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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
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「……流石に夜には出てこないみたいだな」

「そのようです。人間で魔法により操られているか、あるいは言っていた通り魔法道具の人形で夜には戻るようにしているのか。もしかしたら魔力補給のために夜に戻るようにしているという可能性も魔法道具の人形ならあり得るかもしれません」

「そういう可能性もあるか」


 街の中、流石に夜にもずっと同じ場所を巡回しているわけではないらしく人影はなかった。まあ仮にエネルギー問題がなくとも夜にも同じ場所をずっと歩いているのは流石に怪しいというかおかしいというか。それゆえに事前に戻すように設定している可能性はある。あるいはアディリシアの言う通り魔力補給を目的に戻るようにしているか。どちらにしてもずっと街の中を歩き回っているわけではない。その点では少し安心できるというか……夜の街をずっと動き回る人影という不気味な光景を見ずに済んで良かったと思うところである。


「……なあ」

「なんです?」

「なんでああいった魔法道具を置いていると思う?」

「……どういう意味ですか?」

「人間に似通った魔法道具をわざわざ作り街の中を動かす意味合いはあるか、だよ」

「……彼らが魔法道具であるかどうかは現時点では判断しきれないんですけど……でも、そうですねえ。私にははっきりとこうだと言えることはあまり。多少考えは思い浮かばなくもないですが……」

「どう思う?」


 なぜ街の中を魔法道具である人形が練り歩くのか……これに関しては魔法で操っていた人形でも問いとしては大差がない。そもそもそんな風に人を街に歩かせておく必要はあるのか。仮に街を監視する目の役割を担うにしてもそれをわざわざ魔法道具の人形や魔法で操作する人間を使う必要はない。いわゆる使い魔的な存在はこの世界でも一応なくはないが効率の問題、扱いの難しさから基本的には使われていない……というのは微妙に話がずれるが、そういった魔法的な繋がりを利用した監視は一般的には効率が良くない。膨大な魔力があったり魔物だったりの特殊能力だったとかそういうものであればできる場合はあるが、結局のところそういった目の用意が面倒くさい面もある。魔法道具の人形も結局はそれを作れるだけの技術、維持し続けるだけの環境、条件、それらを考えるとやはり効率が悪い。

 それを考えるとそもそもこの街に魔法道具の人形を作れる、維持で生きるからと言って使い続けること自体があまり価値がないというか意味がないというか。わざわざそんなことをする意味合いはなぜかと考えてもおかしくはない。

 そもそも……公也たちのあっているこの街の住人の中で果たして人間はいるのか、現時点では判断しきれないという問題もある。公也たちがあった人物は今のところ……まともに話しただけであれば両手の指より少なく、すれ違いや視認し確認したというだけでも……三十人も行かないだろうくらいの数である。結構街の中を見回してそれだけの人物しか見なかった、しかも街の中を巡り歩いている人物は同じ周回をしている操作されている何かであるという時点で真っ当な人間は見かけていないと言わざるを得ない。まともに話せる相手だからと言ってそれが本当に人間かは怪しく……もしかしたらこの街には人間はいないのではないかと思うくらいである。

 そんな考えのある公也の質問へのアディリシアの問いはそこまで複雑なものでもない。


「人がいるように見せかけたかったとかかなと」

「……街の中を歩いている人がいる、いや、この場所のこの街がちゃんとした街であるように見せかける」

「人形たちだったなら役割は監視とかよりは街を歩く人として維持しているわけですから。受け答えもするし案内もしてくれるんでしょうけど、やっぱり街歩く人としての姿、そう見られることが基本だと思うんです。ああ、人がいるんだな、この街は人がまだいる維持されている街なんだな……そう思わせることが目的なんじゃないかなって」

「まともな人間がいるかも怪しいからな……仮に彼らが人間で魔法で操作されているにしてもこれだけの人数をそうする意味の薄さと、そもそも人数が少ないという点……考えられるのはこの街にいる人間の総数が少ないということ」


 街を街として維持するうえで足りない人の数。未管理地域のかなり奥の場所に存在するこの街にはアディリシアのいた場所の街以上に人がこれない場所となっている。最初にこの街に来た人間がこの街を作った時、果たしてどれほどの人が来たのか。そしてそれ以後人が生活しどれだけ増えることができたか。生きることはできてもこの街にとどまり続け街を維持できるだけの人の数を維持する……果たしてそれは可能だっただろうか。効率的な繁殖というのは人には難しい。そもそもそれができるほどの人の数は……果たして本当にいただろうか。魔法道具の人形が作られ街が維持されているこの形が作られた時点で、人の数は少なかった可能性が高い。だからこそ、人形を大量に作り街を維持している。


「……作った側として街に人がいるようにしたい。あるいは自分たちだけで街を維持したくない、人のいない街を見たくない。そのため街に人の代わりになる人形を配置した……」

「それは流石に考えすぎだと思いますよ?」

「だけどそうじゃなかったらなぜ魔法道具の人形を大量に街を巡回させる形で配置されている? 外から見ればわかる奇妙さがあるのに」

「……理由があるかもしれません。少なくともその意見が正しいかは現時点では判断できない」

「……そうだな。俺のはあくまで推測でしかない、か」


 公也の言った意見は街に人がいないのは寂しいから人形でもいいから徘徊するようにしたかった、そのために魔法道具の人形を作り配置した……人として寂しすぎてそうしてしまった、というのはあり得なくもないがそのために魔法道具の人形をわざわざ作る、何十も作り上げることをするかは若干疑問がある。しかしそれを否定したとして別の意見が出てくるかは少なくともアディリシアには思いつくものではなかった。だが結局公也の意見を正しいとするのは難しく、何とも言えない状況である。


「まあ、そんな話は良いでしょう。人がいないのであれば散策しやすいですね」

「そうだな……問題は目的地がどういう状況にあるかだが」

「普通は警備は夜の方が厳しいですよね……」

「いや、それはどうだろう? 警備のやり方は変わるだろうが……やっぱり夜の方が警戒は薄いんじゃないか?」

「少なくとも人はいると思いますね」

「それはなあ……普通の重要施設でも衛兵みたいのは置くだろう。ここで置かないというのはおかしい」

「いなかったらいなかったで魔法道具で警戒網が張られているでしょう」

「……そうだったらむしろ厄介だな。人形でもまだ人の目で警戒されている方が楽か」

「衛兵がいても魔法道具の警戒がないとも限らないんですけどね」

「…………面倒くさい街だな」

「他所の街の重要施設に入ろうとしているんですし面倒なのは当たり前でしょう。この街の人……がいたならキミヤさんとか絶対入れたくない入れる気ない入ってほしくないってなるでしょうし」

「よそ者をわざわざ入れたりはしないだろうけどさ……」


 公也たちは現状こそこそした侵入者……まだ侵入はしていないが、この先の状況次第では侵入する可能性はある。普通に考えれば公也たちが魔法道具の作成施設に入ることは認められない。それは公也たちもわかっているため夜にこそこそとしている……仮にこの街が普通の街ならばいい行いではないだろう。



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