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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
1566/1638

23







 夜。街は人の姿もなく静かである。魔法道具作成施設前に立っている衛兵は変わらずずっと侵入者を拒む。


「ん?」


 ガタン、と大きな音がする。静かな街でそのような音は珍しい。衛兵は視線を音の方へと向ける。体はそのままその場を動かず、顔を動かすだけだ。


「…………」


 視線の先には体を半分だけ出して衛兵の方を見る人影があった。暗い……この街でも流石に夜を明るくするような灯火の類の魔法道具はない。いや、今更になるが街はまるで誰もいないかのように真っ暗だ。まるで光が必要ないかの如く、どこの家でも街のあちこち、全ての場所で光が灯っていない。まあその話はさておき、人影は暗くよく見えない……衛兵は目が悪いわけではないがそれでも灯りがないからだろうか、その姿を明確には確認できない。ゆえにというわけでもないが……怪しい。


「……む」


 その人影は体を隠し、逃げたように見えた。衛兵は魔法道具作成施設を守る目的のある存在であるためそれを追いかけるということは出来ない。しかし、それでもあまりにも怪しすぎる人影を調べないというわけにもいかない。魔法道具作成施設の前からあまり離れず、魔法道具作成施設の入り口を視界に入れつつ、人影のいた場所に近づきその方向を確認する。


「……誰もいないか」


 そこに誰もいなかった。どこかに行ったのか、それとも実は気のせいだったのか。ともかく人影はどこかに消えていた。


「誰もいないなら良し」


 そのまま衛兵は元の場所へと戻る。誰も入らないように見守る。







 もっとも、既に誰かは入った後だったが。







「ちょろい……」

「流石にそこまで警戒していなかったというか、想定していなかったというか……前にいる人の誘導まで行って姿も魔法の影響も遮断していたら普通は入れますよ。ぜんぜんちょろくはないですよ……」

「そう……だな」

「普通はたぶん入り口は流石に警戒網はないと思います。そこまでする必要があったのかは実は疑問ですよ」

「まあ、しておいて損はないだろう。別に警戒して問題はないし」


 魔法道具作成施設の中に入った公也たち。入口にいる衛兵は公也が魔法で人影を作り誘導した。わざわざ音を立てて意識を向けさせることまでしている。自分とアディリシアは魔法により姿を消し、魔法による探知も遮断して入った。色々と見つかる可能性を懸念しそこまで行ったわけである。アディリシアとしてはそこまでする警戒は理解できるものの……普通に考えれば入り口はもし人がいたなら人が入るのに使う。魔法による感知でこの街の人間かそうでないかを感知するのは事前に登録するような仕組みでもなければ難しく、そんな感知手段が入り口にあれば負便すぎるためまずないのでは、という話だ。もっともこの街の人間の総数の少なさを考えると不可能とは言えないため絶対に大丈夫とは言えないだろうが。


「さて……なんだろうな、人が使っている気配がしないが」

「宿と同じ、人の手が入っていない感じがしますね。それに魔法道具を作成する場所なのにその痕跡……作った魔法道具やその作成途中の品、素材などが見当たらない」

「他の場所にあるかもしれない。探そう」


 そう言って公也とアディリシアは魔法道具作成施設内を探索する。宿と同じで人の手が入っていないような雰囲気、綺麗だが生活感の無い綺麗さ、ただ綺麗な状態を維持するようにされているだけ……それに加え魔法道具作成施設なのに魔法道具が作られている様子がないというか、手が加えられている途中の素材や作成途中の魔法道具、完成品も特にあるようには見えない。誰も何もしていないのではないか、そう思える程度には施設が使われていない。わざわざ衛兵がこの中に入らないように守っているのに中には何もないというのは明らかに奇妙である。




「……地下への階段があります」

「あるな」

「なんか雰囲気ありますね」

「あるな」

「ここ以外の場所は特に何かあるわけじゃなかったですし……」

「本命はここだろうな。ここに何かあるとすれば、だけど」


 公也たちは魔法道具作成施設で地下へ向かう階段を発見した。別に地下倉庫くらいあってもおかしくはないが、魔法道具作成施設にはそれ以外の目立った何か特色のある品物、設備などがなかった。何かあるならここ以外にはもうない、という状況である。


「とりあえず行ってみよう」

「……キミヤさんはそればかりですね」


 何事もわからないがとりあえずやってみようの精神で公也は動くことが多い。もうちょっと考えて警戒して用心し、無理はせずに危なそうなら戻ったりもすればいいのに、みたいにアディリシアは思う。まあそこまで警戒するのもどうかと思うが……公也の方もちょっと考え無しではあるだろう。ただ、この場所は外はそこそこ衛兵もいて警戒されているが、中にそこまで警戒するかはわからない。入らない前提で考えれば内にわざわざ侵入者を感知するあれこれをつけるとは思えない。もっとも……最終的な防衛として地下への階段に何か設置されている可能性はあるが。




「鍵がかかってる」

「鍵はどこにあるんでしょう?」


 地下への階段の先、扉があり公也たちはそこで止まっていた。


「無理やり開けるのは」

「それは流石にやめておいた方がいいと思います。罠くらいはあると思いますから」

「……そうだな。仕掛けるならここの方がいいんだろう」


 扉を無理やり開けると流石に罠が発動する可能性が高い。入るにしても攻めて鍵を開けて正規に入る方がいいだろう。しかし鍵を探すのも面倒な話。


「ふむ……」

「……壁を叩いて何をしているんですか?」

「向こうの様子がわかれば……」


 公也は魔法で地下の様子を探る。風で空間を、部屋の配置を、土の魔法で壁の様子を、中身を。


「よし……空間を食らえ」

「っ!?」


 壁が消えた。壁の一部、内部の構造がごっそりとなくなり……まあ、土というか地面だった部分だが、そこが消えて向こう側……扉の向こうの部屋へとつながる道となっている。部屋の方も壁が消えている。


「流石に壁に感知するような仕掛けはないと思うんだ」

「……すごくいきなりですね。でも……今のは魔法?」

「魔法以外に何があると?」

「…………いえ、確かに魔法以外は考えられないですけど」


 アディリシアは魔法の気配を感じなかった。だから魔法ではないと思ったが、魔法以外で今のようなことをできるかが怪しい。彼女は公也の<暴食>に関しては知らない。それゆえに目の前の光景を魔法で起こす以外の手段を上げられない。

 とりあえず、公也は<暴食>で階段側から壁に穴をあけ、部屋へと道を繋げる。扉を通じない横道であるため扉に仕掛けられている罠は反応しない。部屋全体や壁に感知系の罠があれば話は別だが、流石にそこまで徹底はしていないだろう。ともかく中に入れるようになったのは事実である。




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