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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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17





「………………」


 少女へと変化した何の存在、意思や魂の入ってなかった肉体が目を開ける。意識が覚醒したようで周りを見回す。


「…………」


 その視線は公也へと向き、少女へと変化したその存在は手を向ける。


「っと!」


 公也はミンディアーターを抜いてその攻撃を防ぐ。少女の体から延びるように馬の脚が飛び出てきた。それは本来の普通の馬の脚とは明らかに大きさが違う。まあもしかしたらこの世界ならば巨大な動物種としてその脚を持つような馬がいる可能性はある。しかしそれがこの場で飛び出てくるのはおかしな話だろう。


「なっ!? 魔物か!?」

「えっと……え? いきなり何が……?」

「………………」


 驚くウィルハルトとアディリシアに対し公也は冷静だ。公也はその攻撃に、その手法に覚えがある。


「久しぶり、と言えばいいのか?」

「うるさい…………よくも私を……」

「あの時のことは事実だけで言えばそちらが悪いと思うが。まあ、こちらとしても殺したのは事実だから恨むなとも言えないけどな」

「……力が足りない。ここはどこ? なぜあなたが……いえ、私は? 私も? なぜここに、こんなところに? この体は」

「多分言ってもわからないと思う。お前がわかるのはたぶんお前が、自分が一度死んだ、殺されただろう事実と、自身の力の有無、肉体の状態とかそのくらいだ。流石にあの状態で生きている、外のことを認識し理解しているわけではないよな?」

「何を言っているの……?」


 かつての出来事、強大な邪神の力を有した女性を公也は殺している。国を滅ぼすような強大な力であり、また本人の性格か性質かはわからないが実際に国をほぼ滅ぼしている事実があるためそれを止めるため、また当時その問題解決を頼まれていた事実もあって殺してでも止めざるを得なかった。そもそも邪神の力を有しその性質に強く染まっていからか対等な会話すら難しいこともあり殺さざるを得なかったというのはある。まあ邪神の力の性質もあって殺さなければいろいろな意味で汚染的な問題もあり得たためそこまでする必要はあったかもしれない。その後もその力とその存在の魂を内包した力の塊が残ったこともありある意味ではそこまでする必要があったと言わざるを得ないところはある、かmしれない。

 とはいえそれは結局のところ公也側の意見である。彼女からすれば自分のしたいことを邪魔し自分を殺した張本人が公也である。恨まれても当然と言える。ゆえに彼女からの攻撃が公也へと飛んできたわけである。しかしその攻撃も当時の彼女からすれば微々たるものとしか言えない。他の獣を生み出すこともなく、ただの馬の脚一本。その他の動物的なものを生み出すこともなく足が一本しか飛んできていない。


「今のお前は生まれ直したような状態だ。その状態で多分俺は殺せないと思う」

「…………そうみたいね」

「それに今のお前は何をしたい? 前と同じようなことをしたいか?」

「私にとって重要なのは…………………………」


 少女は言葉に詰まる。当時の彼女はほぼ邪神の力に染まり自分自身と邪神の力による作用、その他様々なものが完全に自分の物と思い行動していた。もちろんその中には彼女の希望、願い、目的もあった。それゆえの行動だが、結果として邪神の力、その存在の力そのものの作用や影響が目的化していた部分もある。現在の彼女はその力の蓄積もなく、汚染も一度リセットされたような状況にあり、彼女自身のフラットの思考で考えられる。かつての彼女の目的は国をほぼ滅ぼした時点で達成し、後は自分の力の意味、目的、役割に死が立って行動していたようなもの。世界を邪神の力で作り出した子で埋める、世界を滅ぼす、そんなことは彼女自身の目的でも願いでもない。

 今の彼女には目的はない。それゆえに何も行動する理由が思いつけない。一つあるとすれば自分を殺した公也へと復讐することくらいだろうが、自分を生き返らせたのも公也だ。それでも復讐すると行動してもいいが、生き返らせた時点で殺したことは若干チャラもまっておりと言わざるを得ない。しかも今の彼女は圧倒的に力が足りない状況にある。その状況で果たして殺すことを選ぶべきか。選んだとしても無理だしそこまでして無理に敵対する理由が薄い。恨みはあるがその恨みもやはり蘇生で緩和される物。禍根は残っているがその程度……少なくともやるなら彼女が力を取り戻してからになるだろう。


「…………目的はないわ。でもこうして生き返った今、死ぬつもりはない」

「そうか」

「…………私をどうするつもりかしら?」

「別に俺は何かするつもりはないが……まあ、とりあえず連れて帰るつもりではある」

「おいて行きなさい。私はあなたと行動するつもりはないわ。もしかしたら復讐する気になるかもしれないしね」

「いや……お前、ここから一人で帰ることができると思ってるのか?」

「……ここはどこなのかしら? 何か変な…………なにこれ?」

「ここはかなり高い山の上にある城で多分人を毛嫌いしている奴らが使っていて、ついでにそこの施設に会った肉体をお前の復活に使った……つまりお前は体泥棒になるんだけど」

「…………生き返らせたのはあなたよね? 安全もしっかり確保してほしいんだけど」

「別に生き返らせた後まで保証する意味はないけどな。もともと逃げている途中だったし」

「なんで私を生き返らせているのよ? そんなことする余裕があったのかしら?」

「成り行きで、かなあ」


 なんというかいろいろな意味で頭が痛くなる話である。特に少女からすれば公也の行動が行き当たりばったり過ぎて理解できない、わけがわからないものとなっている。


「とりあえず逃げるなら逃げるべきね。どこに逃げるのかしら?」

「その少女の言う通りだ。逃げる当てはある、みたいなことを言っていたがどうやって逃げるつもりでしょうか。ここの部屋は一本道の先でしょう。途中に別れ道があるとしてもそこに戻るまでに追手に会う可能性が高い。そもそもここまで私たちが着ていることは追跡されていそうなのですが」


 話の区切りがついたと感じたウィルハルトが会話に入ってくる。内容はどうやって逃げるかについて。


「ああ、普通に帰還の魔法で良かった。まあこの大陸から離れることにはなるが……人も物資も全部確保しているから俺たちが元の国の方に戻ればそれで済む話だった」

「……帰還の魔法、ですか」


 空間魔法、ある地点を指定しそこに戻るだけの魔法。もちろん普通なら無理でこの大陸でもそれを使える存在は基本いないものとして見られる。そもそも大陸を渡るような魔法となるとこの世界にいる空間魔法の使い手でもなかなか大変だろう。ただ、公也の魔力は絶大だし地脈などの利用、また座標自体の特定を特殊な用件で色々行っているため消費はそこまで高くもない。ゆえに基本的には問題のないものとなる。しかしそれを他の人物が理解し受け入れられるかはまた別物。まあこの場においては実際に使い見せればそれで済む話ではあるが。



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