16
冒険者の証のカードには特別何か記載されているということはない。ステータスのようなものは記載されておらず、基本的には個人名やその冒険者のランクが記されているくらいであり、大した情報はない。本当にその個人であることを示す以上のものがないが、そもそも冒険者であることを示すための物なのでそういった特別な情報が必要ないというのもある。まあ、個人の情報……実績が記されていれば仲間を作る際に自分の実力を示しやすいが、それはその個人間でのやり取りでどうにかしろということになるのだろう。ちなみに冒険者ギルドでは登録して作ったカードの根本的な情報をデータとして管理しておりそれらが他所と共有されている。なのでどこの冒険者ギルドでも冒険者カードを見せれば問題なくやり取りできる。この世界は実はハイテクなのかどうか悩むところである。
そんな冒険者証を受け取り、公也とヴィローサは冒険者としての基本的なルールを説明される。もっともそこまで重要な情報はあまりない。犯罪をしてはいけない、というのは別に冒険者でなくとも当然のことであるし、基本的に守るべきことや義務とされることは知ってるのが普通であり、冒険者ギルドがわざわざ説明するようなことでもない。基本的に依頼の支払いとその税金に関わる話や、ランクに関わる話、冒険者同士のいざこざの解決に関わる話など、冒険者であるがゆえに関わることや起きる問題に関しての対処や説明をされた。
冒険者ギルドは様々な問題解決の依頼を受け、その解決による報酬で運営費を捻出する。まあ、それ以外にもいろいろな利権やらなにやらあるのだが基本的な所はそんな感じだ。なので受けた依頼をギルド内で出すのだが、その依頼に書かれている冒険者の報酬は既に税金が差っ引かれたものである。このような税金を取るのは冒険者ギルドの資金の問題でもあるが、個人を示す冒険者証の機能維持のためでもある。そういうことで冒険者側にはどうしても受け入れてもらわなければいけないものである。まあ、冒険者証で身分証明ができるのだからそこは受け入れざるを得ないだろう。ダメならば冒険者になれないだけだ。そして冒険者のランク。これはGから始まりAまでというよくある冒険者の強さを示すものである。なぜ英語なのか? 単にここで表記される都合上英語表記というだけであり、実際の形は特殊な七文字の記号となっている。公也も暴食で食らった知識からそういう記号であるということは知っており、もともとの自己認識からそういった認識でなんとなく見ている。これはその手の創作による影響である。ちなみに、Gは最低ランクだがすぐに上がるものでなり立ての冒険者のものであり、基本的な最低ランクはFランクであると認識されている。基本的に冒険者はCランクになれれば一人前、Bランクからは上位の冒険者だ。Aランクともなるとその数はかなり少ない。実はランク上に記載されることはないが、このAランク以上のランクも存在しそれが必要になる場合や状況の時に表記されるものとなっている。余程のことがない限りは表記されることはないが。
そして冒険者同士のいざこざ。これは冒険者という存在が基本的に荒くれ者に近い乱暴者が多いゆえに必要となるものである。冒険者と依頼主など、そういったいざこざにはギルドが干渉するが、冒険者同士のいざこざ、たとえば冒険者が自分のパーティーに他者のパーティーのメンバーを誘い移動した場合など、前のパーティーとの関係の問題が起きることになるだろう。そういった問題に関し、冒険者ギルドは関与せず、冒険者同士で解決しなさいというのがギルドの取り決めである。まあ一々冒険者のすることに関与しても仕方がないし、そういったいざこざは冒険者が結構短気だったり乱暴者だったり力で物事を解決する性格だったりと、いろいろな理由で起きやすい。そのため原則的に冒険者ギルドは彼らの行動に関与しない……さすがに殺し合いなどが起きるくらいになるとその仲裁に入ったりはする。そこは冒険者同士の問題ではあるものの、犯罪は流石に許容範囲外だから、と言ったところだろう。
そう、冒険者同士であれば、脅して相手から物を奪い取ったとしても、まだギリギリ犯罪ではない。普通の一般人にやれば訴えられるが、冒険者同士ならばあくまで冒険者同士のいざこざという扱いでお咎めは……一応ない。まあ、それを見ていた人間がそういったことをした人間に対しどのような判断をするかはまた別であり、そういった問題行動をしている冒険者をギルド側が認識していないというわけでもない。とはいえ、冒険者同士の争いは基本的に関与しない。
「おい」
「…………なにか?」
「お前が持ってるその妖精、俺に寄越しな。おまえが使うよりも俺の方が使えるからよ」
ゆえに、冒険者となった公也に対し、荒くれ者な犯罪者一歩手前の、頭が悪い冒険者が絡んでくる、ということになるわけである。何故なら公也は後ろに妖精を控えさせており、その腕に警戒烏を掴まらせている。服装はちょっとボロっぽさのあるこの世界の一般人の服装なわけだが、しかし公也の見た目……公也自身の肉体などに関しては、この世界の一般人には到底見えない。ちょっと目が死んでいる感じのある怖さはあるが、染みのない、疲労した感じもない、苦労したこともなさそうな顔に肌、身長的にはこの世界の平均よりも低めであり、どちらかというとこの世界においては低身長寄り、体重や肉付きは明らかに食うに困らず、何よりも髪の毛の艶も違う。そんな見た目であるがゆえに、貴族として生活をしていたと思わざるを得ない。
実際の所、公也の見た目は元の世界の状態から……ほぼ変わっていない。公也は肉体的な成長はせず、元々の肉体の状態をベースにしているため、その状態がずっと維持されるようになっている。年を取ることはなく、痩せることもなく、太ることもなく、肉体には筋肉がつくことはない。身長は伸びないし、縮まない。ただ、肉体的な強さは持ち得る生命力や今まで食らった生命体の物質量に依存したりするので肉体が変わらずとも強さは大きく変わるが。
まあ、見た目が貴族の優男っぽい子供じみた見た目であるため、とても舐められているのである。そのため脅せば公也が怯えて妖精を自分に渡すだろうと考え、行動したのである。常識的に考えればそのような行いをする時点で頭がおかしいわけであるが、それ以前にその方法にはいろいろな問題をはらんでる。公也の実力が根本的に不明であったり、また公也に暴力を振るおうとすれば妖精が冒険者に対し敵対行動する可能性は低くない。それに、剣を持っているとはいえ公也は明らかに戦士の見た目ではない。それが冒険者になるとするならば、どのような能力を持つかというとつまりは魔法。貴族と考えれば余計に魔法使いである可能性は低くない。
もっとも、公也としてはそれ以前の問題である。ヴィローサは公也の所有物ではない。ゆえに公也は根本的な間違いを正さざるを得ない。
「悪いが、そもそも彼女は俺についてきているだけで俺の持ち物というわけじゃない。そういう交渉は本人にしてもらえるか?」
「は?」
そう言わざるを得ない。ヴィローサは公也についてきているだけの、個人なのだから。
※ステータスというもので強さが数値化されるとインフレの危険があるので多くの場合大雑把な起債以上のことはしないことが多い。あるいは指標程度のもの。そもそも数値が高ければ強いと言うのも間違い。人間は首を落とせば死ぬのだから。
※作中の文章表記と作中世界の実際の表記は違う、ということもある。
※冒険者同士のいざこざにギルドは干渉しない。冒険者は自由であるゆえに。必要ならば喧嘩もするし決闘もする。ただし犯罪は厳禁。ただしその認定は冒険者同士の場合はかなり難しくなるが。
※上のことからテンプレ的なことが起こってもおかしくはない……いや、そもそも起こること自体がおかしいような気もするが。行動する人間があれでなければ起こり得ないはず。




