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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五十章 呪いの地
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7





「ところで、結局ヴァンデールが来た目的は……」

「ああ、そうだな。なにやら名前の話でわちゃわちゃしてしまっていたが、本来の目的は別物であったな。うむ、我輩の目的はこの地にモスマン共をどうにかするための情報があると占いに出たからそれを調べるためここまで来たのである」

「モスマンの……あいつらのか」


 モスマンの情報、ヴァンデールがこの地に来た目的はそれである。


「しかし、それらしい情報は……」

「うむ、我輩もどこに何があり誰が何を知っているかはわからん。正直貴様が現れた時、貴様が何か知っているのではと思ったくらいだ」

「あー、なんか気配がするみたいなこと言ってたような」

「……気配と言われても」

「なぜモミジはわからんのか。感覚鈍っとるんじゃないか?」

「そんなことないでーす!」


 決してモミジがモスマンの気配を感じ取れないため公也の持つその気配を感じることができなかったわけではない。これに関してはそれがあまりにも希薄すぎるゆえに感じず、またヴァンデールが公也にそれを感じられたのはそれだけヴァンデールの能力が高いからである。モミジも相当強いがヴァンデールはそれよりもはるかに強い。それこそ公也が警戒するほどの強さ、そして公也が認識できないうちに一瞬で傍に寄られているくらいの強さである。

 まあ、それはともかく、ヴァンデールが公也に対して何か知っているのかと感じたのは公也からモスマンの気配を感じたから。ただ、公也にとってはそれに対する心当たりがない。


「俺はその気配とやらの心当たりはないが」

「ううむ」

「うーん……わかんないけど、あの人ならわかるんじゃない?」

「あの人だと? モミジは何か心当たりがあるのか?」

「心当たりって言うか、うーん、あの人なら知っていなくても誰が知っているかとかそれを調べることができるというか……」

「…………ああ」


 モミジに心当たりがあるように公也も言われれば何となくわかってしまった。


「魔女か」







 "夜明け"の魔女。この世界において海の向こうの大陸にて物探しをしてくれる存在として知られる本来この世界の生まれではない特殊な女性である。それは今このアンデールの地にいて、ひっそりと暮らしている。


「何かとんでもなく恐ろしい存在がいるわね」

「恐ろしい存在?」

「あなたも大概だけど、その隣にいるその何かも大概よ」

「なんか酷いこと言われてね?」

「いや……言っていること自体は俺も納得するところだけどな」


 夜明けの魔女はかなり強い魔法使い、少なくともこの世界の区分ではそこそこ上位に当たる魔法使いだろう。魔女と言う存在でその寿命もかなり特殊、持ち得る魔法もこの世界の基準に合わせてはいるが本質的には別物で普通の魔法とは違う魔法を使うこともできる。それとは別に普通に公也の存在、その強さを感じることができたり、またヴァンデールの異常さを察することもできる。そもそもある程度以上の実力者であればヴァンデールのそれは感じることくらいはできるだろう。公也の場合はそれを感じる前に強い圧、敵意に近いものをぶつけられたため強さ云々はそういった気配を感じなくともわかるものではあったかもしれない。


「それで何か用事なのかしら?」

「ああ、えっと……」

「何かここにあるのか?」

「いや、目的としてはそちらのことに関して何だが」

「あー、話がまとまんないから。えーっと、このおじいちゃんがモスマンについての情報があるからこの国に来たんだけど、その情報が何なのか、あるいは誰かを持ってるのかって知ってる? あ、知ってるというより調べられる?」

「おじいちゃんじゃないやい!」


 ヴァンデールがおじいちゃんか否かはこの場ではおいておくとして、モミジが彼がアンデールに来た目的について語る。モスマンについての情報、それを目的に彼はアンデールに訪れた。しかし彼も占いができるとはいえ、その情報がどこにあるか、誰が知っているかまでは分かっていない。それゆえにどうすればいいかと困っている部分はある。可能性のある気配を持っていた公也も当人に心当たりはないゆえに。


「調べるべきは何? ちょっと明確にしてもらいたいんだけど」

「うむ……そうだなあ。我輩が占い出たことはこの国にモスマン共をどうにかできる情報がこの地にある、程度のことでしかないからなあ。その情報が何なのか、誰がその情報を知っているのかを調べてもらえるのならありがたいかもしれんな」

「……わかったわ」


 そうして夜明けの魔女は魔法を使い調べ始める。結構曖昧な情報ではあるが、それでも魔法を使いその情報を調べることができるのは彼女の強みである。


「あら……?」

「うむ? どうした?」

「…………あなたが何か知っているみたいだけど?」

「え? 俺がか?」


 しかしその魔法によって魔女が得た情報は公也がその情報を持っている対象であるという事実である。これには彼女も困惑するし、公也も困惑する。またヴァンデールもうむむと悩む様子を見せる。


「やはり何か知っているのではないか……いや、しかし? 気配があったがそれが理由か? 怪しいとは思ったが別にただ外に纏っていただけだし」

「知ってはいない……少なくともモスマンに対する心当たりは……」


 少なくともモスマン、という対象を相手にした情報の心当たりは公也には存在しない。ふむ、と頭を捻る。


「うーん、モスマンに関わる何か、とか? モスマンそのものじゃなくて」

「群生地、発生源、その他いろいろと心当たりがありそうなのを上げていくのはどうだ?」

「……………………」


 いろいろ考え、公也は一つのことに思考が行く。これはそれがなんとなく言っている言葉として似通っている、符合していることがその要因となる。公也が戻ってきた後、カシスから呪いの気配がすると言われた事実、そしてヴァンデールがモスマンの気配を纏っていると言った事実。呪いとモスマンが一致することはないにしても、その二つが似通った要素としてイメージにあるのならばそれが何か関係するのではないかと思うところだろう。


「一つ、心当たりがあるとすれば呪いの気配を纏っていると言われた感じだったことなんだが」

「我輩にはモスマンの気配しか感じないが」

「モスマンと呪いが同一ならおかしくはないんじゃない?」

「ううむ。あいつらもよくわからん存在だからな。しかし、その気配が一体なぜあるのか、と言うのも疑問になる」

「それは確かにそうだな。俺もはっきり言って心当たりは…………」


 呪いだろうとモスマンだろうと、公也自身には心当たりがない、そう言おうとしたところで不意に思いついたことがあった。公也は一度アンデールに戻ってきたがその時カシスに呪いの気配のことは言われていない。あの時点ではほぼ会う機会がなかったとはいえ、その時に気づいていた可能性はあるかもしれないが、その時と公也がカシスから話を聞くまでの間に、公也は一度このアンデールの外に出ている。その行った国に何かがある……とかではなく、その過程、より厳密に言えば帰還途中、公也は奇妙なものを見つけそこに近づいている。


「もしかしたらという物はあるが」


 それについて公也はヴァンデールたちに語る。



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