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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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7




 頭を真っ二つにしても動いていた岩の魔物らしき存在は次に公也が振るった一撃で胸部部分を大きく切り裂かれ行動を停止する。頭部ではなく胸部が中核、弱点となる部位であったようだ。これがわかっていれば魔法で集中攻撃するなりして他の人間でも倒すことはできるかもしれないが、やはり胸部もまた岩であることに変わりなく、それを破壊するのは一般的には容易ではないだろう。


「こんなものか……」

「あっさり終わったが、普通なら無理だ。私でも……結構な難敵だっただろう」

「遠距離攻撃ありの魔法使いで胸部を集中狙い、魔法道具を運用して胸部を破壊……だけで済むならどうだろう?」

「躱したり防いだりしないので的確に狙って破壊できれば可能かもですね」


 倒れた岩の塊をなにやらアディリシアが近づき触っている。倒したとはいえまた動き出す可能性があるかもしれない謎の魔物らしき存在、あまりうかつに近づくものではないだろう。


「うーん……」

「何か気になるのか」


 睨むように岩の塊を見る、触る、色々と確認するアディリシア。何かこの残骸に対しかなり気になる様子を見せている。彼女の場合それは魔法道具に関わる内容である。


「ちょっと気になるんですよね。調べたいんですけどいいですか?」

「いや、別に俺はそこまで興味がないからいいが……」

「ちょっと異空間開いてください。いろいろ調べるのに必要な道具とか馬車の方にあるので」

「……まあいいけど」

「ついでに装備も変えてきます。同じようなのが他にもいるなら普通の魔法道具じゃたぶん通用しないですし」

「好きにすればいいと思うが」


 アディリシアのいろいろな申し出のため、公也が異空間の魔法を使い彼女はその中に入る。開いた異空間の先には馬車、アリルフィーラたちが空間の中でゆったりとしていた。


「あ、公也様」

「キミヤさん! もう着いたんですか?」

「いや。アディリシアが少し色々と自分の持ち物から欲しいものがあるみたいだから」

「そうですか……」

「今どのあたりですか?」

「具体的な場所は不明だが……事前に話していたこの山の探索を行っていた人の話にあった魔物が出現した位置になる」

「……それは危険なのでは?」

「倒したから問題ない」

「……そうですか」


 まだ山登りの途中。アリルフィーラたちは基本的に頂上、目的地に着くまで出ないか、あるいは安全になるまでは出ない予定である。少なくともある程度確実な安全を確保してから外に出る予定だ。異空間はいつでも開けるしどこからでも繋げられる。


「とりあえずまだしばらくはかかりそうだ」

「今日中に一番上まで行けますか?」

「それはわからないな……雲の中がどうなのかがわからないし」


 現在それなりに登れてはいるが、そもそも頂上がどこにあるかわからない。未だ雲の中にも入っておらず、その雲も山の頂上全てを覆い隠しているとして一体如何ほどの高さは現時点では不明だ。なのでいったい何時頂上にたどり着けるか不明である。今回現れた岩の存在のように魔物などの存在もまだまだいる可能性があるし簡単にはいけないだろうと思われる。







「……アディリシア? そんなにその岩の魔物の残骸が気になるのか?」

「……………………」


 真剣に岩の魔物と思われる存在の残骸、公也が破壊したその存在の調査を行っているアディリシア。


「キミヤさん。これは魔物ですか?」

「……そうだと思ったが。基本的にああいうのは大体魔物だと思う」


 この世界における魔物は基本的にあり得ない性質を持つ生物、である。まあ一般的な魔物として認識されるような生物も魔物だったりするが、少なくとも動物が強大になったり巨大化したりしたものは違う。特殊な力を持つ場合でも魔物ではない……というのは結構色々分類的に面倒な話になってくるため細かい提議、話はまた別の話だ。ともかく今回公也が戦った人型の岩の存在はおそらく魔物、という話になる。いわゆるゴーレムタイプの魔物だ。


「まあ魔物でもいると思います。でも……」

「……何か違うのか?」

「恐らくですけど、これは魔法道具です」

「魔法道具……?」


 魔法道具。ここにいるアディリシアも持っている攻撃用の魔法道具や来ている服などの魔法道具と同様……と言われると違和感を持つかもしれないが、ここにくる以前に見た魔法使いの作った街に存在していた人形たちと同じようなものと考えればあまり違和感はないだろう。ゴーレムの存在はこの世界では一般的には魔物になるが、魔法使いの作る使い魔的なものもまた似たようなものとして有り得る。この世界では使い魔の存在はあまり考えられないものだが、別に使い魔ではなくとも魔法道具としてならば作ることは可能だろう。


「はい。魔法道具です。たぶん作ろうとすれば……これを参考にすれば頑張れば作れる……かもしれないです」

「難しいか?」

「魔石がないですね。あそこで見たような人形と同じ、外部からの供給を受けている。その仕組みの時点で面倒くさいですしこんな岩の塊を動かすように魔法道具を作成するのも手間です。私が作れるものよりもいろいろ複雑ですよ。まああの街の人形の方が魔法道具の仕組みとしてはより高度かもしれません。これはあれみたいに自意識を持ち人との対話を可能とするような能力はありませんから」

「痛みもなさそうだし、再構築もしない、こちらの攻撃に対して警戒する反応もない。あの人形たちがどうかはわからないが、性能としては微妙だな。強さという点ではそこまでじゃなかったが……」

「この国の人ならあれでも十分な脅威だとは思いますよ? だからそこまで警戒する必要を感じなかったのでは?」

「そういうものか……しかし、これが魔法道具だとすると問題があるな」

「……誰が作ったか、なぜここにあるのか」


 岩の存在は魔物ではなく魔法道具である……いわゆる生物的なゴーレムではなく、魔法で作られたゴーレムという感じである。それが存在すること自体はおかしなことではない。しかしそれがここにあるというのは奇妙に過ぎる。そしてそれは大昔にも存在していた……いったい誰が作り何故ここに置いたのか。それは現時点ではわからない不明な事実である。



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