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「ふむ。旅の途中に存在した森、そこに存在する謎の像か。ふむふむ! 興味を惹く面白そうな代物だな」
公也が見つけた謎の人の像、その明らかにそこに存在するのがおかしい物について語った。ヴァンデールはそれが何か関係があるかと確信には至らないが、しかしそれはそれで面白そうな何かであるとは考えたようだ。
「まあ、それが何か関わっているかは現状ではわからないな」
「それは確かにそうだろう。だが言ってみれば何かわかるやもしれん。どこにあるか教えてもらえるか?」
「…………教えにくいなあ」
「なに? 何か隠し事するつもりか」
「いや、単純に場所の関係でな。地図でこの場所、どこの国のどこの街とかそういうのを示すのが難しい」
「………………ふむ?」
「俺がその場所を見つけたのはメル……竜に乗って空を移動し、地上を見て発見したわけだからな。そもそも周りに指標となるような街もあったわけではないし、空を移動してだからどこの道を通りどういったの言えるわけでもない。真っすぐ一直線、というわけだから」
「なるほど。その場所のことを知っていてもその場所がどこにあるのかを知っているわけではない、そのルートを把握していないということだな」
「ああ、そうなる」
公也が空から見つけたのは森の中にある謎の空間、よくわからない人の像が置かれていた場所である。これに関しては公也がメルシーネに乗って空から見て気づいた場所であり、どこからどう行くのか、そもそもどこの国のどの場所にあるのかも明確には分からない。そもそも移動にかかる時間も結構なものとなる。メルシーネに乗っても何日かかかるような場所となるだろう。そのため普通に移動するのはまず大変だ。というか地上で行くならメルシーネに乗っての移動の何倍ともなるだろう。そして場所も把握できない、地上から見るのと空から見るのでは話が大きく違う。見つけるのは大まかな場所を教えられてもムウzかしいと思われる。
「ふうむ……連れて行ってもらうことは出来んのか?」
「別に俺は構わないと言えば構わないが……」
「ならば頼む。我輩にとって奴らを滅ぼすのは悲願の一つである」
「…………まあ、それは構わないが。いや、少し待ってほしい。今俺がこの地を離れるのはちょっと事情的に問題があって」
「ふむ…………そちらの都合があるか。いや、確かに我輩もいきなり押しかけてあれをしろこれをしろと言うのも失礼か。紳士の対応ではないな。わかった、暫し待つことにしよう。我輩はこの地にいることにする。眷属もいることだ。久方ぶりにどのように過ごしていたのか話を聞くのも良かろう」
今のところ公也はすぐに動くことができない。これは公也の立場というか、これまでの諸々が問題となっているからである。国のことを放っておいたままだったのだから当然と言えば当然だろう。そのせいで色々やらなければいけないし、また勝手に出て行き暫く放置するとそれはそれで怒られることになるだろうという点で関係性の改善、怒っていのを宥めるためにも今は残らざるを得ない。
そういうことでヴァンデールは仕方がないとあきらめる。彼にとっても目的は決して今すぐしなければならない急ぎの用事ではない。最終的にモスマンの完全殲滅さえできるのならば何年何十年かかろうとも気にはならない。そもそも今も何百年近く色々とその目的のために行動しているところである。今更数日、もしかしたら数十日くらい間が開くにしても、その程度これまでかけている時間に比べれば大したことはない。なのでそれほど気にはしない感じだ。
また彼の眷属であるモミジもいる。彼女と彼はかなりの期間会うようなこともなかったのでその間のことを話し合うのもいいだろう。ということで彼は暫くこの地でのんびりすることにしたようである。
「そういえば……吸血鬼ということは不死なのか?」
「うん? 不死? なんだそれは」
「……ヴァンデールは吸血鬼、でいいんだよな?」
「その通り! 我輩は吸血鬼! 誇り高き貴族にしてこの世界最強の吸血鬼である!」
「…………吸血鬼とかそういうのはいわゆる不死、アンデッドの類かと思ったんだが」
「我輩が死んでるとかそんなことないぞ! 我輩は誇り高き! 吸血鬼! 生まれてからずっと生きている吸血鬼である! 決して死んだりなんてしてないやい!」
「………………うーん?」
ヴァンデール・ドラクロワは吸血鬼である。少なくともヴァンデールはそう自称していた。公也の知識においては吸血鬼は恐らくアンデッド、不死の類であるという考えである。まあこれに関しては厳密に断定できるものではなく、もしかしたらヴァンデールの言うような生きている吸血鬼、吸血鬼と言う種族が存在していることもあり得なくはないだろう。もちろんそれらはいわゆる死者が復活したとか、死んで吸血鬼になったということではない、アンデッドの類ではないことになる。だから彼の言っていることはおかしくはない。
「まあ、いいか。っていうか吸血鬼か……血の確保が少々面倒くさいか?」
「うむ? 別に血はいらんぞ」
「…………吸血鬼だろう? 血を飲むんじゃないのか?」
「そんなものを飲んで何になる! 我輩普通の食べ物が好きだぞ! 特にお野菜とか大好き!」
「……ええ? 吸血鬼だよなあ? 血を飲むから吸血鬼って言うんじゃ……?」
いろいろな意味で頭を抱える公也。目の前の吸血鬼は自分が吸血鬼であると自称している割に明らかに雰囲気は吸血鬼らしくはない。日の光も全然平気だし、血を好むわけでも血を生きるために他者、他生物からとっている様子もない。なんというか凄く疑問である。
「あー、えっと、あのさ、王様」
「ん? なんだ?」
「おじいちゃんの言ってることは話半分で聞いとく方がいいよ? 少なくとも吸血鬼っていうのは本人がそう言ってるだけだから」
「……ああ、そうなのか」
「大体私も眷属にしてもらってるけど、別にそんな吸血鬼とか言うものみたいな特徴? そんなのもないし。眷属になるのも血を吸ってもらったとかそんなこともなかったし」
「……そうなのか」
ある意味ではモミジが彼の言っていることを事実として証明することになるだろう。そしてそれは本人の言う吸血鬼であるという事実を否定するような要素である。ただ、色々と疑問は浮かぶ。なぜヴァンデールは自らのことを吸血鬼と言っているのか。
「じゃあなんで吸血鬼……」
「多分かっこいいからとかそんな理由じゃない?」
「そんな理由で!?」
公也としてはそんな理由で吸血鬼を自称するものだろうかと思うところ。しかしモミジは知っている。彼が変な人であるということを。ノリだったりかっこいいからとかそんな妙な理由で適当ぶっこくのはおかしな話ではないということを、彼女は知っている。まあ自称吸血鬼というのはある意味間違いでもある意味正しくはあるのかもしれない。血を吸わない吸血鬼的な何か……それは吸血鬼とは矛盾がするが、種族として何か吸血鬼的な何か、それに近いような、それっぽい何かであるのかもしれない、他に何か妥当な種族名がないから最も近い吸血鬼を言っているだけ、というのはあるかもしれない。それ以外に思いつかない知らないとか、理由は考えられるだろう。
「……まあいいや」
流石に思考が追い付かなかったため、公也は結論を投げ捨てた。そもそも吸血鬼とモスマンが敵対関係であるのも謎で、そのモスマンもモスマンという名称だが公也の知るような外国の未確認動物と同じものではないのを知っている。公也の利いている、聞こえている名称が果たして公也の知るそれと同一かどうかはわからないのだから、一致しないことがあってもおかしくないのではないだろうか。まあそれでも吸血鬼は違うような気はするが。




