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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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 翌日。フーマルは色々と持って帰る物の用意やワイバーンの食事、公也に代わって色々と話を聞いたりなどやることは多い。まあ本来公也がやる仕事であるためそこまで何でもできると言うわけではないのだがある程度はフーマルでもやらなければいけない。そのためわずかな時間があると言っても本当にわずかな時間になる。一応は前日にある程度やっていることもあるのでそこまで大きな問題はないかもしれない。

 一方でヴィローサは基本的にやるべきことというものはない。せいぜいワイバーンを脅してちゃんと言うことを聞いてくれるようにするくらいだろう。つまりヴィローサは自由時間が多いと言うことである。前日にヴィローサに関して話を伝えており手を出すような存在は恐らくいない……と言うほど簡単な話にはならない。情報の伝達速度の問題もある。まあヴィローサに手を出そうとしたところでそう簡単に手を出すような人間もいないだろう。ヴィローサは一応公也の所有物であると言う扱いを受けるための証明である印をつけている。基本的には貴族ならば家の印であったりするが公也の場合は有名ではないないため首輪など所有されていることがはっきりわかりやすい証明になる。ヴィローサの場合むしろ喜んで着けそうな気がする。

 もっともそうした証明があっても、誰かの所有物でも手を出すような輩はいないわけではない。ヴィローサの安全を考えるのであれば大人しくしてフーマルと一緒に帰るのが一番。そもそもヴィローサがいなければフーマルは帰還することすらできないだろう。しかしそんなことを理由にヴィローサが行動しない理由はない。公也がいないので自分の自由ということになるが自由というものをヴィローサは望んでおらず公也のためになること、ということ以外には興味すらないくらいだったりするが、ともかくヴィローサは見て回るつもりだ。

 ただやはり安全は一応考慮する。別に町の中をふわふわわかりやすい位置を通って見えるようにする必要はない。ヴィローサは妖精、妖精は空を飛ぶことができる。であればその利点を最大限生かして活動すればいい。


「この場所からならよく見えるわね……ワイバーンに乗ったらもっと高い所に行くのだけど。キイ様がいないのはやはり残念かしら。ああ、キイ様どこで何をしているの? ついていきたかったなあ……まあキイ様と私が違う行動しているからこそできることもあるし、キイ様では見れない見つけられないものを私が見つけることもあるわ。私はキイ様の役に立てればそれでいいの……うふふ…………」


 自分言って悦に浸るちょっとよくわからない精神性の彼女。そんな状態でも街を見下ろすことは止めていない。そして彼女の能力における範囲もまた届く位置である。もちろん誰かに使うつもりはない。単純にそれによる様々な存在の把握ができると言う点が大きい。毒の有無、毒の性質、毒を発生させられるかどうか。彼女の能力は有効な相手とそうでない相手、通じやすい相手と通じにくい相手がいる。強い相手には通じにくいとか、持っている毒が強い人間はいろいろと悪い物を抱えているとか、いろいろなことがわかる。これは公也などでは絶対に理解できないヴィローサしか把握できないことである。

 そしてそんな彼女の能力による知覚に奇妙な存在を察知する。


「あら? これは…………ふうん? どうしたのかしら」


 それは人の形をしているが人の反応とは違う。他の近くにいる存在と比較してもやはり違う何か。人と違う感覚であると言うことはつまり人ではないはずだがなぜか人の姿をそれはしている。怪物か、魔物か、あるいは外れた人間か。それにその存在が抱えている者も気にかかる。布をかぶせて形を作っただけの兎のようなぬいぐるみ。それから少々特殊な性質を持つ毒……物質として存在する物でなく精神的なものに属する毒を感じ取れる。ぬいぐるみの中に何か生物がいなければできない……否、その感覚は生物のものですらない。


「ちょっと面白そう……あら。あらあらあら」


 その存在を知りヴィローサはそれを追いかけようと思い目を向ける。そうするとその周囲に別の人間の存在を感知する。それは二人組の男、見た目で少しガラが悪そうな人物……まあおよそ八割の人がまず喧嘩とかそういうことをして問題を起こしそうなタイプと答えるような者たちである。それがその存在を追いかけている。別にその存在が特殊な存在であると気づいたからではないだろう。その存在は人の形をしている……見た目でいえば可愛いと言って差し支えない少女の見た目をしている。それが人形を抱えて一人で歩いている。明らかに悪人にとっては誘拐の狙いどころだ。つまり二人組はそういう目的で追いかけていると言うことである。


