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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
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 ずっと空の上、というわけにもいかない。そもそも足場を魔法で作っているのだから当然ずっとその場に居続けるのは魔力の消費の問題もあり厳しい。当然地上に降りる必要がある。しかし未管理地域は一帯が森……当然樹々が生えている場所には下りるのは難しい。一応全域が完全に鬱蒼とした樹々の森というわけではなく、多少何もない場所もあるがあまり下りるのには向かないだろう。また下りて休んだ後はまた空を進む。ならば戻りやすい方がいい。

 と、別に一時的に降りる場所を探したりはしない。そもそもの目的地が広い空間、大きな休憩できる地点だったのだから。公也たちはもともと遠くから……公也が空に上がって遠くを見た時にすでに発見していた湖がある。その湖がアディリシアの家から次の目的地だ。空の上は障害物もなく移動しやすい、まっすぐの移動が容易であるため街から街へ森を切り開きながら進むよりははるかに進みやすくあっさりとそこまでたどり着いた。


「とりあえず今日はここで休息だな」

「大きな湖ですね」

「川がなかったですけどどうやって湖ができてるんでしょう?」

「地下水などでしょう。それにしてもおかしな感じはしますが……」

「この大陸に大きな河川はないし、そもそも湖に川が繋がっている気配もない、他所に水の流れが通じている感じもしないな。その割にこの湖は水の濁りがないように見えるし、そもそもどうやってこれだけの水を湛えているのやら。雨が頻繁に振ってるわけでもないんだろう?」

「恐らくは。だが……そうなると川もなしにどこから水が。地下水と言っても限度があるだろう……」


 湖の謎は大きい。しかし別段重要なことでもない。彼らは湖のことを調べに来たわけではなくあくまで休みに来ただけである。


「まあ湖に関してはどうでもいいです。水も豊富で飲み水には困らない……湖の水なので綺麗とは言いづらいですがキミヤ様であれば魔法でどうにもなりますし」

「アンデールだと水は衛生面でも内容物にも問題はないからな……普段用の飲み水をわざわざ作らせるのもどうかと思うんだが」

「安全への配慮は必要かと」

「そうですね。主の飲食物に関してあらゆる面で注意するのは当然でしょう」

「……しかし水の問題がないからと言って安全面だとなあ」

「水飲み場って野生の魔物や獣って多いですしね」


 湖の豊富な水は飲み水に困らないという点ではいい。もっとも公也の魔法であれば水の確保は容易であるし、綺麗な水を異空間に確保している。なので別に魔法で用意しなくてもいいが確保している食料飲み物は無意味に消費したくないしということでその場その場で準備するようになっている。さて、そんな話はともかく。水場というのは生物の集まる場所。生物は水がなければ生存できない。当然森の生物はこの湖を水分確保に使うわけである。川もないのだからそれこそ本当にこの湖の水は生命源として最重要になるだろう。

 しかし一方であっさり公也たちが降りてこられたという点で湖の水は重要な生存物資ではあるがあまり積極的に湖に近づきたくはない理由がある、周りに生物が集まらない理由があるように思える。そもそもこの大陸における未管理地域は地脈の巡る川から漏れ出た地下水からの地脈の魔力による影響でできたものである。仮に湖が地下水から流れた水によって作られた物であれば当然地脈から流れている力が流れ込んでいる……川や海ほどではない、しかしこの大陸において森を作り得るような大地の力ともなり得るエネルギーが流れ着いた先に作られる生態系の水場、そこに当然魔物が発生し得る……それも数を発生するならそこまで恐ろしくはないのだが……そもそも未管理地域が未管理地域になる要因として、川や海の魔物の影響などもある。それらがこの湖に潜んでいないとも限らないし、もしかしたら湖自体が魔物が作り出したものである可能性もある。まあ流石にそこまで行くと湖を利用しづらいだろうという点で可能性としては低いだろう。ただ、危険な何かがいる可能性はあるだろうが。


「それにしても。下りてすぐに……いえ、ずっと閉じこもっているのはどうなんでしょう」

「馬車の車体の調整らしい。まあ……空を進んでいていろいろ問題はあったからな」

「あちらの車体が追加されて結構揺れとか変わりましたよね……」


 空を進んでいる中、馬車の感覚は大分違っていた様子である。そもそも後ろに乗っていたアディリシア、外に出ていた公也とウィルハルトはそのあたりわからないがもともと馬車に乗っていた三人は結構違いは何となく感じていた。また馬車の動きの変化、追加された車体の動き自体も結構厄介で色々と追加された方に乗っていたアディリシア自身も不便や問題を感じていたのだろう。


「攻撃系防御系の問題もあるし……これから先に進むなら多少問題は解決した方がこちらとしては楽だし、作業してもらっていてもいいと思う」

「……そもそもどこに向かうのですか? 広い範囲大分森です。あまり行くところもないでしょう」

「遠くに街が見える……そこに行きたい。っていうか未管理地域凄く広い気がするんだが大丈夫なのか……?」

「今まで特に大きな問題は起きていません。もちろん注意するところはあります。しかし……私も空から遠くまで見て、かなり放置するのは危ないのかと思う程度には未管理地域は広いですね」


 未管理地域は想像以上に広い。この大陸の四つの島、その一つの島を治める国に存在する場所であるのに……空を通しても端から端に移動するのに数日はかかるだろう程度には広い。その中に森の外に近い範囲にある街はまだしも、森の奥に存在する街は流石に違和感がある。公也としてはそこに興味がある感じだ。


「まあ、流石に全部行くだけの余裕はないし、何かあるにしてもどこまで行くのは危険が大きいから、今わかっているもう一つの街までだな。その後は予定通り山の方だ」

「山……ですか?」

「ああ。あそこに見える巨大な、頂上に大きな雲の塊がかかっている山だ」

「あそこに……しかしあそこは……いえ、よくは知りませんがあまり手を出すのは難しい場所だと」

「ふむ……それがなぜかは?」

「そう伝え聞いているだけです。実際行きづらい、登るのも大変な標高です。資源も見える限り……いえ、あそこは魔物も平野に比べ多い。森なども微妙で……何でしょうね、登ったり手を出したりするメリットが薄い感じでしょうか」


 山の方に向かう理由は特に多くない。目的地として山はあまり欲しいと思えるようなもの、興味を惹くようなものがない。ただ、やはりこの大陸にすむものでも慣れはあるとはいえ、山の頂上の雲は気にかかるところではあるだろう。もっとも、だからと言って調査を目的に向かったりはしないが。




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