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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五十章 呪いの地
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 ヴァンデールは基本的に暇である。モミジとこれまでの色々な話、またヴァンデール自身の経験した色々な話をするにしても、どうしてもその話し合いには限界がある。何日も話し続けることができるほど世の中特異な出来事が多いわけでもない。まあ、ヴァンデールもモミジも色々とぶっとんだ経験はある、あるが、しかしそれでもやっぱり限度はある。そういうことなのでヴァンデールは暇つぶしにアンデルク城の中をモミジの案内を受け歩いていた。流石に彼一人で自由に歩かせるのはいろいろ問題がある。

 別に城の中のあれこれに関してはヴァンデールの場合、当人が魔物であるため別に知られたところで問題はないし、本人も言っているが別に話すような知り合いも特にいるわけでもなく、いてもモミジと名前を与えた相手くらいなのかもしれないくらいでさらに言えば基本的に人間ではない。なので知られたところで大した問題にはならないだろうと思われる。

 まあそんな感じで適当にアンデルク城の中を歩きあれこれ見ていた。あくまで城の中でもどちらかというと魔物より、関連の強い部分が主であり、人間側、特に城の運営に関わる側にはあまり接触しない形で案内を受けていた。


「ふむ。よし、いいぞ。やりたいというのならば構わん」

「よしっ! じゃあやりましょう! 今すぐ!」

「……どっちの方が強いんだろう?」


 そしてそんな中、接触できる方に含まれていたリーンとフラム。冒険者の仲間であるしリーンが魔物よりもいろいろあれなところもあって別にヴァンデールのことに関して知られても大丈夫かなと言う感じもあるし、リーンがとても戦いが好きということもありモミジも強いと知っているヴァンデールと戦わせるのはいいかもと思って紹介した形である。リーンもヴァンデールの強さを感じ取り、あっさりと戦いたいと申し出た。そしてヴァンデールもあっさりとその申し出を受けた。それが現状である。


「うむ。しかしどこで戦う?」

「うーん……どこがいいかな?」

「外で戦うのがいいと思うけど。でもそっか、どこがいいんだろう? っていうか戦うなら王様に言っておかないとダメじゃないかな」

「あ、そうだね。じゃあ王様に伝えておこっか」


 流石に公也、あるいはその関係者……アンデルク城の管理側の人間に戦うことを伝えないで戦うのは良くない。下手に戦うと騒動になる。別に問題のない戦闘行動ではあるが周りから見ればいきなり喧嘩と言うか殺し合いをしているわけなので止められたりするしその後ちゃんと言っておかないとダメだとか怒られたりするかもしれない。なので誰かにちゃんと言っておく必要はある。もちろん誰でもいいわけでもないだろう。ちゃんと事情が分かる相手、わかってくれる相手でなければいけない。まあ一番いいのはやっぱり公也だろう。一番好き勝手しても問題ない、と言うか当人が好き勝手しているし。







「ああ、いいぞ」


 軽いその一言で外の広い場所で戦うことになったヴァンデールとリーン。


「ふむ。さて、来るが良い。我輩これでも滅茶苦茶強いのでな。そっちから来るのを待ってやろう」

「…………ふーん。そっか、私ナメられてるね?」


 ゴゴゴ、という圧を感じそうな気配を出すリーン。ヴァンデールからすればたった数十年程度、百も生きていない若造に負けるほど自信が弱いなどとは思っていない。しかしリーンからすれば勝てる勝てないにかかわらず、そのように自分が弱いとみられること、ナメられること、それ自体が怒りに値するものである。もともとこの戦いは模擬戦、試合といった基本的に普通の人間の行うものではなく、相手が死のうと構わない純粋な殺し合いに近いものである。ゆえに、彼女は思いっきり殺気をヴァンデールに向けた。もっともリーンの殺気もどこ吹く風と一切気にしていないヴァンデールである。


「じゃ、行く、よ!」


 ぐっ、と自分の持つ斧を構え、一気にヴァンデールに近づくリーン。そのリーンの動きを見ながらヴァンデールは一切動かない。構えもしない。その攻撃の早さは一般的な冒険者でもなかなか追いかけるのが難しい速さである。そして振り下ろされた斧は波の防御能力では防げない、盾ごとぶった切るような重い一撃。


