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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五十章 呪いの地
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「あうえええ…………キイさまあ…………」

「大丈夫か?」

「だいじょうぶじゃないにょお……キイさま分がたりない……」


 ヴィローサがばったりと倒れてまともに動けていない。現在ヴィローサは彼女の言うキイさま分、つまりは公也と一緒にいられない時間が長すぎて公也という存在から感じる諸々が切れてしまったためそのような状態になっている。まあ、彼女のそれはどちらかと言うと本人談というか、そもそもキイさま分も別に何か存在するわけではなく、根本的には彼女の精神的な部分からのもの、活力切れとでもいうものになる。もっともヴィローサの場合はその存在の再構築に公也という存在が多分に関わっており、公也という存在の要素を彼女が自身の根幹に取り込んでいることもあり確実にそういった者は存在しないとも言い切れない、少し難しいものである。


「えあああああああああ…………」

「本当に大丈夫か?」

「キイさまがそばにいればぁ」

「……まあしばらく外に出るような用事もないし今は良いけどな」


 現状公也は暫くずっとアンデールの諸々を放置した関係上、国の方の仕事をいろいろとしないといけない。そのためどうしても残っていなければならない。それにやりたいことも魔法関連、魔法道具関連、色々としたいことはあるだろうし、今のヴィローサみたいにしばらく放置したりとなんだりしてきた相手との関係改善などもしなければいけない。なので外に出るような機会は暫くはなるだろう。


「ねえ、キイさま」

「なんだ?」

「あの女、多分やばいよ? 大丈夫?」

「あの女……と言うと?」

「あのすごく毒塗れと言うか、物凄い毒の塊の女……変な獣の形っぽい毒の女。先日来たばかりの」

「ああ……クシェントラか」


 邪神の力を持つクシェントラはヴィローサから見れば毒塗れらしい。


「なんかすごく悪い毒だし、危険すぎると思う。それにあれ、キイ様に対して敵意持ってるし」

「ああ、それは仕方ないんだが……」


 彼女が公也に敵意を持つのはその出自、公也が彼女と会った時の出来事からすれば仕方がない。だからといってヴィローサからすれば公也に対してそういう行動、反応をしているだけでも許すことはできないようである。


「まあ、放っておいて問題ないから」

「キイ様が言うならそれでいいー」

「それで……とりあえず俺はもう行くつもりだが、ヴィラは大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですわー。でもキイ様も自分の御用事ですものー。私はキイ様が戻ってくるまで待ってるね……」

「ああ……今は休んでいてくれ」


 ばったりと倒れて動けないヴィローサを部屋において公也はアンデルク城内の別の部屋へ、自分の仕事をしに行く。







「あなた様」

「……カシス。なんというか、こっちはあまり来れないこともあるし大分久々な気がするな」

「私は表に出ることもできませんから」


 城の地下に行くとカシスの方から公也の方へと寄ってくる。かなり久々と言うか、城の地下はカシスの存在や妖精たちの存在、精霊やアンデッドの存在も含めいろいろ表に出せないものが多い。公也もまたその地下に行く機会はそう多くない、というかあまり表立って行き辛いため頻度はどうしても低い。そもそも根本的に用事もないためあまり行くことはない。カシスの方から寄ってくるのもそこそこ珍しくはあるかもしれない。


「いえ、私はあなた様があまりこちらに来られずとも不満に思ったり気にすることもないのですが……」

「……何かあるのか?」

「あなた様の纏う気配に」

「……何かあるのか?」

「呪いの気配を感じます。強力な、とても大きな呪いの気配を」

「……また何かに呪われたかな」


 カシスはアンデッド、霊体に近い存在であり、同時に呪いの存在、呪いそのものとも言っていいような性質を持つ存在である。他者を呪うこともできるし、何か呪いを受けていればその気配を察知することもできる。呪い次第ではあるがその呪いを消したり取り払ったりすることもできる……ある意味では呪い版のヴィローサに近い形の存在と見てもいいだろう。ただ、彼女の場合はヴィローサほど強い力も持たないしそこまで万能性もない。


「いえ、あなた様が呪われているようなものではありません」

「……ふむ。具体的にはどういう?」

「そうですね、この呪いは…………無差別的なものでしょう。特定の何か、誰かを呪うようなものではありません。そもそもそういった対象を指定するような呪いと言うよりは呪いの塊から漏れ出たような臭気、気配の様なものかと思われます」

「……よくわからないなあ、そういうの」


 カシスの感じている呪い、というものはあくまでその気配というか、残り香のようなもの。呪われた場所に行った結果、その場所の呪いが体に纏わりつき、その呪いを少しだけ保有しているような状態になっているもの、であるようだ。その呪いは時間がたてば自然と消えてしまうようなもの、そもそも呪いになっていないようなもの。なんら公也に影響を与えるものではないが……それは大きく強大な力、呪いであるがゆえに残り香のような呪いも強い。


「しかしそんなものどこで手に入れたやら」

「それは私もわかりません。ですがあなた様には心当たりはあるのではありませんか?」

「心当たりか……少し確証のある所はないな」

「……そういえばこの呪いの気配に近いものは感じたことはあるかもしれません」

「近いもの?」

「確か……誰かから似たような感じの気配を、いえ、本人からというよりはその方からなんとなく、いえ、なんとも断言できるものではないのですが……」


 カシスはその呪いの気配、感じに覚えがあるらしい。ただその呪いの気配そのものと同じものではないらしく、本人も何がどうと断言できるわけではない。複雑で難しいものだ。ともかく、少なくともその気配に近い呪いの何かに関してこのアンデール、アンデルク城でも感じることはあった……ということはこの城に存在する何者か、カシスでも会うことができるような誰かの持つものなのかもしれない。

 まあ、そういったことを考えるにしても現時点では何もわからないものではあるが。




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