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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五十章 呪いの地
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 ヴァンデールの探すモスマン関連の情報、その対象とされた公也は現在アンデールにいる。色々と用事がありしばらくはアンデールにいなければならないためどうしても外に出れず滞在している形だ。

 さて、そんな公也だが、別に常にアンデールで仕事漬け、国内の仕事や城で国政の仕事をしている、とかそういうわけではない。城にいる他の住人と会っていろいろ話したり情報交換したり、あるいは単純に友好を深める……公也とのつながりの深い人物もいて、色々あったりとそういうこともあるだろう。特にヴィローサなんかは今ぐったりしているため公也の傍で公也分を補充しなければいけないらしく結構長い時間傍にいるようになっている。

 まあ、そんな話はともかく、今の公也は地下にいる。妖精たちの方ではなくアンデッドや精霊のいる方、そちらに訪れている。そこの住人の多くは別に公也に用はなく、公也も別にその殆どに対して用はない。そもそも訪れて会おうとしているのはたった一人、呪いの力を持つカシスである。


「どう思う?」

「……呪いとモスマンとやら、の関係ですか」


 公也が訪れた理由はモスマンと呪いの関係について訊ねるためである。公也はヴァンデールにモスマンの気配がすると言われている。公也はそれに心当たりがないが、それに近いものとして呪いの気配をカシスが感じていたことを聞いている。呪いとモスマン、果たしてそれらがどう関係するのか、それは公也にもわからないが、カシスであればそれに何らかの憶測を行うことができるのではないかと考えこの場を訪れた。彼女はある意味では呪いそのものと言える存在であり、もしかしたら何かわかるかもしれないと期待して。


「流石にそれを問われても私には……」

「そうか」

「そもそもそのモスマン、ですか? それが何なのか、どういうものかも詳しくはないですし。その気配と呪いの気配が近いという話があったとしても、何とも言えません」


 前提としてカシスはモスマンが何か、ということ自体知らない。それなのにその存在と呪いの関係、何かあるのではと問われても何も言えないだろう。せめて実物がいればまだ判断できるかもしれないが。その敵対者として在るヴァンデールやモミジの存在は把握できてもそこから呪いに繋げるのは無理だ。


「あれはねー、毒だよ毒」

「毒?」


 公也の頭の上にぐったりしながら掴みついてきていたヴィローサがそう語る。ヴィローサは公也について回った結果一度モスマンの存在を確認している。毒の妖精でありその中でも極めて特殊な性質を持つ彼女はあらゆる毒を見極めることもでき、その毒が別に物理的なものである必要もない、毒と認識されるような要素であれば何でも成立し得る。


「あの全部が毒のあれでしょ? 普通の生物じゃないよ多分」

「……全部が毒、か」

「生物はみんな毒塗れ。どんな生物でも毒を持たない生物は少ないわ。でもあまり多くない生物はいる。心を持たない、生まれたばかり、あるいは毒そのものを完全に排除した特殊な生物だったり。でもその逆、全部が毒と言うのは基本的にあり得ないわ。私みたいなのならともかく」


 ヴィローサは己が毒の妖精であるがゆえに、己自信が毒そのものと言っていい。だからある意味ではモスマンと呼ばれる存在に近いものと思っている。そもそも毒とは何か、彼女にとってはそれは害、害意、すなわち敵となり得るもの、脅かす存在、悪、そういったものだ。ヴィローサは悪、まあこの世界にとっては危険な毒を操る存在……というか本人がそういう性質を持つがゆえに自身をそれ一色にしているがゆえにすべてが毒ということになるわけだが、まあそれはさておき、モスマンはヴィローサが見てその存在が毒である、全てが毒であると判定した存在。すなわちこの世界にとって害にしかならない存在。もっとも判断しているのがヴィローサなので厳密にすべてが毒だから世界にとって害にしかならない、とは限らないのだが、まあともかくモスマンは敵、絶対に仲良くなることの駅ない害悪存在であるということになるだろう。


「全部が毒……」

「あらゆるすべての敵、あらゆるすべてを敵とする存在。まあ私も似たようなものだけど、そういうのは基本的にまともに生まれるものじゃないわ。私はキイ様がきっかけだったけど……モスマンとやらがなんなのかはよくわかんない」

「そうか」

「ついでに言うけど、そこの女も似たようなものだから」

「……私ですね。そうですか、私も毒、ですか」


 少し傷ついたように、しかし納得しながらカシスは言う。


「……呪いか」

「恐らくそうでしょう。本来呪いは生物にとって害となるもの。使い方次第では祝福にも加護にも利用できますが、結局のところそれ自体がその者に対する害の一種です。使い方次第というのもあくまで方向性で害とならないように調整しているだけにすぎませんから」


 強い呪いをかけることで他の呪いを避ける呪い避けにしたり、ある種の弱体化をすることで別の変化を防ぐとかそういう使い方もできる。しかし呪いの本質は結局のところ相手への干渉、意思による変化……相手をどうにかしようという効果である。おまじないもお呪いと書くように結局のところ呪いと本質的に違いはない。願いによる改変、変化、影響、相手に対する干渉……本質的にそれは害に近い。それでも完全な悪、敵や害にはならないかもしれないが、カシスの場合は発生起源からしてあまりいいものではなく、その呪いそのものと言ってもいい立場は当然この世界にとって悪となるもの、毒そのものと言えるだろう。


「……つまりモスマンは呪いそのもの?」

「ですがその存在は私と違い実体があるのでしょう? であればそうであるとは言い難いと思います」

「……それはそうか」


 カシスと同じと考えればモスマンは呪い、ということになる。しかし呪いは実体を持たない、まあカシスみたいな例はあるが基本的には概念や意志的なもの、実体が存在しない者が基本だろう。そもそもカシス自身も霊体、アンデッドに近い存在であり実体はない。まあカシスと言う存在、意思はあるわけだが。そういう点で言えば仮にモスマンが呪いだったとしてもモスマンと言う存在、意思はあると思っていいのだろう。もちろんだから実体があることにはつながらないが。

 一方でヴィローサの存在もある。彼女は呪いではないが、毒判定したモスマンやカシスと同じようなものである。毒であるという点であれば実体の有無には関係がない。まあ今回議題として挙がっているのは呪いの方になるのだが。これはカシスとヴァンデールの公也への反応の類似性からの判断である。少なくとも毒がその要素に値するものではない。まあ呪いが毒であるならばヴィローサも同じような反応、感覚はあったかもしれないが。


「……気になるのであればその存在に関して、モスマンとやらについて知っている人物に訊ねるのが一番でしょう」

「……それもそうか」


 カシスにいくら聞いたところでその存在のことについて知らなければ推論にしかならない。公也もモスマンに関しては厳密にわかっていることはほとんどないし、何とも言えない。生態、生物的なあれこれはある程度分かっていても、根本的なものは不明である。それを追う、その存在たちの敵となっているヴァンデールやその眷属のモミジに聞く方が一番だろう。




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