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ヴィローサが街で問題を起こしている……わけではなく、子供と兎を一人と一匹拾ってくることを決めたころ。公也の方は公也の方で普通にワイバーンで旅をしている。とはいえ、公也の旅もそれなりの日数が経っている。流石に公也も何週間も城を開けるつもりはない。長くても二週間にはならないくらいにするつもりだった。なのでそろそろ一度旅を終えて戻るつもりである。
「……お、山脈を超えたか。ここの辺りになるとトルメリリンでもキアラートでもないな。国境を超えることになるし勝手に他国に入ることになるが……問題はないよな?」
今更な疑問である。そもそも山を越えて国境を超えると言うのは特に想定されていないと思われる。一応アンデルク山もそうだが山は魔物も獣も豊富でまず普通の冒険者や兵士などでは超えることができない。ワイバーンを使う竜騎士のような存在であったとしてもその難易度は高いだろう。ただ超えることはできないわけではない。そういった手段を用いて超えてくることは別に珍しくもない。ただ、そこまでして少数を他国にもぐらせたとしてもあまり意味はない。そもそもワイバーンがあまりにも目立ちすぎると言う問題がある。兵士として侵略のために送るにもワイバーンの総数、それを操る兵士の数、補給線や兵士に指示を出すための人間の選出の問題、距離、様々な問題が立ちふさがる。
そういう意味ではキアラートとトルメリリンの中間地点の山にできたアンデルク城という中継地点があったのはワイバーン部隊にとっても大きかったのだろう。あれがなければまずトルメリリンがキアラートに攻め込むと言う考えを持たなかったと思われる。まあ今攻めてこなかっただろうと言うだけでお互い準備ができれば小規模の戦争がいずれ行われただけであるが。まあそんな城も今では公也のものだ。
ともかく、諸々の事情もあり国境越え自体は大きな問題にはならないだろう。国境を越えたと言う証明がされないだけで別にそれくらいで大きく問題として取り沙汰されることはないと思われる。ただ一応公也はキアラートの貴族という存在。外では貴族として扱われないにしてもやはり少しは考慮しなければならない点だろう。まあそれも積極的にそういうことを見せるような場面があればこそだ。今公也のいる場所付近では街も見当たらない、山の傍に森がありその近くに街道が走っているくらいの場所でしかない。
都市部などの国の中心部から外れた場所だ。田舎の方面、山地森林地帯などの特に人の手が未だに入らない未開拓に近い地域。街道があると言う点では一応その場所を行き来するということはあるのだろう。街と街とを繋げるための道のある地域と言ったところか。場所的に考えれば街などはなくとも小さな村なんかはあるかもしれない……いや、安全を考慮するとない可能性の王が高いかもしれないだろう。
「ここがどこの国か後で調べたほうがいいか……キアラートからこっち方面、トルメリリンの山脈沿い、地図に関しては後で描いてもいいが……縮尺の問題もあるな。一応上空からの視点は覚えているが。見た物を転写する魔法でも開発するべきか……? 記憶を頼りにするにしてもワイバーンによる移動だと速度がある程度不安定になるからな……ふむ………………」
ぶつぶつと地図作成に関して魔法を応用することを考えている公也。この世界において地図は一応戦略物資、情報はかなり重要な物で基本的には秘匿されている。まあそれでも簡単な物はある程度で回っているしギルドにはそれこそ必要に応じて見せることもある。公也は見たことはないが一度でも見たことがあれば今の公也であればその情報を完璧に記憶していつでもその情報を参照できただろう。またそれにより地図を新しく自分たち用に作ることもできる。まあ今はすぐには無理だが後でワイバーンの移動中に見た物を記録し情報からの状景図を残す魔法でも開発していることだろう。
