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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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「…………ここは」

「人間が液体の中に? 死体を保存している?」

「多分これ魔法道具だと思いますが。保管用の物でしょうか?」

「いや、そもそも人の死体を保存する意味も彼らにはないと思う。彼らも見た目は人間と変わらなかった……彼らの話を聞いて得られた情報を考えるとこれはおそらくホムンクルスの類だろう」

「ホムンクルス、ですか」

「あまり詳しくわかりませんけど……魔法で作り出した人の肉体ですか?」

「近しいとは思う。ただ人間のそれと同じものじゃなくて肉体的な強化や魔法の力の強化、才能の強化とかそういう物がされている可能性はある。少なくともホムンクルスは基本的に人間よりも強いんじゃないかとは思ったし。まあそのあたりはわからないが」


 入った部屋にはたくさんの人の入った巨大な液体で満たされたガラス管が存在している。当然ながらその液体の中の人は死んでいるわけではない。そもそも魔法道具のガラス管で何らかの形で生命維持はされているだろうし、通常の生命体として作り出されているというのもあってその状態でも肉体的の死亡が起きないように調整されている感じがある。それら人の肉体は男性ぽかったり女性ぽかったり、あるいは性別がないように見えているものでかなり奇妙だ。

 そして公也はそれらの光景に見覚えがあるというか、ここで聞いた話した話の中に会った内容でその存在に関しては恐らくではあるが大まかに推測できている。ホムンクルス、彼らの魂が入るべき器として作り出された自分たちの肉体。厳密にはそれはホムンクルスかどうかは不明な代物だが、少なくともホムンクルスのような人型の自意識や知性を持たない、魂の入っていない魔法によって作り出された肉体である、ということは事実だろう。


「他に出口はあるか?」

「いえ。恐らくは他にはないかと思われますね」

「出口がないってことはここで行き止まり、袋小路ですか」

「……戻るしかないのか。それは少し残念だな」


 部屋の入り口は一つしかなく、外に出られる場所はない。そのためこの場所に長い間留まることは難しいだろう。


「しかし……この設備にホムンクルスたちの存在、そこそこ興味を持つなあ」

「それは私も同じですね」

「……そんな時間はありませんよ?」

「ああ、それは分かってるんだ」


 そういいつつも、公也の視線は部屋の中にあるガラス管の一つに向かっている。基本的にこの部屋にあるガラス管の中にある肉体はどれもある程度成長した人の肉体をしている。意図は不明、いや少し想像はできるがそれを考慮するかはわからないが、服を着ていてその肉体の状態は不明であるものばかり。しかし、それでも一応基本的な人間の肉体をしているだろうという推測はできるものだ。


「…………ホムンクルスは魂、霊体を入れる器か」


 アンデールに存在するウィタとフェイの存在を考えてもそれは実際成立するものであり、この地のそれはウィタの性能以上の本当に器として使うための代物。それに魂を、霊体を入れるのは想像以上に容易いだろう。しかしこの場にそれにふさわしい存在はいない。そもそも公也はそういう形に見合わないし、アディリシアは興味はないだろうしウィルハルトは器の存在などどうでもよいことだろう。結局のところそれに拘るのは今の器、肉体に不満があったりそれに移ることによるメリットに興味がある場合だ。まあその点で言えばアディリシアは決して絶対に必要としないわけでもないかもしれないが。

 公也は自分がその肉体を欲しいというわけではない。ただ、少し気にかかることがあるというか興味があるというか。特にその肉体の中にある特殊な特徴の薄い肉体、妙に小柄な性別の見えない肉体が気にかかっている。いや、公也にとってはそれ自体興味を持つ理由であり自身の興味を向けるものではあるが、重要なのはそこではない。そもそもこの器が魂を入れてその存在を生かす、人間として……厳密には人間扱いではないかもしれないが、人として生きられるようにすること、それに対して想うところがある。


「………………」


 異空間から一つの物を取り出す公也。現在異空間は拡張したり物を整理したりしつつ、アリルフィーラたちが一時滞在できるようにしている物となっている。しかしその空間にすべての物が詰まっているわけではなく、物によっては別枠に特別な空間を作り保管している。まあそんな代物はわざわざ他に隔離して保管しなければいけないような劇物危険物となるが。


「っ!? なんですかそれは!?」

「…………なにそれ」


 この場にいる二人ですら驚いたり声が出なくなるような恐ろしい気配、邪悪そのものの塊と言っていい代物。


「これは……そうだな、ちょっと扱いに困っていた特殊なものだ」


 なんとも具体的には公也も伝え辛い。別の大陸に存在していた国にいた国を滅ぼすような強大な力を持つ存在の魂と力である、と言ったところで理解はされないだろう。そもそも敵である存在であることやその力が邪神と呼ばれるような忌避される存在の力で現時点でもそれを感じるくらいのものである。素直にその内容を伝えたとしてもなかなか受け入れられるものでもない。

 そしてそんなものを公也はなぜ出したのか。


「……どうやって取り出せばいいだろう」


 興味を持った一つのガラス管の前で公也は思案する。こういった設備のことに関して公也は元居た世界での知識があるためおおよそ推測できる。ただ、周りにそれっぽい仕組み、ガラス管を操作するような機械っぽいものがないため少し考えている。


「魔法道具ですし直接操作すればいいと思いますよ?」

「そうか」

「……あの、そんなことをしている場合ですか?」

「作業が終わればすぐに出て抜けるつもりだ。まあ、どこから………………ああ、そっか。逃げる案は思い至ったから大丈夫だ」

「え?」

「そうか、これ自体を直接操作できるかもしれないか……うーん、魔法道具は使ったことがほとんどないからなあ」

「私もこういった魔法道具を使ったことはないですね。でも多分操作自体はそこまで難しくは……」


 ウィルハルトに関しては公也もアディリシアも適当に相手しつつ、魔法道具の方を調べ始める。そして結構あっさりとガラス管が開く……開くというか、蓋が外れる感じである。そして中の液体はガラス管の中に圧縮されて玉のようになって落ちる。中に入っていた人の肉体らしきものは上からふわりと外へ排出されて下ろされる。


「できた」

「できましたね」

「……その肉体をどうするつもりですか? 持ち帰るつもりでしょうか?」

「いや……これをな」


 公也が取り出した邪悪な気配、力を感じる代物を肉体に押し付ける。物理的に押し付けるようなものだったが、すんなりとその押し付ける感覚がなくなり消える。それは肉体の中へと入っていった。


「っ!?」

「なんですか?」

「………………」


 そして押し付けた肉体の方が変化する。男女も不明なサイズも肉体の感じもあいまいで完成された人の肉体ではない感じのあるそれが少女の肉体へと変わった。なお、ちゃんとこちらの肉体にも最初から身を隠す衣装はあるため裸ではない。




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