「助けに入ったほうがいいかしら? いえ、でもあれ、多分フーマルと同じかそれ以上に強い……あるいは危険な存在よね。ああ、でも放置しておくのも何か悪い気がする。少なくともキイ様なら教えて見つけて確認すれば興味を持つかも。ええ、ぜひとも仕入れたい面白い存在であるはず。あれがどういうものか知らないけど、ちょっと誘ってみたら食いついてくれるかしら? 人間じゃない、であればそれを脅しにできるかもしれないし……あ、寄っていくつもりね。ふうん、じゃあ一応助けに入ってから確認してみることにしましょう。私に手が追えないならキイ様に任せるしかないか……追ってこられたら厄介? ワイバーンと同じ速度では移動できないでしょうしあの山を越えるのは無理でしょうから多分大丈夫、ええ、まあやれるだけやってみましょうか」


 そういってヴィローサは街の隠れた通りを進む人形を持つ少女、そしてそれに近づく悪党二人の傍に降りていく。






 街の裏通り、その場所を歩く人形を抱える少女が一人。その少女に一人の男が声をかける。


「よう、嬢ちゃん」

「………………」


 少女はその声に胡乱とした表情で振り向く。焦点が合っていないような、その目に何も映っていないようなかなり曖昧で奇妙でおかしくみえるその顔。そんな彼女に振り向かれ彼女を悪い目的を持ち接触した男も少し怯む。まともな少女ではないのではないかと一瞬思ったが、話しかけたことを合図にもう一人が彼女の裏側に回り込む。そうした行動がされた故に男も元々の予定通りに動かざるを得なかった。


「なんだ、お前ここを通るのか?」

「通るなら通行税が必要だぜ」


 回り込むようにし挟み込むような立ち位置になる男二人。前に回り込んだ男も声をかけ、これで少女は逃げ道を失う。まともな少女であれば逃げようとしても捕まえることは容易。


「………………」


 だが少女は全く男たちの声かけに反応しない。胡乱とした表情は変わらず、どこか何も考えていない、何も見ていない、もしかしたら死んでいるのではないかと思うくらいに奇異な存在に見えた。


「あー、税ってわかるか。お金だお金。ここを通るならお金を払えってことだよ」

「………………」

「金がねえなら持ち物を置いてけよ。服とかな? ああ、お前でもいいぜ。いい金で売れそうだからよ」

「………………」

「おい! 聞いてんのかクソガキ!」

「………………」

「ちっ! なんだこいつ!」

「な、なあ、ちょっとおかしくないか!? 流石に全く反応しないなんて……」

「おかしいにきまってる! 頭がイカれてんだろ! はっ、そんなんでもお金にはなるぜ。とっとと攫って売っ払うぞ!」


 そういって男は少女の体を掴み攫って行こうとした。しかし、その前に邪魔が入る。


「そこまでにしておいたら? 自分の身が大事なら手を出さないほうがいいわよ?」

「っ!? だ、誰だっ!」


 不意に声を駆けられた男二人。そのうちの少女に手を出そうとしていた男の方が早く反応した。声の方を見るとそこには妖精が一人。


「誰でもいいでしょう? わざわざお前たちに名乗る必要なんてないんだから。わざわざ私がお前たちの身の安全を配慮してあげてるのに恩知らず、愚図、薄鈍、役立たず、ゴミ、屑、ドベ!」

「なっ、なあっ!?」


 いきなりの毒吐きである。とうぜんながら……妖精とはヴィローサ。ヴィローサが男二人の凶行を止めに入ったのである。




※ヴィローサの行動は自分のためというよりは主人公のため。とはいえ彼女の行動が何になるかと言われると妖精視点で見て回った街の情報の提供くらいだろうか。それはそれで主人公は喜びそうな気もする。

※ヴィローサの感知する情報の中でも最も多いのは毒。体内の含有毒素で人間かどうかの判別もできる。精神の中に残る毒次第ではある程度その相手の生涯も把握できる。ゆえに毒である程度の生物や人物の判断ができる。

※フーマルに対し以前よりはまだ毒吐きが弱まったからって別に毒を吐かないわけではない。ヴィローサの毒吐きは赤の他人や敵対者には場合によっては以前よりきついかもしれない。なお彼女の言っている通り、実は相手のことを考えてのものでもある。騒動が起きるのも面倒だし。

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