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「あー、えっと、王様?」
「ん? ああ、セージたちか」
「まあ用事があるのはモミジですけど……」
「うんうん」
「……モミジか。なんかこういう形で会話をするのは珍しいな」
「あー、そうですねー。私もあんまりこういう機会はなかったかなあ」
「それで用事とは?」
「あ、はい。えーっとですね、私を魔物にした人がアンデールに来ていて……」
「……ふむ」
モミジを魔物にした当人が来ていると公也に話してきた。公也自体はそれを咎めることはない。別に魔物にどうこう思うものはないし、そもそもモミジも魔物、その主も魔物でおかしくはなく、モミジを受け入れている以上その人物を受け入れられないわけではない。ただ、この世界に生きる存在である以上相手によっては好悪だってあるだろう。その相手に会ってみなくては分からないが、もしかしたら受け入れられない性格最悪な相手かもしれないし、逆にすごく気が合うのかもしれない。
そういった諸々は色々と気になるが、そもそも気にする必要はないというか、モミジの主がいて何か問題があるわけでもなければいたところでいい。魔物だとばれて危険だとか、その当人が問題を起こすのであればお帰り願いたいところではある。一応モミジの談で悪い人間ではないのは分かっているのだが、あくまでそれはモミジの談であり確実なことは何とも言えないのである。
「どういう人物だ?」
「変な人ー」
「……変?」
「ああ、えっと、確かに……変な人かも」
「……セージまで?」
「おじいちゃん面白いからねー」
「……おじいちゃん?」
サフラ、セージ、モミジの言を聞いて公也は疑問符を浮かべる。変とか面白いとか、魔物だろう相手の表現としては適切だろうかという話である。まあモミジを眷属にした点、そもそも普通に話せるという事実などを考えれば、人と普通に話し合えるような性格であってもおかしくはないだろう。だからといって変とか面白いの感想は果たしてどうなのかと思うところではある。もっとも、その言をそのまま信じるのならつまり変な面白い相手なのだろう。
「……それで、来ているから何か問題があるのか?」
「んー、問題はないんだけど……」
「何かモスマン関連のあれこれがあるらしく。この場所に来た、らしいです」
「モスマンの?」
「悲願達成の何か重要な情報がここにある、って言ってたよ」
「…………それはよくわからないが」
「とりあえず話を聞いてほしい、かな。別に王様が何か知っているからあの人が来たとも限らないんだけど……」
「そうだな。タイミング的にはクシェントラやアディリシア、ウィルハルトがこちらに来たタイミングだし……でもあっちにモスマンはいるんだろうか」
モミジの主が来たのはモスマン関連の情報があるということを把握しているからである。タイミング的に公也がアンデールに戻ってきたタイミング、他の三者が来たタイミングである。それ以外の人物が戻ってきたタイミングでもあるが、それ以前に彼がアンデールに来ていないことを考えればその三者が何かを知っている可能性は高いのではないか、という判断になるだろう。
ただ、モスマンに関して果たしてどこにどれだけいるのかは疑問である。一応公也がモスマンと会っているのはこちらの大陸と海の向こうの大陸、少なくともこの二つに入ることが分かっている。しかしそれ以外の大陸にいるのかどうかは公也にもわからない。そもそもなぜモスマンが発生するかもわかっていないためどうにもその判断は難しい。そして少し前に言っていた神渡りで移動した大陸はとても遠い大陸である。海を渡るにしても大陸間の距離があまりにも開きすぎていると流石にモスマンのような存在、あるいはそれを生み出す何かがあるにしても厳しいと思われる。
なのでどうにもわからない。モミジの主が何故この地に来たのか、モスマンの殲滅、滅ぼすための鍵となる何かがこの地にあるだろうと判断した理由が。そもそもどうしてこの地にあると判断したのかもわからない。ただ、それは嘘ではないのだろうとモミジの言から判断できる。
「まあ、話しを聞こうか」
「うん、お願い」
「っ!」
公也が思わずミンディアーターに手を伸ばす。公也を案内したモミジやセージ、サフラもその気配に驚き、またその圧に、力強さに思わず身を固めて動けない状態だった。向けられたその気配は警戒が最も表すにふさわしいものだろう。それは公也ですら咄嗟に持っている剣に手を伸ばすようなものだ。公也の強さを持っても警戒に値する、それほどまでの。
「ふむ……ふむん? あれ? モスマン? んー? モスマンではない? どっちだろーなー」
「え? っ!?」
モミジの主が公也を見て首を傾げる。そして次の瞬間、公也の横にいた。
「いつの間に……!」
右、左と公也が認識できない……と言うほどではないが、とても早く移動し彼は公也を見ている。
「ふむ……気配は薄い。内に在るというよりは外に纏わりついている感じか。うむ、すまんな!」
「……えっと」
「いやあ、なに、お前からモスマンの気配を感じ取ったのでな。あれが内に潜んでいるのか、それとも何か人間に化けられるようなものかとも思ったが。どうやらただ奴らの気配をちょっと纏っただけの、そうそう、残り香を着けているようなもののようだ。なーんだ、安心安心。いや、そもそも相当強いな? であれば奴らもそうやすやすと規制できんだろう。いやあ、安心安心」
「………………」
自分で勝手に納得している。その状況に若干困惑する公也。公也はモスマンのことに関してはそこまで詳しくない。既に生まれ成長した、あるいは発生したモスマンしか知らないため、その発生起源、状況に関しては知らない。
「あなたは? モミジを眷属にしたという話は聞いているが」
「うむ! 我輩はアンデール・ドラクロワ! この世界最強の吸血鬼である!」
「……………………」
アンデール、その名前は公也の姓である。この世界における公也の貴族、王としての立場にあるうえでの名字、姓。それが相手の名前、というのは若干複雑に思う部分のあるものである。というか少しやり辛い。相手の名前は自分の名前と同じ、名と姓の違いがあるとはいえ同じであるため困惑するところもあるし、国名とも同じなので話しづらくなる。ちょっと困った話である。




