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「おっと!」
「数は!」
「見える限りだと今のところ一体……岩、石、鉱物系! ウィルハルト、剣で戦えるか!」
「普通は不可能に決まっているだろう!!」
巨大な岩の塊、人の形のように纏まって動くそれは公也たちに攻撃を仕掛けてくる。武器や魔法に似た何かはなく、単純に殴りつけるような攻撃。しかし岩の塊のような存在であればそれだけで十分。巨大な岩で殴りつける、質量を叩きつける攻撃はまともな防御手段で耐えることのできるものではない。そして相手の攻撃を受けることの難易度もあるがこちらの攻撃によるダメージを与えることも難しい。岩を破壊する、というのはなかなか大変だ。世の中剣で岩を斬ることのできる者もいるがそんな存在は少数で、真っ当な剣で斬りつけても傷つける程度ならまだしも相手を行動不能にするような切断までは届かないだろう。
「ふむ……っと!」
公也はミンディアーターを抜き相手の攻撃を受ける。大質量の岩の塊が勢いよく迫る大きな破壊力の攻撃だが特殊な剣であるミンディアーターと人間離れした力を持つ公也という異質な存在であったためあっさりと受けることができる。それでも踏ん張ることができずに押し出される形にはなっている。
「どうやって倒す!」
「剣で……流石に斬れないか」
「出来ないと言ったはず!」
「いや、ウィルハルトならできるかとは思ったが」
「まともに考えろ! 剣で岩が斬れるか!」
「……ウィルハルトなら不可能じゃなさそうなんだけどなあ」
ウィルハルトなら岩を斬るくらいはできる……というのは少々過剰な信頼だが実際できてもおかしくないくらいの強さはウィルハルトにある。実際装備さえちゃんと整っていればウィルハルトは不可能ではないくらいの実力がある。ただこの場に置いてウィルハルトが使っているのは普通の剣だし、普通に置かれている岩ならまだしも動く岩ともなるとそれをちゃんと切断するのは少々難易度が高いというのが彼の意見となるだろう。
「アディリシア! そちらはどうなんだ!」
「魔法道具を幾つか試します」
アディリシアの服の袖からにょきっと伸びる杖のような魔法道具。アディリシアは常に魔法道具として機能する服……魔法道具に改造した服を着ており、防御はもちろんいつでも攻撃を可能とするため様々な仕組みがある。流石に大規模で強力な攻撃は仕込まれていないが、簡素な戦闘用の攻撃の仕組みはいくつか存在し、それを起動させて攻撃を始めた。
雷、炎、氷の魔法、弾丸のようなそれが飛んでいく。それは確かに岩の塊である相手にぶつかるが、そこまで大きなダメージがあるようには見えない。相手が生物であればそれなりに効果のありそうなものでも相手が岩の塊では厳しい。流石に非生物を想定した戦闘用の魔法道具ではない。
「あまり聞いてませんね」
「相手が相手だ……物理的な攻撃になる方がいいだろう」
「では……これで」
ごそごそと魔法道具を取り出す。公也もこの大陸で見たことのある銃のような構造をした魔法道具。それから魔法が放たれる。見た目は先ほど撃っていた炎の魔法に近いように見えるが、それが岩の塊にぶつかると小規模な爆発を起こす。それを連発……魔石の魔力量で放つためそこまでではないが、それでも六回は撃てている。それだけの小規模爆発によるダメージは確かに敵の身を削る……しかしあくまで表層を破壊するくらいだ。完全に分離するような大きな破壊には至っていない。
「流石に壊しきれないか……魔法に耐性があるとか?」
「いや。一般的なものならこれくらいだろう。そもそも簡単に岩を破壊できるような魔法が撃てるはずがないだろう」
「そういうものか?」
「魔法道具を使っての攻撃だとそこまで大規模なものはしっかりとしたものじゃないと難しいです」
「普通の魔法道具だとこんなものだろう。あれだけの相手をあっさり破壊できる魔法道具が市井に数多く存在する方が恐ろしい」
「……それは確かに。アディリシアの場合全部自作だけど」
「手元にあるのだとそこまで強いのは流石にないですよ。持ってきているので少し強いのはありますが」
「魔法を使うのは無理か?」
「言っておきますが、魔法道具作成者は確かに魔法も使えます。魔法道具に組みこむために強力な魔法も使えてしかるべきですけど、ちゃんとした戦闘で魔法を使って戦う魔法使いはいないと思いますよ」
この大陸における魔法使いの問題点である。公也のいた大陸において魔法使いは魔法を使う戦力である。前に出て戦うような存在ではないがそれでも戦うことを前提とした魔法の使用、そもそもそれなりに戦い慣れているというものである。何かあっても慣れがあるためうまく対処できる……とは限らないが、まだそこまで混乱や動揺は少ないだろう。しかしこの大陸の魔法使いたちはそもそもが魔法道具を運用するのが前提としてある。彼らは魔法道具を作り魔石を用意する、自らが魔法を放つことはなく、それはアディリシアもまた同様。かつての魔法使いを含めた探索隊がこの山で全滅したのはそれが原因の一つである。あとこちらの大陸の人間はそもそも戦闘に魔法道具を使うのが前提としてある。この山を登るのに苦労していた彼らはどこまで戦闘用の魔法道具を持ち込んでいたか。今のアディリシアのように簡易に扱える魔法道具、一般的な生物を想定した魔法道具なら持ち込んでいても、こんな巨大な岩が動くような相手を想定した魔法道具は持ち込んでいなかっただろう。
「そういうものか。まあ……これくらいなら!」
公也がミンディアーターを振るう。先ほどは受けるだけで済ませていたが、今回はあっさりと相手の体を切り裂く。人の形をした岩の塊、その腕の部分が斬り離されて落ちる。落ちた岩は特にそれ以上動くことはない。相手は腕を落とされたことに動揺することもなく公也に攻撃を仕掛けてくる。
「直さない……それに気にしていない。意志がないのか?」
相手は落ちた腕を無視している。こういったタイプの魔物は本体、核となる部分が生きている限りは他の部分を破壊しても問題がない。ただ体の一部が失われた状態はあまり好ましくないため周りの自らの体と同じような物質を取り込んで修復する、みたいな機能を持つ場合が多い。今回はそれがない……一切気にしていないのか、それとも気にするような意志が存在しないのか。
「とりあえずあそこに本体はない……人型なら恐らくわかりやすい部分だろうな」
大抵の場合、人型のゴーレムのような無生物系の存在の場合、核となる部分がある場所は限られる。頭部か胸部、人で言えば脳か心臓かの位置……大体そのあたりに核となる物がある。まあそういった一般的な認識を把握し別の場所に移動させるようなこともあるが……それはそれで効率や能率の問題がある。中心にある方が全身に捜査の網を広げやすい。端にあると先の方までの命令が届きにくい……ゆえに多くの場合は中心にある、人型で言えば胸部であることが多い。
「どっちか……どっちも? まあ、とりあえず」
そう呟きながら公也は剣を振るう。
「まずは頭から」
ミンディアーターの一撃があっさりと相手の頭部を横に真っ二つに切り裂いた。




