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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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 騎士の最期の頼みを聞き公也は森に入る。森の中にはアリルフィーラを追った盗賊の仲間が数人入り込んでいる……殆どは外に残っていたため入り込んだのはほんの数人。彼らがどこまで行ったのかは不明でそれを追うのが大変だ。そもそも何処に向かったのかもわからない。逃げたアリルフィーラとそれを追う盗賊たちと違い、公也は誰がどこに向かったのかがわからない。追うことは普通ならばできないだろう。


「気配……風よ近き時に森を駆けた人を追え」


 残った人の匂い、空気の動き、それらを元に公也は魔法を使い人の動きを風で追わせてその逃走ルートを把握する。


「こっちか」


 その風の進むルートを進み逃げる皇女とそれを覆う犯罪一味を追った。森の中を進み少しして、人の気配を感じそちらへ向かう。


「一人死んでる、あれか」


 そこには三人の男と一人の少女、二人の男に両腕を掴まれ抑えられた少女、そしてその少女に剣を振り下ろそうとしている男が一人。かなりギリギリのタイミングだが公也はどうやらアリルフィーラが殺される前に追いつくことができたようである。


「っと、まったく……世話の焼ける」


 公也はそう言うが少女と死体となっている侍女が男たちから簡単に逃げられるものではないというのはわからないではない。なので仕方ないとも思っている……が、ギリギリのタイミングになってしまったということもあってせめてもう少し逃げていれば余裕があったのにな、というのが公也の感想だ。ギリギリゆえに前に入って守ることもできず、容赦なく相手を潰しその剣も奪うしかない。そのため暴食の力を使わざるを得なかった。見ている人間は男三人と少女が一人、可能ならばその力を見せたくはない。男三人は殺すため問題ないが少女が見ていると言うこともあってできれば使いたくはなかった……が、まあ恐らくは大丈夫だろう、後で言い含めれば何とかなると思われると考え容赦なく頭部と剣を暴食で食らった。


「…………とりあえずこれでこいつらは全滅でいいか。しかし、皇女の側付きも全滅しているんだが……これはやっぱりどこかに送り届けたほうがいいのか?」


 馬車とその近く残っていた死体、この森の中にあった侍女の死体。総数は不明だが恐らくは皇女についていた人間は全員が死んでいると考えていい。そして馬車も壊され馬も死体となっている、あるいはどこかに逃げたためか動かすこともできないだろう。ゆえに皇女を助けただけではその後の問題がある。一応公也はアフターケアとして皇女をどこかに送り届けること自体はいいと考えているがそれ以上の手出しはするつもりがない。


「…………………………………………あれ?」


 ここで、自分を殺そうとしていた男、そして側にいる男も含め全員が頭部のない死体となっていることに気づいた皇女が間抜けな声を上げた。ちなみに頭部が失われているのに傷が出ないのは暴食の使い方による効果で皇女が血を被らないように公也が配慮した結果である。


「大丈夫か」

「っ!」


 皇女が声のした方向、公也の方へと目線を向ける。


「…………だ、誰……ですか?」

「公也……公也・アンデール。ちょっと馬車が襲われているところを見つけて加勢しに来た人間だ。まあ、残念ながら俺が来た時点でほとんど全員がやられていたわけだが。最後にまだ生きていた騎士に頼まれてお前を救けてほしいと頼まれてな」

「っ…………あの、その騎士は」

「もう死んだ。今生きているのは恐らくお前だけだ。あの場に他に生き残っている人間はいない……誰か遠くまで逃げ延びたっていうのなら生きているかもしれないが」

「いえ…………それができる余裕はありませんでした」

「ならお前だけだろう」

「……………………」


 自分の傍にいた者は死んだ、もう生きているのは自分だけである。そう公也に教えられた皇女。流石に少々言葉がキツイというか厳しいと言うか、容赦がない。しかしそれは事実である。覆し様のない真実であり、下手に言葉を飾ったところで、嘘を伝えたところで意味はない。元の場所に戻ればすぐにすべて判明してしまうのだから。


「とりあえずこんなところにいるよりも元居た場所に戻ろうか。そこの死体と、あとあちらにある侍女らしい女性の死体も回収する。お前は大人しくついてきてくれ。どうせ逃げる当てもないだろう」

「……………………はい」


 色々な意味で突然現れた公也は彼女にとっては誰かもわからない怪しい人物である。大人しく話を聞いていたがアリルフィーラを連れ去る目的で皇女を誘導しているのかもしれない、一瞬彼女はそう考える。しかしそれならば自分たちを襲ってきた相手とはまた別の相手になるだろう。他の人間が死んでいるのであればアリルフィーラを攫うことは容易、殺すにしても今すぐ殺せる。目的が何かは知らないが少なくとも今すぐ彼女を殺す気はない…………ならばついていったとしても安全だろう、そういう判断になる。


「…………ミリアーヌの遺体も持っていくのですか?」

「ここに放置していくか? 森の中だし獣に食われるから処理する必要はないと思うが」

「っ……いえ、持っていってください」

「だろう。弔いくらいはしてやりたいだろうし、放置するとアンデッドになる可能性もあり得る。あの男たちも別に放置してもいいが、着ている物とか持っている物も何か役に立つかもしれないし、売ればお金になるかもしれないし……」

「……………………」


 別に聞いていない、というのが公也の発言の後半に対してアリルフィーラの感想だが口には出さない。そのまま森を歩く。一心不乱に逃げているときはわからなかったがよく少女が駆け抜けていられたものだと思う程度には森を進むのは大変だ。


「……あれ? 遺体は……ミリアーヌの遺体と、さっきの人たちの遺体はどうしたのですか?」

「ん? ああ、空間魔法で異空間にしまってる。流石に普通運ぶのは嵩張るから面倒だし」

「空間魔法…………」


 魔法というのは基本的に珍しくはない。しかしそれは一般的な魔法であれば。空間魔法は極めて珍しい……というほどではないが珍しい。なのでそれをあっさり使っている公也はかなりの魔法使いであると彼女は感じるわけである。そしてその魔法を使う公也は何者なのか……そういった点で疑問を抱く。


「…………あなたは一体何者なのですか?」

「公也・アンデール。冒険者で魔法使いでキアラートの……人間だ。こことは遠い国の人間だよ。単に途中で寄ったときに襲われているのを見かけたから助けただけのな」

「……キアラートの」


 アリルフィーラからすればキアラートはかなり遠方の国だという印象になる。公也の場合山を越えてきたが普通ならばそんなことはできない。トルメリリンから来るならばともかくキアラートからは陸路となるだろう。そうなるとかなりの距離、別の国を通じて皇国へ来なければならず必要な労力は大きい。山越えを行えば短期間で移動できるが魔物や獣の跋扈する山を越えなければならない。ゆえにキアラートは皇国からすれば遠方であると感じるのだ。そしてそんな場所から来た公也がなぜここにいるのか、というのも大いに疑問だ。もっとも冒険者であると言うのならばありえなくもない……とは感じるが、やはり少し奇妙に感じていた。


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