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「ただ始末して回るっていうのもあまり気分がいい物じゃないな」
「無意味な怪我をしないで済むのは良いことだと思いますが」
「キイ様に楽してもらう方がいいもんね」
「……確かに安全なのはいいことだと思うが」
現在公也たちはモスマンたちを始末して回っている。モスマンは像の周りでばったりと倒れ伏しており、その動きが鈍く殆ど動けない状況にある。なぜそうなっているのかと言うと、モスマンたちが毒によって汚染され体が麻痺したからである。もちろんそれはヴィローサの手によるもの。周りにいたモスマンたちの動きを止めるためのものである。とりあえず周りのモスマンを始末しなければ調査することもできないし、モスマン自体公也たちからすれば危険……とは言い難いにしても害ある存在であるため駆除するべきではある。
公也からすれば駆除、始末すること自体は悪いことではない。そもそも真っ当に戦い倒すこと自体は普通にやるだろう。ただ、今みたいに倒れているそれを始末して回ることはどうなのかと公也は思っている。なんというか本当に虫を潰して回っているような、若干申し訳ない気持ちになる行為だからそう思っている。本当にただの虫ならそうは思わないかもしれないが、モスマンは魔物とも言える存在で一応は人型に近い形をしている。そのため人っぽいイメージ、感じ方であるため申し訳ないと思ってしまう気持ちがある。まあ結局相手は魔物だし、やり方が違うとはいえ殺す、始末することには違いないので別に問題はないと思えるだろう。
とりあえず現状は安全に像の周りのモスマンたちを始末している公也たち。他にもモスマンたちは森の中にも残っているがすぐには近づいてこないだろう。ヴァンデールやモミジたちのこともあるし、相手も相手で驚異的な公也たち、ヴィローサの存在やカシスの存在に警戒し近づきがたいところはある。そもそもヴィローサが近づいてくる相手に毒を与えたりカシスが呪いによる近づくことの阻止を行っているためなかなか近づいても来れないだろう。
「しかし……この像の調査か」
「像よりは地下の方が重要です」
「それは分かっているんだけど……」
公也は像の方を見る。人の姿をした像、モスマンと何らかの関連のあるものでカシスやヴィローサの談ではそれが蓋をして地下に存在する何かを封じている、みたいなものらしい。まあそれはそれとして、公也としては像の方も結構気になっている。確かにそれは蓋の役割をしている物なのかもしれないが、それを人の形にする意味はあるだろうか。モスマンの関連物であるならモスマンの姿にするべきだろう。もちろんモスマンと関連しているということを知られないようにするため、と言うのはあり得るが、それにしても人、それも英雄でもない平凡でよくわからない普通の人間の姿をしている意味はあるものだろうか。
「像ねえ。これ、中があるみたい」
「中?」
「うん。この人の姿の中……空洞ですわ。そしてその中に像があります」
「……形は?」
「そこらへんに倒れているそれらと一緒です」
「………………なるほど」
公也はミンディアーターを抜く。ヴィローサの言葉を聞き、像の意味、それを何となく察することができた。像の中に像がある、マトリョーシカみたいな仕組みに見えるがそれとは少し違うというか、隠すためのガワなのだろうと推測される。いや、より厳密に言えば、この像はモスマンのことを表す像である。
「ふっ!」
ミンディアーターが振り抜かれ、像を斬り裂く。ミンディアーターは特殊な剣、斬りたいものだけを斬ることもできる神の剣。公也の意思できるべきものを選択できる。公也は像の外にある像、ガワとなっている像のみを選択し斬った。
「……ああ、そっか。このままだと中身は出ないか」
像を真っ二つに切っても綺麗にぱたりと倒れるわけでもないし、斜めに切ってもずり落ちる前に中身の像に引っかかる。真横に切っても当然何かの作用で持ち上げられるわけでもない。
「よっと」
なので自力で像を持ち上げる、ずらすなどしなければいけなかった。像のガワであった像を除去する。そこにあったのはモスマンの像であった。
「……悪趣味な」
「何がですか?」
「モスマンは人の中に入りそこで成長し人の中から、人の殻を破って現れる。それをこの像で表しているんじゃないか?」
「それは確かに悪趣味なのかもしれません」
像の中に像がある、それ自体が重要と言うよりは像自体がモスマンの生態、在り方を表している……モスマンの発生の時と同じ、人の中にモスマンがいる、みたいな形を像で示しているということ。少なくとも公也はそう考えた。
「まあ、その悪趣味な像の中身、形に関してはともかく……」
「像が蓋をしていた、その事実も確かですね。足元に階段があります」
「像の前か。この階段を隠す意図もあのガワの像にはあったのかな」
そして像の中に像があったが、そのモスマン像の前に存在するのは階段……ヴィローサとカシスが言っていた毒、呪いの溢れる場所……その先からあふれてきている、地下への道。像の中にわざわざ隠されているあたりとても重要なものなのかもしれない。いや、モスマンたちがわざわざこの場所を守っていることを考えれば重要なものなのだろう。
「ふむ。なにやらモスマンどもがたくさんいたようだな」
「ヴァンデール」
「それに像……確か人の像であったのではなかったか? なにやらモスマンの像の様だが」
「人の像の中にモスマンの像があった……それに何か地下に続いている階段もある」
「ほう。それはとても怪しいな。何やらこの下にあるということか」
公也が地下があることを確認し様子を見ているとヴァンデールが森の中から開けた場所に現れる。結構な数のモスマンが彼の元に向かい襲ってきていたはずだがそれら全部を撃退したようだ。まあモスマンの百や二百、彼にとっては大した問題でもないので当然の結果ではある。
「ではこの先に行くとしよう」
「いや、待て」
「なんだ?」
「セージたちがまだ来ていない。行くにしても彼らの様子を見てからの方がいいんじゃないか?」
「……うむ、そうだな。我が眷属も向こうにいるわけだし、モスマンどもも向かっているか。あの者たちも決して弱くはないが、一応探しておくべきだろうな」
ヴァンデールが先を進むつもり……だったがこの地に来ているのはもう一組、セージたちの冒険者組が存在する。彼らを念のため助けておいた方がいいだろう。地下を調べるのにも戦力、調査要因となる存在がいた方がいいし、彼らの安全面も心配なところがある。そういうことで全員でいったん合流、その後地下の調査となるだろう。




