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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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「て、てめっ……」

「なに? 小娘に色々と言われた程度でそんなに慌てるのかしら。ずいぶん小っちゃい男なのね」

「くそ、糞野郎が!」

「お、おい……」

「ふふふ…………」


 ヴィローサに煽られ暴走しかねない男。しかしヴィローサという存在をしっかり見て、その価値に関して思い至り彼は大きく息を吐いて精神を落ち着かせる。妖精は利用価値がある、売れば高値で売れる。


「ふっ、ついてるぜ。そこの小娘に妖精が一匹。いやあ、実に儲けさせてくれるもんだ」

「…………そうだな」


 随分と調子がいいと思わざる絵を得ないところであるが、実際二人を確保できればそれなりに男たちは儲けることができる。しかしヴィローサに散々煽られてその後調子に乗った男はともかくもう一方の男は戸惑っている。戸惑うというよりは、不安が大きい感じだろうか。なにせ一切感情の揺らぎも見せず特に話す様子を見せない少女、それに突然現れて言葉の毒を振りまく妖精。どう考えても通常の誘拐の現場ではない。ありえない事態、ありえない存在、よくわからない状況。彼らがするべきはもともとの目的を実行することではなく現状の問題、状況の把握をすることであった。


「大人しくしてろよ? そうすれば傷つけずに捕まえてやるぜ」

「…………はあ。相手のことをもわからないのかしら。そこの子に手を出そうとしている時点でダメダメだっていうのに、私にまで手を出す気? まあ、それならそれでいいわ。こちらも容赦をしないだけだもの」

「何言って」

「え? あ、お」


 男二人がぐらりとその身体を傾け倒れ伏す。ヴィローサの能力、毒を体内に発生させ身体機能を麻痺させたのである。もちろん死なない程度にしているし麻痺してもせいぜい数十分程度、すぐに消える毒だ。それでも数十分は倒れているためその間に身ぐるみはがされそうである。場所的に裏通りのような感じの場所なのでそこにいる住人に。まあそこはヴィローサが関知するところではない。


「さあて? 少しお話いいかしら。ああ、言葉が聞こえてないとかそういうこと? それとも、あなた……いえ、あなたたちに話がある、その存在の異常を理解しているとお教えしたほうがよろしくえ? いっそ無理矢理話を聞く、連れ去ることをしてもいいのだけど、できれば穏便に話し合いで解決したいものね? そういうことで少しお話いいかしら?」

「………………」


 少女は特に表情を変えていない。しかし、少しだけ先ほどの男たちの時とは違い微かに反応を見せた。


「………………」

「言葉を話せない? まああなたが人間でないなら話せないとしてもおかしな話ではないのでしょうけど……ねえ、そこのお人形さん? あなたもそこの少女も何者なのかしら? 教えることができるのならぜひとも教えてもらいたいところなのだけど?」

「………………」

「…………積極的に話さない子は苦手ね。ねえ、ぜひとも話してもらえない? あなたの目的、なぜここにいるのか、そもそも何をするつもり、どうするつもりなの? 私は単純にあなたたちを見つけたから興味を持っただけなのだけど。別にあなたたちにはどうでもいいことかもしれないけど、それならそれであなたたちは何をするかわからない存在ということでこちらも始末にかかっていいわ。私としてはそうするつもりではないけれど、人間でもない人形でもないあなたたちは危険なの。ここで殺されたいのならだんまりでも私は気にしない。それでいいのなら…………」

「よく は ない」


 そこまでヴィローサが話したところで少女の方からも返答があった。どこか機械的にも見える返答、単語をつなげ話す姿。人間とは少し違う、どこか人から外れた話し方の雰囲気。


「よくはない、ね。なら話してもらえるかしら? あなたたちは何者なのか?」

「………………」


 少女は胡乱とした表情ながらも、微かに下に視線を向ける。己の持つ人形に対して。人形もそれに合わせ見上げるように動いた。先ほどまで一切動く様子を見せなかった人形が急に動いたが、その場にいる誰もが驚くことはない。少女ももちろん、ヴィローサもそれ自体は予想できたのだろう。ヴィローサも人形がただの人形ではなく生命……厳密に言えば生命体ではない生命がそこに存在していることは知っていた。


