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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
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「とんでもない魔物がいるものだ!」

「それほどでもない気がするが……」

「涼しい顔を! 主に、アリルフィーラ様に危険がが及ぶかもしれないのに余裕をもっているのはどうなんですか!」


 湖でアディリシアが馬車の車体をいろいろ改造している状況になるため出発は遅らせ暫し湖で公也たちはゆっくりしている。別にもともと急ぐ旅ではない……アンデールに戻らず旅で遊び惚けているとかこっちに飛ばされて来た際に一緒にいた相手、国の心配を解消していないとかさっさとしておけと言われるようなことがあるが、ともかく急いで何かをしなければいけないということはなかった。目的としてもう一つの未管理地域に見えている街と山へ向かうことがあるにしても、急いで何もかもしなければいけないわけではない。なのでのんびりゆっくり、アディリシアの作業を待つ形で湖の側にいた。

 そしてそんな風に見ず海の近くで待っていると、湖から魔物が姿を表した。公也が持っている知識では首長竜……いわゆる海竜と呼ばれる類のものに近い、恐らく竜種の類だと思われる魔物である。巨大で強大、水の中にいるため地上では相手をしにくい魔物でありそもそもその巨体ゆえに人間が相手をするのはなかなか厳しい面がある。この大陸の戦士、騎士、兵士などの大半の戦力では魔法道具があってもつらいところだ。

 それを公也とウィルハルトが相手している。公也は今までも色々あったし経験的にそういうことができるだろうというのは分かるが、今回に限って言えばどちらかというと相手をしているのはウィルハルトの方である。巨体の攻撃を受け耐え、弾き、相手の行動を自分に向けさせる……一応相手が攻撃しようと思えばアリルフィーラたちが今いる馬車も攻撃範囲になるため必死で引きつけている。その海竜の相手自体はそこまで問題があるようには見えていない。


「少しは手伝え! 私が相手をするには少々難がある!」

「剣で戦うのは難しいからな。魔法で戦うしかなさそうだし」

「わかっているなら!」

「素材……あまり傷つけずに」

「さっさとしろ!」

「わかったわかった」


 必死に戦っているウィルハルトからすれば相手の様子を見たり倒した後の素材回収を考慮したりする公也は悠長にしているとしか思えない。


「……首狩りが一番か」


 魔法で戦うしかなさそうと言いつつ、公也はミンディアーターを抜く。一応公也の持つミンディアーターは魔法使いの持つ杖と同じような性質を持つため剣を抜くこと自体は別に悪いことではない。ただ、公也はそのまま魔法を使うのではなく……剣を海竜へと向けて、そのまま振った。


「…………その剣は魔法道具ですか?」

「いや。結構特殊なものではあるがいわゆる魔法道具ではないな」

「ならいったい……」

「特殊な素材を用いて特殊な加工を施した、それ自体が特殊で特異な代物ってのは世の中にある。魔物素材の武器防具も程度は有れどそういったものだろう。魔法道具はそもそも魔法を仕組みに組み込んだもので、そうでなければ魔法道具じゃないと思う。仮にそれに特殊な力があったとしても」


 一般的に魔法道具と呼ばれる物は魔法を実行するための道具である。公也の知るような現代科学の様々な電気用品の類に似通ったような魔法道具などもあるが、やはり魔法道具は魔法をその仕組みの根幹としている。魔法が組み込まれていない物は魔法道具とは言えないだろう。公也のミンディアーターは振るうことで剣の一撃を伸ばしたり飛ばしたり、魔法の補助に使われたり主以外が使えば使おうとした相手を殺そうとしたり、どこかに行けば戻ってきたりとさまざまな効果があるが……これは魔法によるものではなく、魔法道具と言える代物ではない。この大陸において魔法道具以外のそういう代物がない、あるいはあっても魔法道具として認識されている可能性があるだろう。


「それより……倒したが」

「そうですね」

「回収しよう」

「……それに何の意味が?」

「魔物は素材になるからな」

「……ではお任せします。私は主の守りを優先していますので」

「……わかった」


 海竜回収にウィルハルトは関わらなかった。そもそも魔物の素材を欲しがるのは魔法道具を作る公也やアディリシアだろう。回収はそれを望む本人がやるべき、ということで特に手を貸さず、また海竜が出たこともあり他の魔物の出現の警戒に意識を向けている。







「大きいですねえ」

「そうだな」

「これをどうするつもりですか? キミヤ様であれば持ち帰ることもできるかもしれませんが、無駄に異空間に入れても中を圧迫するだけだと思いますが」

「解体すると思う。アディリシア、どこか使える素材って」

「鱗、骨、牙、そもそも竜ならどこでも割と使えます。血だって利用価値がないわけじゃないです。肉は食べればいいんじゃないですか? 内臓、目や脳などの器官は魔法道具には使えないことが多いので私はいりません」


 竜の素材はいろいろな者に使える。血ですら魔法陣を書き込むとか浴びせて染めるとかいろいろ使い道はあるし、それ以外の部位も基本的にはほとんどが使える。ただ、肉や内臓、目や脳などの部位は素材としては使いづらい。少なくとも魔法道具の素材には使いづらく、薬などの類を作るならば利用価値はあるかもしれないがアディリシアには必余のないものだ。また保存の問題もある。なので肉は要らないということらしい。


「肉は……どうする?」

「食料は足りていますので必須とはいませんが。肉ばかりあっても困ります」

「でも食べてみたくはありますねー。竜の肉……あ、でも一般的な竜の肉じゃないですか?」

「竜だから特別肉が美味しいという話はないですけど……」

「実際食べてみればわかるとは思うが……肉は肉だし、多少は残して食材にするか」


 素材は回収し肉を残す、肉はそれほど多くは残さず多少食材として使える量を。そもそも相手が大きいためそんな感じになる。流石に便利とはいえ<暴食>を解体に使うのは良くない、見せるのがあまり好ましくないため魔法と剣を駆使しながら公也が解体を行う……その間に魔物が血の臭いで近寄ってくるとか、湖の海竜の魔物が倒された影響で湖の状況が変化し得るとか、いろいろあるが……とりあえず現状は公也たちが降りかかる火の粉を払ったということで始末がついている。今後この近辺がどうなるかはわからないところだが。





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