点で公也としては脅威度合いが低い……相手が神と言う存在であるのに公也が対処できるのはちょっと、という感じだろう。圧倒的強さがない、普通の冒険者と同じ程度の強さしかない、多少強くはあってもこの程度か、と言う想いである。
実際男性が別の冒険者と戦っていた時、その冒険者と剣を打ち合わせるレベルでの戦闘能力であった。彼自身の戦闘能力はあまり高くない、そう考えることはできるのかもしれない。しかし相手は神、そもそもの身体能力と言う点で全ての存在の脅威度合いをを決められるのであればミディナリシェもクシェントラもヴィローサも一切脅威ではないということになる。身体能力以外の点での強さ、魔力や能力的なもの、そういったものも強さに含めることができる。決して肉体的に強くないように見える相手だから大したことはないというのはかなりの侮りになるだろう。
「ふむ。この程度は防ぐか」
「……あまり強くはない、か?」
「ご主人様! 油断すると危ないのです! 相手は神なのです! どこまで力を出せるかはわからないのですよ! ご主人様だって本気出してないほうが多いのです!」
「本気を出していない? ふむ、どの程度の強さならお前は……その本気を出す?」
「っ! 速くなった!?」
「まだまだ行くぞ」
「っ! っと!」
メルシーネの言葉と共に男性の動きは速くなる。公也の動き、強さを見極めるかのようにその動きは速く、早くなる。
「くっ」
「しかしその剣、なかなかいい物のようだな。私の一撃にも耐える……お前も強いが、剣も強い。いい、いいぞ、その剣、お前を殺したら貰おうか」
「くれてやるわけないだろうっ!」
剣と剣が打ち合う。男性は言葉は軽いが公也を殺そうとしている。公也の方はどうするか、と言う感じではあるが別に男性を殺さないでおく理由もないし襲われて殺されようとしているのであれば別に殺してもいい。ただ、お互いの強さ的に現時点では拮抗している、少なくともどちらかが打ち負ける、劣るようには見えない状況にある。武器の良し悪しは戦況に影響するが、本来なら公也の剣であるミンディアーターは並の武器なら本気で打ち合えば切断するような凶剣である。それに耐える男性の剣もいいもの、なのかもしれない。あるいは男性の剣が斬られないのは男性が神であるがゆえ、その力による保護があるから、と言う可能性はある。そもそも通常出れば剣と剣、武器と武器が打ち合えば欠けてもおかしくない。そんな戦闘手段が罷り通るのはそういった形での損傷がこの世界では起こり得ないから……メルシーネは一応知識はあるが、存在するもの、その力による武器への保護がある。この世界の多くの住人はその力について知り得ないし、知っていてもほとんどの場合は使えないだろうが、それでも無意識的に行使されている力は存在しないわけではない。そのわずかな力による保護が成立しているためそういうことが為されているのだろう。
そして神であれば当然その力について知り得ている。"存在力"と呼ばれる力について。そうでなくとも神というものは理不尽で圧倒的な強者、存在的な上位者である。ただ意志を込めるだけで自分の持つ普通の武器を他者の持つ質のいい武器を余裕で越えるような武器に変化させる……変化させずともそういう状況、力を発揮できるものにするようなことくらいできるかもしれない。もっとも、決してそれは自分の武器がいいものであるというわけではないだろう。ゆえに男性は公也の剣が相当質がいいと判断し欲しがったという感じだと思われる。
もっとも公也の剣は神の剣、持ち主を自分の意思で選択し、それ以外に所有しようとするものを攻撃するような狂剣である。それを持てば勝手に死にかねない……が、相手は神、死ぬことのない相手。そもそもその力で無理やり従えることもできるかもしれない。まあ、そうした場合剣の本領発揮をすることはできないだろうが。
「はあっ!」
「ほう。なかなか強い強い」
「っ、当たらない?」
「その程度の攻撃当たるわけがない」
「……当たっているはずだ。当たっているのにあたっていない」
「ふむ、目は良いようだな?」
公也の攻撃は何度か男性に届いている。しかしそれは、なぜか男性に当たらず避けられている……いや、剣が避けている、剣が相手の体の上を滑っている、というように表現するべきだろう。公也の攻撃は確かに男性に届いているが、その攻撃は男性の体の表面……表面から少し外、見えない壁のようなもので遮られ、それゆえにダメージを与えることができていない状況にある。
「魔法……いや、そうは到底思えないな」
「魔法か。くっ、そんなものと一緒にしてもらっては困る。これは神の力、神の権能。人間などと一緒にしてもらっては困る。我らのような存在はちょっと力を放出するだけで存在的に隔絶するのだ。お前たちの刃など私の前では木剣と大して変わりない。お前は強いと聞いたが、その程度か?」
「………………舐めるな!」
速さが、威力が、力が上がる。公也も持ち得る力は並大抵のものではない、持っている生命力、保有するエネルギー、発揮できる身体能力は数百人以上の人間が同じに力を込めた時の力ほどの力を発揮することもできる。具体的な数値は難しいし、表現的にも正しいかは不明なところ上がるが、実際その気になれば大地を割るようなことも不可能ではないだろう。それだけの力を発揮し上手く扱うことができるかはまた別として。
「それがお前の強さか。なかなかやる」
「……ふっ!」
「おっと。ここまで強いのであればこちらも少々本気で行かせてもらおう!」
剣が振られる。横薙ぎに振るわれたそれは公也がミンディアーターで受け止め……それまでに振り切られた剣閃の先に会った樹々を切断する。
「っ!?」
「危ないのですね!!」
メルシーネが巻き込まれることはなかったが、下手をすればその射線上にいただろう。一応剣閃の先にあるものを無制限に切断するわけではないとはいえ、数メートルは余裕で斬り飛ばしている。メルシーネの防御力であれば耐えられる可能性はあるが……相手が神であることを考えると流石にまともに受けるのはあまりよくないだろう。
「環境破壊はやめてもらおうか」
「止めてみせるといい。別に私はどうでもいい。ちょっと力を込めているだけだぞ?」
簡単に止められるものではない。戦いは拮抗しているが……レパートリーと言う点では公也よりも男性の方が上だと言える状況である。