「…………わたしはにんぎょう ぼく は うさぎ」

「……うん? えっと、ぼく? わたし?」

「ぼく は この こ の からだ を つかう …………うさぎにつかわせてる」

「ふうん…………えっと、ぼく、うさぎの方はそのあなたが手に持っている人形の方ってことかしら? でも人形じゃない……うさぎ? 形は確かにうさぎだけど……」


 少女は人形で、手に持っている人形は兎……少々理解がしがたいが、それぞれが意思を持っている、そして兎の方は少女の体を使わせてもらっていると言う感じのようだ。


「ぼく は れい」

「……アンデッドね。死霊、うさぎの幽霊ってことかしら」

「そう ………………わたしはすてられたにんぎょう おなじ ところ に すてた だから いっしょ に いく の きめた」

「……捨てられた? 同じ場所に?」

「ぼく つかえない ほね すてられた わたしも捨てられた……からがわれて、そこからぬけた。そこでうさぎとであった それから いっしょ に いく たたかう とき からだ つかって たたかう」

「………………ふうん」


 ヴィローサにはよくわからないことであるが、とりあえず二人にはいろいろとあるのだろう。少女の人間の形をした人形、自称人形の生ある存在と、死霊となった骨とその霊である兎の存在。実によくわからない存在であるが話を聞く限りでは奇妙な存在ではあるが害にはならない、そんな感じではある。そもそも害を成しようがない。せいぜい人間を数人殺す程度の混乱を起こすくらいしかできないだろう。そもそも何を目的にこんなところにいるのかすら不明である。


「あなたたちは何か目的があるの?」

「…………ない いきる こと?」

「つまり特に何かしたいことがあるわけでもないのね。まあ、そういうものでしょうね……」


 兎の幽霊が何かしたい事と言われても困るだろう。少女の方も元々人間でなく、なぜか生まれてきた。生まれた理由もない。何かを頼まれているわけでもない。自分の目的すら存在しない。兎の幽霊と共にあって、その結果今この場にいて生きているかのように見えると言うだけでしかない。


「何もしたいことがないのなら……どこかに行く予定もないのなら……ついてこない? 少なくともただ何もしないで生きるよりは楽しくなるかもしれないわよ?」

「……………………………… なに が したい?」


 二人にとってヴィローサの目的がわからない。まあ仮に何か目的があったにしても二人には関係がない。二人にとって言えば自分たちに害がないのならばそれでいいのでは、という気持ちもある。目的がない、目標がない、ただ生きるだけの状況にある二人に自分たちの生を害しない行為であれば……危害を加えるつもりでないのなら、それは悪いことではない。いいことでもないが、まあ何か二人にとって糧にはなるかもしれない。


「あなたたちに興味がある……私はないけど、私の好きな人、愛している人はあなたたちに興味を持つは。どういう存在か知りたい、ってね。ああ、別にあなたたちに危害を加えたりはしないわ。敵ならともかく、味方としているならそういうことをすることはないわ。そういう人だもの」

「……………………」

「それで、どうする? 別に私としては……あなたたちの返事を考慮せず、無理やり麻痺らせて連れ去ってもいいのだけど?」

「……………… おどし」

「ええ、まあ。脅しと言えば脅しでしょうね。でも、さっきの男の様にあなたたちに危害を加えようとしてくる存在はいるのではなくて? 見た目が可愛い、獲物としては格好の年齢に見える、それにあなたたちは二人でしょうけど傍から見ればひとり、守ってくれるような存在もなく、一人であるく様は狙ってくださいと言っているようなものよ? あちこちいくたびにあんな面倒なのがついてくるのは嫌でしょう」

「……………………」

「まあ、ついてきたからと言って見どころのあるような場所はないけどね。ゆっくりはできるかもしれないけど、それくらいかしら。ああ、でもキイ様に頼めば何か手伝いをしてくれたり話を聞いてくれたり、色々としてくれる可能性はあるわ。で、どうする? どうするの? 私としてはどうでもいいんだけど。結果は変わらないもの」

「………………」


 少女は胡乱な表情のまま、下を見る。


「わかった ついて いく」

「そう。ありがとう。こちらも面倒なことをしなくてよかったわ」


 二人はヴィローサについてくことに決めた……ぶっちゃけ二人のうち兎のほうが決定権が強い。そのため兎が決めたことに従うのである。一応精神的な成長はしているが本人の意思は結構薄弱なところがあるのでしかたがない。


「ところで二人はなのお名前は?」

「ない ない」

「……あとでキイ様につけてもらいましょう」


 公也任せにすることに決めたヴィローサ。まあ問題はないだろう。



※殺されていないだけまし……まあ以前のヴィローサでも無闇矢鱈に殺しはしないかもしれないが。

※人形の少女と兎。ホムンクルスと兎の幽霊。三章の最後の方にあった捨てられていた中から脱出した個体。

※……が入る方が少女、ひらがなでスペース入っているほうが兎。なお兎のほうがよく喋る。

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