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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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「扉がついてます」

「ドアがついているな」


 この世界ではあまり見たいタイプの回転式のドアノブの扉。それもなんというかどことなく公也の知る世界における扉に近い様にみられる。もちろんこの世界でもそういう扉がないとは言わないが、滅多なところでは存在しない。少なくとも現状公也の訪れた各所で同様の扉を見た覚えはなかった。それくらいに珍しい扉が存在している。


「……なんだろう。これ多分使われている、よな?」

「あの街のように生活感がないということはないですね」


 現状扉は明らかに人の手で開けられたりして使われている痕跡がある。もっともそれをしているのが人とは限らないのは道中の岩塊の人形たちを考えればあり得なくもないことだと考えられる。


「……中に入ることはできるかな?」

「開けてみればいいと思いますけど」

「しかし流石に危険では? この城らしきものの中に入るのだろう? はっきり言って危険すぎるのではないか?」

「そんなのここまで来て今更過ぎる」

「危険に関しては気にしなくてもいいと思います。そんな危険なことになるようなら使いづらいですし。そもそも何か対策を考えるなら扉自体がこんな雑なものではないかと」

「……ふむ」

「ですが何か外からの侵入者を感知するものはあるかもしれません。そもそも鍵がかかっている可能性もあります」

「内から出るものがあるのにいちいち鍵をかけるかな?」

「一方通行……いえ、この扉だとそういうこともないですか」

「ドアノブが回さないと開かないからな……というか人じゃないと開けられないか」


 手で掴み回すような仕組みをしているノブである。押したりしても回さなければ開かない仕組み、それが壊れずに機能しているだろうという点で普通に使われている、人か人に近いものが開いているだろうものである。


「それで。どうするつもりですか? 私は正直ここを捜索する必要を感じない。ここにこのようなものがある、とわかっただけで別にこれ以上の調査を必要とは」

「いや……さすがにそれは」

「そうですね。これだけの城です。あの街のように確実に魔法道具がある。あの街では人形たちのことがあって探れませんでしたけどここだとそうではないと思います」

「……道中でも魔法道具に襲われたのだが」

「だからこそです。向こうが攻撃して来るならこっちがやり返してもいいじゃないですか」

「過激な……」

「まあ、確かにちょっと言い分としてはあれだが……でも人がいないなら中に入って捜索しても問題はないだろう。幸いあそこみたいに人形の魔法道具の類はないだろうし」

「途中にいた魔法道具の類は岩塊の人形で人形の魔法道具だったのでは?」

「あそこにあったみたいな意思を持って話すことができる、自分の思考や考えを持てるタイプの人形じゃない、ってやつだな」


 少なくとも相手が理性的に人間に見える人形だとどうしても破壊は躊躇してしまう。人形の街のように人の営みを疑似的に維持しているようなものだった場合、やっぱりあまりそれを破壊してでも調査や回収をするのはやり辛い。もちろんやれないわけではないが、それを残したこと、作ったこと、その意志を無暗に壊すのはあまり好きではない、という感じである。

 しかし防衛しているのがただの意思も何もないだけの人形であればそれを気にしなくてもいい……とまではいかずとも、心理的な部分では多少緩和される。それも相手方から攻撃してくるようなものならばより心理的な障害はなくなっていく。


「……とりあえず入ってみるか」

「そうですね。入って中を見てみなければ何もわかりません。回してみないと実際に開くかどうかも判断できませんし」


 まずは扉を開いてみる、ということで公也は扉のドアノブに手をかける。くるりとドアノブは周り、扉は引っ張るとあっさりと開く。外開きの扉の様だ。


「あっさり開いたな」

「開きましたね」

「じゃあ……行くか」

「行きましょう」

「……………………」


 公也とアディリシアが特に警戒も薄く中へと向かう。ウィルハルトは嫌そうに、警戒心たっぷりに構えながら二人について行く。扉は三人が中に入ると自然に閉まっていく。自分で閉めなくてもいいのはありがたいがまるで誘い込んでいるかのようにも見えなくはない。もちろん別に誘い込んでいるわけではない。ただ扉が自動で閉まるようになっているだけである。






「…………」

「おや? どうした?」

「侵入者です」

「侵入者?」


 城の中、人の姿をした存在が城に入ってきた存在を感知する。彼女の行動の変化に気づいた男性が訊ね、その存在を把握する。しかし男性にとってはその回答がかなり疑問に思う内容であった。


「まさか地上から誰かがここまで来たと? それは考えづらい。この地に来れるような技術はどの国でも作られていないはずだが……」

「どうしますか?」

「とりあえずその人物たちの居場所と、その近辺の映像を見てみよう。まずは何者なのかを把握しないと。しかし各所にも連絡は入れないといけないか。地上の人間が来たとなると敵対行動をする者もいそうだ。あの老人は特にそういうのを毛嫌いしているからなあ。いや、彼は毛嫌いしているというよりは下等生物として見ているだけか。地上は彼らの住む牧場みたいなものって。ええと、とりあえず話の分かるところに連絡を。警備関連も一応。最悪彼らの行動次第では始末する必要がある……しかしなぜこんなところまで来たのかな。わからないなあ」


 この地に来るような人間は普通いない。そもそもそれができないのが普通。しかし実際にこの地に侵入者が来たことは事実である。であればその事実からするべき行動をするまで。少なくとも現時点で敵対的行動はしていないため要観察、警戒しながらどの動向を探る方面の様だ。ただ、観察したい、ここまで何故来たのか、色々と不明点も多くきょうんみがあるゆえに下手な行動はこちらもしたくはないようでその連絡を行う相手は絞られているようだ。彼らの様な侵入者の存在を毛嫌いする、また侵入者となり得る地上の人間を毛嫌いする者もいるらしい。とりあえず侵入者の存在を感知した彼……正確には彼の側にいる女性らしき存在だが、ともかく彼は必要な連絡を行うようである。



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