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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五十章 呪いの地
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6




「アンデール・ドラクロワ?」

「うむ! 我輩はアンデール・ドラクロワである!」


 アンデールという名前はこの国の国名と公也の姓と同一。そのためどうしても公也としては支障が出る。というか公也に限らずアンデール関係者は結構支障がある、混乱するような感じになるだろう。


「……流石にその名前は混乱するな」

「だよねー」

「うんうん。国と同じ名前はちょっとねー」

「なんだとう! 別に我輩だって同じ名前にしようと思ってしたわけじゃないもん! この国の名前を変えればよかろうよー!」

「……いや、流石に無理だから」


 国の名前を変えるのは簡単ではない。他国への周知や国民全体への周知、またそれを受け入れさせることも必要になる。そもそも変えるような理由もないわけである。名前を変えるような出来事でもあれば、必要に迫られればわかるがそうでないならまずありえない。国の名前を変えるよりはどう考えても個人、さらに言えば他にかかわりのある人物が極めて少ないだろうアンデール・ドラクロワの名前の方を変える方がよほど手間が少ないし楽である。


「そちらの名前を変えてもらうわけにはいかないのか?」

「そもそもおじいちゃんもともとアンデールって名前じゃなかったじゃん」

「うむ! 我輩の元々の名はヴァンデール・ドラクロワである。この名をヴァンデールからアンデールに変えたのは已むに已まれぬ事情があったからこそよ」

「その事情とは?」

「我輩の名を譲ったのだ。それ故に我輩はヴァンデール・ドラクロワではなくなり、譲ったその者こそがヴァンデール・ドラクロワとなったのだ」

「………………」


 ただ名前を譲っただけ、アンデール・ドラクロワはそう宣う流石にそれだけで名前を変える意味はあるのか、と思ってしまう。いや、確かに同姓同名がいるとそれはそれでわかり辛いし困る。だから変える、というのはわからなくもないだろう。しかし、それでもやはり変える必要があるのかとは思ってしまうものだろう。


「ヴを取っただけか」

「うむ! ヴがつくようなヴァカではないからな!」

「………………」

「………………」


 まさかそんな理由で? と思うところかもしれない。別にこれだけが理由ではないというか本質手的にはこれを名前を変える理由にはしていない。ただ、ヴァンデール・ドラクロワからヴの字を取ったアンデール・ドラクロワにした理由はそこにあるかもしれない。もちろんそれ以外にも理由は考えられはするが……彼の行動原理、雰囲気、性格、そういった者を加味して考えれば単純に乗りでそのようにしただけ、と考えることもあり得る、と言わざるを得ない。


「もうちょっと別の名前にすることはできなかったのか?」

「そんな面倒なことをわざわざする理由もない。我輩の元の名であるヴァンデールに近い名前、一文字取っただけのアンデールにするというのは発想としては当然のものではないか? 自分でも覚えづらいような名前にする意味もあるまい」

「それは確かに」


 単純ながら理解できる理由である。下手に大きく名前を変えるとその名前を呼ばれても自分である、と認識できない可能性がある。名前を呼ばれる必要があり偽名を名乗る場合自分の名前の相性に近いものか、あるいはあまりにも違いすぎないほうが弊害は少ないだろうという事実と同じ、これから使い続ける名前なのだから愛着の生まれるような名前の方がよく、また突発的なものとはいえ名前を奪われたり譲ったりで失った後に名前を得るというのであればやはり元の名前への愛着からそれに近い名前にしたいという感情は生まれるものだろう。


「でもやっぱり名前が同じだとお互い困ると思う」

「我輩は別に困らん」

「少なくとも俺は絶対にその名前で呼ぶつもりはない……というかちょっと誰を呼んでいるかわからなくなりそうだから、そうだな、ドラクロワと呼ぶことになるが」

「あー……そうだね、別におじいちゃんはおじいちゃんで呼び方はそれでいいか」

「ドラクロワさん?」

「まあそもそも親しくもないしアンデール、って呼ぶこともないのかも……」

「えっ!? それはちょっと寂しいぞ!?」

「いや、その年で寂しいも何もないんじゃない?」

「酷っ!? っていうかおじいちゃん呼びやめてよ!?」


 アンデール・ドラクロワのことをアンデールと名で呼ぶ人物は彼の関係者にはいない。眷属であるモミジですらもおじいちゃん呼びであり名前で呼ぶことはない。主従関係だから名前で呼ばないというわけではなく親しみがあるゆえにおじいちゃん呼びだから、である。


「ううむ、あんまり仲良くなってもここに住む者には名前で呼んでもらえないのは少し傷つくなあ」

「…………まあ、別にこちらも名前で呼ぶ必要はないし、ドラクロワ呼びでも全然問題は」

「親しみは大事だよっ!? ふうむ、仕方あるまい。もともと我が名前に関しては案はあった。二つの考えで名を譲った物と語りこっちの方がいいかなってことでヴァンデール・ドラクロワからアンデール・ドラクロワにしたのだが、アンデールという名前が都合が悪いのであれば変えるしかあるまい。ゆえに! 我輩はこれからヴァンデール・ドラクロワ三世を名乗ろうではないか!」

「え? なんで三世?」

「二世だと何かやだし。本当はヴァンデール・ドラクロワと名乗るのは三世という呼び方がついたとしても名を譲ったヴァンデールと呼び方が同じになってしまう。だから少々困るということでアンデールにしたのだが……」

「どっちも困るのはまた難しい話だな」


 三世と付けるだけなのは楽だがその場合同じ名前の人物との名前の被りが問題となる。その人物が全く別の赤の他人ならともかく、アンデール・ドラクロワにとっては名を譲るような親しい関係、少なくとも強い縁のある相手となるため、あまりいい話ではない。しかしアンデールという呼び名はこの地に住まう者、またモミジにとっても困る呼び方となる。直接その呼び方を人に対してすることは公也に対しても公也の関係者に対しても、またアンデール・ドラクロワ本人に対してもないが、かといって同じ名前だとそれはそれで認識的に困惑する部分もある。


「とりあえず俺たちはヴァンデール、と呼べばいいか?」

「うむ、しかたあるまい。まあ我輩のことをアンデールと呼ぶのも今ここに我が新しき名を知るもの以外では一人のみだ。なんか自分で言ってて悲しくなってきたんですけおd」

「知らないよそんなこと……」


 全く本来公也と話すようなことから外れた内容になっている状況である。しかし、とりあえず話の決着はついたようだ。名前を変えるかはともかく呼び名は前の名であるヴァンデールということに決まった。



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