「グルッ? グルゥオッ!」
「ん? どうした……あれは、馬車……か? ああ、襲われているみたいだな」
ワイバーンが公也に向け軽く吠える。それに公也は反応しワイバーンがなぜ吠えたのか周囲を見回す。すると街道を通る一つの馬車が盗賊らしい集団の襲撃に合っていた。らしいというのはそれが盗賊かどうか遠目では判断できなかったからだ。一応盗賊のように見えるのだが、どうにも盗賊らしくない、統率のとれた一個の集団の様に馬車を襲っている。まあ世の中にはそういう盗賊がいてもおかしくはないだろう。しかしその馬車の方もおかしい。普通の商人の馬車やただの旅馬車ならばまだ盗賊が襲う理由もある。いや、別に貴族の馬車を盗賊が襲う理由がないとは言わない。しかし身代金が欲しいから、という理由で貴族の馬車を襲うのもリスクが高いだろう。そもそも貴族の馬車なんていうものはその守りが厳重だ。少なくとも身の回りを世話する人間だけで乗っているはずがない。騎士やら兵士やら実力のある冒険者やら。そういう人間が乗っていてもおかしな話ではないだろう。それなのに盗賊が襲うだろうか。自分たちが壊滅するかもしれないリスクを抱えて? あり得ないとは言わないがやはり厳しいのではないだろうか。
まあいくら公也が考えたところで襲われているのは事実。その事実を否定できない以上理由を考えても仕方ない。目の前の事実こそが真実である。
「……いや、貴族側が負けてるのか。馬車もほぼ粉砕されているし……どう考えても盗賊側が勝っているな、周りの死体的に。助けに行った方がいいか。どう思う?」
「グルッ…………」
「ああ、お前に聞いても仕方のない話か……よし、ならとりあえず助けに行くことにする。あの上に向かえ。俺は飛び降りる。お前は戦いが終わったら下りてこい……逃げるなよ?」
「グルルッ!」
ワイバーンに脅しをかける公也。ワイバーンも逃げたら問答無用で始末されることはわかっている。なので快諾した……いや、快諾ではなく嫌々だが。そうしてワイバーンは壊れた馬車の方に向かう。そこにいる死体や今もまだ生きている頑張って抵抗している騎士らしい人間のいる元に。そして彼らの上空にワイバーンが差し掛かったところで公也は飛び降りる。
「こんにちは!」
「えっ」
「死ねっ!」
問答無用で盗賊らしい人間の一人を飛び降りた直後に殺す公也。
「さて、どちらが悪人か見てわかるわけだし、とりあえずこの場にいる悪人、恐らく盗賊らしい糞野郎どもには死んでもらう」
「なっ!」
「こいつを殺すぞ!」
「ちっ、まだ生きてる死にぞこないは無視しろ! このわけのわからない男を殺すことを優先しろ!」
「目撃者は殺す!」
「まだあっちの方が終わったかもわからないってのに! 邪魔しやがって」
「……血の気の多い奴らだな」
自分も問答無用で上から降ってきた直後に相手の一人を殺しているのに酷い言い草である。まあ遠目から見てもどちらが悪いのかというのはなんとなくわかっていた。一応貴族の側が悪徳貴族である可能性もあるがそれならばわざわざ盗賊や山賊のような恰好をして襲う必要もない。そして今のこのセリフからも確実にこちらが悪党であることはわかる。
「じゃあ、即殺と行かせてもらうか」
能力を駆使することも考えつつ、公也は盗賊らしい集団を相手に戦いを始めた……戦いというよりは一方的な蹂躙だったと言ってよかったが。
※地図はある程度陸地の形を記録する形でのものはいくらかある。ただし国の形が載っているものは少ない。割と国が滅ぶ災害が数年に一度くらいの頻度で起きて滅ぶ国もあるため。新しく興る国もあるので一々地図を修正するのも面倒なので国が載っているのはほぼ作られない。
※一度はやってみたい「こんにちは! 死ね!」
※襲われている馬車を助けるテンプレを今更。主人公も歩けばイベントに当たる。




