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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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19







「はあ……」

「怒られてたのですね。まあ今回ばかりは仕方がないと思うのです。正直わたしもハルティーアの諸々の苦労は気にかけていたのですよ」

「まあ、そうだな。ちょっと自分でもアンデールを離れすぎているのは思わなくもなかった」

「しかも何か変なの……あの少女とかやばそうなのを連れてきているのです。っていうよりもあれはあの時のあれなのですよね?」

「ああ」

「正直どうかと思うのです……あれの元となる力の塊の行き所がなかったのはわかるのですが」


 クシェントラのことに関してはメルシーネも苦言を呈する。他のことに関してもハルティーアの苦労を彼女の守りなども含めて傍で見ていたメルシーネは思うところがあるが、そこはある程度は仕方がないとも思っている。なんだかんだそれに関しては問題ではあるが赦している部分でもあるしメルシーネも一応は公也側の存在、そもそもの存在の在り方も含め過度に許容しないできないということもない。しかしそれでもクシェントラに関してはどうしても認め切れない部分が大きい。それだけ彼女の持っていた力、その存在の危険性や悪性の強さが不安なものだからである。


「一応あの時ほどのやばさは今はなさそうな感じはする」

「それでも危険はあるのです」

「……まあ、多分大丈夫だとは思う。アンデールにいる限りは何か起きる前に対処はできるだろう?」

「それはそうなのですけど……」

「あのまま放置しておくわけにもいかなかっただろう。実際扱いに困る物だったわけだし」

「だからと言って復活させるのもどうかとは思うのです……」

「とりあえず今は様子見でいいだろう」

「それはご主人様が言うことではないと思うのですよ……まあもう怒ってしまったことは仕方がないのです。最悪始末するにもあれならまだやりやすくはあるかもなのですね」


 一応クシェントラに関して問題はない、という結論にはなったようだ。実際は問題だらけだが今度は流石に彼女を始末する場合面倒で危険な大規模戦闘にはならない可能性が高い。そもそも彼女がその地方を使い暴走するようなことになったとしてもその前に予兆を察知し対処することもできるだろう。恐らくそうはならないとも思うが、それも確実ではないため現状ではそう判断するしかない。


「アディリシアやウィルハルトは特に気になる感じじゃないか」

「わたしにはそうですね。そもそも……あれらは特にご主人様寄りの立場でもないのです」


 ウィルハルトはアリルフィーラ付きの存在、公也に対してはどちらかというと主との関わりで敵意の方が強いかもしれない。アディリシアは公也に対して魔石に関わる話で繋がりがあるが感情的には心底どうでもいいと思っているタイプ、彼女の興味は特に人に対してよりは魔法道具に対して向かっている。そういうこともありそちらは別にそこまでメルシーネの気になる相手ではない。まあメルシーネ以外がどう思うかは現状不明である。


「特に問題はなさそうか?」

「わたしに言われても困るのです。彼らの行動次第でもあるのですし」

「……そうだな。まあクシェントラ以外はそこまで不安でもないし」


 やはり自分でやっておきながら一番の不安はクシェントラに対してである。あとは性格的にそこまで問題にはならない……多少扱いに困るところはあるだろうが。







「……終わった」

「お疲れ様なのです」

「馬車も馬もきちんと返せたが、お詫びと言ってきて渡そうとしてくるのを断るのにどれほど苦労したことか……」

「それだけご主人様がどこか行ってしまったことが向こうにとっては問題だったのですよ。そもそもご主人様が向こうにいたのは彼らのお礼としての側面が大きいのです。それなのにどこか飛ばされるような事態に巻き込まれたのです……その前の大きな騒動に関してもそうなのですよ。自分たちがご主人様を招いたからそうなった、そう考えるがゆえに彼らも謝罪の意思を強く見せるのです。それだけ巻き込まれた事態の内容の大きさもあるですし、ご主人様が戻ってこなかった期間の長さも問題になってくるですよ」

「……まあ、確かに立場的には仕方がないのか」


 公也は国の王である。そしてその国の王が他国で問題に巻き込まれた、それも国を巻き込むような大騒動に。当然その問題に巻き込まれた事実は大きく、もともと楽しい想いをしてもらおうとお礼の一環として誘われて訪れたのだからその問題に巻き込まれた事実はより大きな物となる。碌な目に合わなかったと敵対されてしまうようなことになれば大きな痛手……どころではなく、公也、アンデールという危険な相手を敵に回したうえにお礼で面倒な事態にまきこんだ、危険を押し付けたとみられ信用の低下も起こるかもしれない。ただでさえ現時点で複雑な状況で余計な事態を招きたくはない。だから精一杯謝罪の意思と代価での支払いと、という形である。

 別に公也は怒ってないしそんな過度な要求をするつもりもない、戻ってこなかったのはそもそも公也の意思だし神渡りという転移現象に関しても誰かの手によるものでもないただの事故。別に誘ってくれた国の方が悪いわけではないためそんな謝罪を必要とするものではないと思っている。しかしそれは公也がそう思っているだけであり他国がどう思うか、彼の国がどう思うかはまた別の話。それゆえに話は複雑に進み、何とか公也は苦労して面倒な謝罪に関する話を穏便に済ませることができた。別に謝罪でいろいろもらったとして問題はなかったかもしれないが、向こうの謝罪の代価の支払いが大きくなったのは公也側の問題と責任によるところが大きいため流石にちょっと、という感じもあったので。

 ともかくそんな感じに別の大陸、魔法道具の普及の進んだ他大陸まで行く事態に関わる問題は解決した……とりあえずは。



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