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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十九章 雲中城
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2




「あの山はずっと森からでも見えましたけど。何か行きたい理由でもあるんですか?」

「山の頂上にある大きな雲が気になったりは?」

「特に……」

「私が生まれた時からこれまでずっと、私が生まれる前からも存在していた雲です。今まで一度もあの雲の塊は晴れたことがない」

「そうなんですか。別に私興味ないですし……」


 この大陸に住んでいるアディリシアとウィルハルトは山に存在する巨大な雲を見たことはある。アディリシアは特に興味を向けるわけでもなく、ウィルハルトは見慣れてはいるがそれ自体に対する疑問や興味はない。これまでずっとそこに存在し続ける状態を見続けていたからこそ、あって当たり前で特に気にするものではなかった。確かに雲が存在するのはなぜかという謎があるが、だからと言ってそれを調べる意味も目的も薄い。別にそれが害になっているわけでもないのだから手を出さないでいい。

 それにそもそも山を登ること自体が極めて難易度が高い。高さがまともな山の何倍もある感じで登るにしても絶壁を登るに等しい……とまではいわないがかなりの勾配になるのは間違いない。またそこに存在する魔物の問題もある。かつて山に調査に行った……公也たちが少し前にいた街を作ることになった魔法使いたちのように調査隊、探索隊ともいえるものが組まれ赴いたが、未管理地域と同じ帰ってくることはなかった。未管理地域は今回公也たちが見つけることができたものの、これとはまた話が違いこちらは見つからなかった。足跡は負えたが途中で途切れており、そのあたりには魔物が存在しかなり危険な常用にあったためそれ以上の調査をできなかった。要は魔物がいるゆえに危険であるため手を出せないということになる。

 しかし晴れない雲というのも少々おかしな話。ウィルハルトが生まれてからずっと、生まれる前からもずっと、山の上の雲は消えることがなかった。それはなぜか、そもそもなぜそんな巨大な雲の塊ができているのか。気流などの影響も受けずにずっととどまり続け、消えることも増えることもない巨大な雲……果たしてこれは自然の産物と言えるだろうか。そう思うくらいの異常なものである。


「あの山は危険ですから本当は行ってほしくはないのですが」

「どの程度危険なのですか?」

「今回私たちが訪れていた街……そこに赴いたのは魔法使い十名と兵士百名以上ですか? 具体的な数はともかく……それよりも少なくはありますが、半数以下ということはありません。公式には魔法使い七人、兵士八十三人、総数九十名ですね」

「……山登りにそれだけの人数って必要ですか?」

「普通の登山ならむしろ人の数は少ない方がいいと思うが」

「あの山は普通の山のようになだらかな道を進めるような山ではありません。頂上が雲で隠れているとはいえ、あれほど巨大な山です。結構な勾配があり、崖を登るような登り方をしないと厳しい。ゆえに登るために普通の登山ではなく兵士を使い足場を作ったりしながら登って行ったとか」

「……なるほど。そういった作業をするために人をたくさん用意したと」

「その通りです。そしてある程度登ったところで全滅。その後彼らの行方を知るために再派遣したのですが……途中で途切れ、その近辺では争った痕跡があり、またその痕跡を調べようとした結果魔物が現れたという話です」


 この国もかつて山を調べることはした。しかしその結果は芳しくなかった……そもそも途中までしか登れず、調査は中途半端になっている。魔物に対抗することのできる戦力もいたはずだが帰還することもできず全滅……それだけ聞いても危険度合いは分かる。


「どんな魔物だったんだ?」

「話によると……岩と石でできた人のような形をした魔物だと」

「ゴーレム系統か……周りに自然があまりない場所になってくるとそうなるのかな」


 魔物は住んでいる場所に見合った魔物が生まれる。ゆえに岩や石しかない場所であれば岩や石でできた魔物となるだろう。あるいは空を飛べる魔物だとか、またはそもそも生物を食する必要ない魔物だとかそういうものになるだろうか。一応山全域が岩や石というわけではなく、ある程度の範囲から上がそうなっているという形である。それまでの魔物はおそらく問題なく対処できたのかもしれないが、岩や石だらけとなる位置からはそのような魔物が出てくるということでなかなか厳しいところがあるだろう。


「その手の魔物をキミヤ様は……問題なさそうですね」

「多少の相手なら魔法でも物理的にでも何とでもなるな」

「でも魔法使いが行って全滅ですよね。大丈夫なんでしょうか?」

「魔法で倒せない……ってこともないとは思う。数は分からないな。しかしそもそも魔物の発生はどうなんだろうか……未管理地域みたいな魔物の発生がしやすい場所はまた特殊だが、あの山も同じような感じなんだろうか」

「少なくとも下の方での魔物は普通の点在する森と大きくは変わらない……上の方が特殊なようだ」


 山の下の方の森は一般的な魔物とは変わりない。ということは上の方が特殊ということになる。


「……何らかの特殊な法則の地形か?」

「特殊な法則?」

「俺が知っている隣国のことなんだが、一つワイバーンばかりが魔物として存在する場所がある。それ以外にも凄く病気の源となる存在が大量に存在する場所もある。何らかの特殊な法則の発生する場所がある。あの雲もその特殊な法則により発生した物である可能性がある……そしてそういう場所は特殊な状況、条件、普通ではない魔物ができるかの生がある……ワイバーンの谷はワイバーンだし、病気の源が存在する場所ではその病気の塊のような性質を持った魔物がいた。ここの雲に関してはどうなのか、というのはちょっとわからないが……」

「なるほど。あのような雲があるからか、それともあのような雲ができる要因があるからか、ともかく特殊な魔物が生まれる可能性が高い……ということですか」


 魔物の発生に関してだけではなく、地脈の影響により既存の世界法則から大きく乱れる場所もある。人の手が加わっている可能性の高い特殊な地脈の流れの行く先に雲の塊があることを考えるとそういう考えもできるだろう。あるいは魔力による法則変換ではなく魔力による魔法や魔法道具を使っている可能性もある。


「それで……結局向かうのですか?」

「そのつもりだが」

「……アリルフィーラ様に危険が及ぶ可能性がありますが」

「そうですね。それは私も望ましくありません」

「もう……魔法道具の防護があるから大丈夫でしょう」

「そうです。私が作った魔法道具を馬車の方に組み込んでいるので大丈夫ですよ」

「不安はありますけどキミヤさんもいますし、リルフィ様もちゃんと守れる状況だから大丈夫じゃないですか?」

「………………」

「………………」


 フィリアとウィルハルトは若干不満そうにしているが、どうあがいても公也とアリルフィーラが決めている以上はそれを止めることはできない。決定権のある二人が行くつもりなので二人ができるのはアリルフィーラの守りに細心の注意を払うのみである。



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