表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1623/1638

8





 公也・ヴィローサ・メルシーネ



「……ふう」

「大変ね、キイ様」

「ヴィラ」

「辺りになーんにもなくなっちゃった……いつものことなの?」

「………………ああ」

「大変ね」


 ヴィローが公也についてきて公也の向かった場所で公也の様子を見ている。普段とは違う公也の様子……公也の<暴食>を使う状況、特殊な飢えによるどうしても使わなければならない状況にあるところに一緒にいた。ヴィローサ以外にもメルシーネが一緒にいて様子を見ている。公也は<暴食>の使用状況にもよるが時々飢える。それは決して普通のお腹がすいた、食事でどうにかなるという物ではなく、<暴食>を使わなければいけない。それも単純に使えばいいという物ではなく、飢えを満たすために半ば暴走的な能力使用になるためまあまあ特殊な形となる。周りの状況を一変するような、周辺の大破壊を起こすようなものだ。いや、破壊でもない。何やら暴風が通り過ぎたように辺りを浚い消し去る消滅、食らうもので結構色々となくなっていく所業である。


「大変なのですよ。ご主人様が受けた力はそれだけ強大なのです」

「……良くない感じもするもんね。でも悪いものでも毒ではない感じはするかしら? 悪いというだけでも毒ではあるけど、キイ様の毒にはなってない。ただ……今回みたいなことだと何か毒性を感じるは」

「ヴィローサの感覚は本当に独特的で意味が分からないのです……」


 公也の持つ<暴食>の力は少々特殊で公也自身に悪影響がある代物である。しかし今回みたいな飢えと言う形での発露がなければ基本的に問題は起きないしろもの。原則それ自体が公也に対して悪影響を与えることはない。ただし、それはあくまで公也に対してのみであり、それ以外に対しては違う。そもそも公也の力は世界に対しては極めて悪影響を起こす代物。あらゆるものを食らう力、この世界のすべてを食らい取り込む力。公也自身の欲求は全てを取り込むことではなく知らないこと、知り得ること、なんでもかんでも知ることがその主体に在り、あらゆる知識を求め取り込む姿勢が食らう姿、なんでもかんでも食べる<暴食>をイメージするものである。だからこそ力も<暴食>であり、その強大な力を使える……のだが。同時にその<暴食>は空腹、飢え、そういう性質も持つ。もともと公也自身、知識を求める欲求ゆえに足りないと感じることがあり、それが能力と通じ飢えとして<暴食>の力を発揮し空腹、足りない欲求を満たすものとして作用してしまっている。


「しかし、最近は力を使う機会も減っているのです。それが意図的なのは分かるのですが……」

「わかってる。使わなければ使わないほど、結局使わざるを得ない」


 公也の<暴食>の飢えはその力を使いいろいろなものを取り込めば多少解消されその暴走までの期間を延ばす。しかし公也はその力を使いたくない……<暴食>は喰らった存在をこの世界から消滅させる。物理的に、存在的に……その世界から隔絶する。ぶっちゃけていえばそのまま公也が己の内に取り込む、という話になる。公也はこの世界に存在するがこの世界の住人ではない、この世界の住人であるにしてもこの世界から離れた存在である。<暴食>は邪神から受けた力、神の力でありそれを取り込んだ公也は神に近しい存在である。実際結構な力を取り込み神に近づいている事実もある。契約や加護、公也と縁のある存在は力を得て年齢の経過すらしなくなる。当人もほぼ死ぬことのない特殊な生態だ。例外的に特殊な世界を終わらせ得る存在によって終わらせられる可能性はあるが、そんな存在は公也と同じで特殊な例外的な存在である。

 公也の力は世界を滅ぼす可能性がある……というより、公也の力は最終的に世界を滅ぼす。世界を食らい、己に取り込み、最終的に公也は世界と同規模の存在となるだろう。そしてそれは神に等しい。それだけの力を得た後、この世界のすべてを食らい……世界を滅ぼしたのち、彼自身が世界になることになる。神はすなわち世界と同等、世界そのものになり得る。全てを食らい取り込むそれは全てが内にあるということ。公也自身が世界に、公也のうちに世界を、神そのもの、公也そのものが世界となりて内に世界を作りその管理を行う……そういう世界形態となり得るだろう。


「難儀なものなのです……」

「キイ様も大変だよね」

「まあ、別に大変とかそういう物でもないさ……お腹が減ればものを食べる、それに近いものだと俺は思ってる」

「間違ってはいないのですね。それがあらゆるすべて、世界、世界に存在するもの、そして世界に還ることがないのが問題なのですけど」

「俺も別に世界を滅ぼしたいわけじゃないからな……」

「でもダメなのですよね。ご主人様は長く生きる……というより寿命で死ぬことがないのです。そしてご主人様の飢えは耐えられるものではない、本能的な、それこそ食事に等しい、生きるうえで我慢できないものなのです」


 公也も公也で色々事情を抱えている。もっとも基本的に本人が悪い物な気もするが。いや、いいも悪いもない、その人それぞれの在り様だ。


「ふう。まあこれで今はいいかな」

「戻るの?」

「ああ。アンデールで仕事をする……っていっても、今はそんなにないか」

「最近はご主人様も出る必要性は薄くなっているのです。というより各地各国でそんなご主人様を頼るような問題ばかり起きるのはそれこそ大問題なのです。自国で対応せずご主人様に任せるのも同じなのですよ」


 公也が王として任せられる仕事、アンデールに回ってくる他国の依頼は本来ならあり得ない仕事である。公也が王、というか冒険者として特殊、有事の際にSランク扱いになるような異端、極めて強力な冒険者であること、その力を借り受ける目的がありアンデールが作られた、依頼を頼む国、独立した存在として成立させるための事情などが複雑に重なり今のような形になった。しかしアンデールも大きくなりあまりにも過剰に仕事が任せられるのも報酬的な問題が出てくる。そもそも自国の問題は自国で解決するべきであり、他国を頼ることは問題がある。公也が冒険者としての立場もあるからこそまだ容認されるもので、通常ならばまずありえない。

 そしてその仕事も今はほぼ落ち着いた……というか、その殆どを片付けたこともあって仕事が来なくなっている。流石にこの世界もそう頻繁に世界の危機が起こるようなことばかりがあるわけではない。まあ、公也も大体問題が片付き仕事が落ち着くのは別にこれが初めてではない。一気に多くの仕事が来る時期と全く仕事が来ないような時期、そんな感じに仕事の必要のメリハリがある。今は安定した時期、問題の少ない時期ということだ。まあこの大陸に限っての話ではあるが。他大陸ではどうかは分からない。

 

「まあ、何もないことはいいことだな」

「……本当にそう思っているのです?」

「個人としてはまあ、そう思ってるよ。俺自身の求めるものとしては珍しいことがあってほしいと思ってるけど」


 精神的、公也の求める欲求の方面で考えると何かある方がいい。しかし人としては平和な方が、何もない方がいいと思っている。王としての立場としても何もない方がいいだろう。まあ、そういった部分は結局公也で決められることではない。この世界で何がどう動きどうなるか、そんなことは誰も知ってはいない。全ては運命……起こり得る流れ、世界に組み込まれた物語の形、在るように、成るように、全てを知り得るのは先を決め得る世界のみか、あるいは世界を支配する神か、世界に存在する物語あるいは運命か、それとも更なる外の世界を作りし存在か。誰にもわからない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