「なかなか速いではないか。うむ、力もある。結構な強者だな」

「っ!」


 しかしそんな一撃もヴァンデールはあっさりと受け止める。受け止めるというか、振り下ろされたそれ一掴み。たったそれだけでリーンの動き事完全に止める。力をいくら込めても一切動かない、力がかかり振るえるようなこともない、完全にそこで静止させられている。


「おっと。流石に持ち方良くないねこりゃ」


 正面から振り下ろされた斧を受け止める、それゆえに斧の刃の面で受け止めている。真剣白刃取りを片手でやるようなもので、ちょっと奥まで入り込んでいるため持っている手に若干傷がついている。そこから血が出て……いたが、もうすでに治っている。魔物らしい特殊な生命力、本人談では吸血鬼であるがゆえにその再生能力は高いのだろう。


「さて、今度はこっちから行くぞー」

「っ、わあっ!?」


 ノリは軽いがリーンが吹っ飛ばされる。ヴァンデールが持っている斧を、そのままぶんっと振り回して。リーンも結構な力持ちではあるが、そのリーンでもすっぽ抜けるような力の勢い、というか手を離さないほうが危ないと本能的に感じるような速度だった。あるいは手を放さなければ地面に叩きつけられる可能性もあったかもしれない。


「くっ」

「武器はないからもう諦めるかな? ふふふ、我輩は強いぞー」

「もうー! ナメないでー!」


 武器がないなら素手で、思いっきり殴りつけようとするリーン。しかし先ほどとは違い今度はヴァンデールはその攻撃を避ける。


「わはは! 武器がないからと素手で挑むものではないぞ!」

「このー! このっ! このっ!」


「リーンさんが子ども扱いかあ……」

「……とんでもない人ですね」

「まあ、なんだかんだでおじいちゃんすごく強いから。どうだろ、どれくらいなのかなあ。実際にそこまで戦うところ見たことはないから」


「まだ来るか?」

「もちろん!」

「ふうむ……ならば、我輩も少しちゃんと相手をしてやろう」


 そう言って戦う気になったのか、少し構えるヴァンデール。


「死ぬなよ?」

「し」


 たった一言、リーンに告げ、その言葉にリーンが言葉を返す前に。ヴァンデールの拳がリーンの腹を貫いた。


「あ、やべ」


「リーンさん!!」

「あー……吹っ飛ばなかったかあ。リーンさんが弱すぎ、ということもないだろうから多分耐えちゃったのが大きいのかなあ」


 リーンを吹き飛ばすつもりで殴ったようだが残念ながら吹き飛ばすほど耐久力がなかったからか、あるいは吹き飛ばす威力に耐えようとした結果で貫通してしまったのか。何はともあれ貫通してしまったのは事実である。


「あー、やばやば。このままだと死んじゃわないかな!?」

「大丈夫だよおじいちゃん。リーンさん並大抵のことじゃ多分死なないから」

「そうなの? でもこの子人間だろ? 人間は腹を貫かれたら死んじゃうよ」

「ああ、うん、なんかすごく特殊な力を持っているようで……<不屈>だったかなあ」

「ふむ……あ、治ってる」


 リーンのことをよく知らなければ物理的に普通の人間が死ぬようなことをしてしまって死んでしまった、と思うのは当然の事。いくら魔物で常識外れの強さを持つヴァンデールでもそのあたりのことは想定していない。


「まだまだ!」

「いや、流石に一回死んでるじゃん。ダメだよー」

「ダメじゃなーい!」


 流石に一度腹をぶち抜いた相手にもう一回挑むのは、と思うヴァンデールだがリーンはまだまだ戦いたいようだ。意見は一致しないため戦い自体はこの時点で終わってしまう。ただ、また何かもう一回、一回どころか何回もリーンはヴァンデールに挑むだろう。そのしつこさにヴァンデールすらも恐怖する……こともあるかもしれない。



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