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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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9



 山の高所、まだ頂上でもない位置だが既に雲の中にいる。雲塊は頂上どころか山の高所の多くを覆い隠すような長大巨大な代物。なのでそれはおかしくもない。雲の中、というのがあまり知識として知らないからか、経験としてもあまり覚えがないからか、本当にそうなのかと公也は思うような環境であるが、とりあえず雲の中でさらに上へ上へと向かっている。流石に周りの様子が見えないこともあり公也もこれまでのような一気に上昇するような真似はせず結構慎重に行動している。


「周りが見えづらい……」

「一応ある程度は把握できますけど」

「魔法道具による魔法での周辺の把握によるものだな。それがなければ流石にこの中を進めない」

「行こうと思えばいくらでも行ける。突き出た岩にぶつかったりする危険もあるし見えないがゆえに魔物……あの岩塊の人形が不意打ちしてきても全く気付けない可能性があるとかいろいろな問題があるわけだが」

「だからこそ周辺把握が必要なのだろう。彼女のそれは非常に役に立つ」

「キミヤさんも魔法で把握しているみたいなのでそこまで必要かはわかりませんが」


 現在三人が進む雲の中でその周りの状況を把握する魔法と魔法道具により安全を保っている。流石に雲の中には道中に存在するほど多くの魔法道具はない様子で今のところでそれらに遭遇することはないが、かといって油断するわけにもいかない。岩塊の人形は生命体ではなく魔法道具で動かない状態ではほとんど把握できない。魔法道具を探知する手段は動作中でも意外と難しい……これはその魔法道具次第ではあるため実際には何とも言えないが、少なくとも人形系は把握できないことも多い。それらの探知をする魔法でも使っていれば話しは違うが現状は周辺の把握の魔法のみ。いきなり動かれた場合には対処できない可能性もある。ゆえにゆっくり進まざるを得ない。無茶をしていいならそれこそ魔法で一気に進んでもいいがその場合の無事は保障されない。


「いっそ周りの雲を晴らすのもありじゃないですか?」

「……実は簡単にそれをやってみた。すぐに雲が戻ってきたというか」

「周りが雲だからしかたないのでは?」

「ああ、それは確かに」


 周囲が雲だから仮にちょっと散らしたところですぐに戻ってくる。それはむしろ当然であると言える。ただ、それとも違うものだと公也は見ている。


「いや、一応隔離するような形に上手く操作はしているんだ。結局意味はないが、周りの見通しは効果範囲だけならよくなる」

「なっていなかったような」

「そのような様子は見られなかったが」

「雲が増える、あるいは集める力に干渉がされる……ここが雲の塊になっているのはそういうふうに何らかの操作、干渉があるからだろう。いや、これ自体は以前から考えられることではあるけどな」


 雲の発生は自然的なものではない……というのは今更な話である。過去よりずっと維持され続ける雲塊など普通ではない。気にかかる点はそれが人為的なものか、あるいは特殊な法則による異常だが誰かの手によるものではないか。現状の干渉ではどちらかは断言できない。


「まあ何にしても登るだけだ」

「……こんなところを登って何になるのか」

「魔法道具の存在は私にとって興味がある者ですけどね」


 公也とアディリシアは登る意味があるがウィルハルトには特にない。付き合わされている身になってほしい、という感じである。




 そんな風に彼らは順調に登っていく。そうしていくと上の方で少し山肌とは違った、崖のようなものとは違った部分が出てきた。


「……これは人工的な加工か?」

「……どうでしょう」


 それはどことなく人工的な加工によりまっすぐ、平坦にさせられたような部分である。絶対にそれが人為的な加工によってなされたとは言わないが、可能性としては極めて高いと言える形状、状態である。


「一応ここに魔法道具の作成者がいる可能性は高いからこういうふうに山を弄っている可能性はあるが……」

「それに何の意味が? そもそもこんなところで何か作る意味が見いだせない」

「それは俺に言われても困るけど……」

「隠れるには十分すぎる環境ではありますね」

「雲で見えないからな」

「隠す意味は?」

「それを俺に聞かれても困る。ただ、まあ、魔法道具製作者の性格や作る物によっては隠す意味自体はあるだろう」

「こんな場所で行う意味が見いだせないという点ではウィルハルトさんと意見は同じになりますけどね」

「隠すだけならやろうと思えばどこでもできるからなあ……物資の確保の問題や生活の問題でこんなところよりもよほどいいところはあるだろう、という話ではある」


 ただし、この場所の特異性を考えないのならば、と公也は心の中でつぶやく。恐らく人為的なものだろう、川に沿った地脈の流れ、その膨大な魔力。未管理地域に存在していた人形の街のように地脈のエネルギーなどを利用するならばむしろこの地はちょうどいい。まあそもそもそれ自体が人為的なものである可能性が高いのだが。この地の川を通る地脈の流れが人為的なものでなかったならここに住まう意味はもともとあるだろうし、人為的なものでもこの地にそれを求める意味はある。これが人為的なものが不明だが川は山から四方に流れている。真っすぐ海まで大きな川の流れが山から続いている。その流れに沿って地脈の流れを操るのならばその中心は山の部分となるのは明白、集めるにしても集めたものを各方面に回すにしても、その場所が一番都合がいい。四島の大陸全体を見下ろせる位置であるというのも大きい。もっともその頂点は雲に隔たれ見えるわけではない。


「まあ、それも行ってみれば変わる。もしかしたらよほど酔狂な変人が住む場所を作り上げたとかそういう可能性はあるだろ」

「世の中変わった人もいますからね」

「…………」


 その変わった人の筆頭だろうアディリシアがいうのはどうなのだろう、とウィルハルトは思ったが口には出さない。そんな風に周りの変化を観察しながら三人は登っていく。登れば登る程、人工的な様相を見せる山の頂上方面へと。




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