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「空の上は格好の狩場、狙い場ですね」
「そうだな」
「見通しが良く遮蔽物もない。空を飛べる生き物、魔物にとってはとても狙いやすい」
「その総数は多くない。まあその分空を飛べる相手は厄介な輩が多いが。でも対処できるから問題はないな」
「確かに対処はできますが……しかし普通に進めば襲われることのない相手。やはり森の方を……進むのは難事ですか」
「だからこっちを通ってる……実際移動は楽になってる」
「確かに。ですが森の中よりも魔物の危険は高い。正直言って面倒なルートかと」
現在公也たちは森の上空を進んでいる。馬車の関係上森という樹々が邪魔になるルートを通れないため半ば強行に通るため公也が魔法を使い上空に道を作り進んでいるわけである。このルートの利点はやはり樹々を気にする必要がないため伐採の手間がかからず移動が速いという点。もっとも速いと言っても足場を作るための手間と足場の存在を認識し進馬の問題もあるため速いと言ってもそこまで順調に速いわけでない。また利点として森の魔物に襲われないということがあるが、確かに地に足をつけた森を住処とする多くの魔物には襲われなくなったが代わりに空を飛ぶ鳥や虫の魔物、一部の獣に襲われるようになった。
空を飛んでいる相手の領域に侵入している公也たちは明確に敵として認知されている、あるいは遮蔽物がないゆえに見えやすく狙いやすい、まとも大きい公也たちはねらい目である……理由はいろいろ有れど、ともかく襲いやすい存在であるがゆえに襲ってきている。もちろん相手は空を飛んでいる。公也たちは空を飛んでいるわけではなく空中の足場に立っている……つまりは地上にいる時と大きく変わらない状況であるため、空から襲ってくる相手、場合によっては下からも襲ってくる可能性のある魔物や獣を相手にするのはなかなか面倒くさいところがあるだろう。危険という点でも相手の攻撃の自由自在さなど面倒なところがある。
「しかしよくやるな。空を飛ぶ相手に」
「この程度何でもありません」
「いや……剣で良く落とせるな」
「主を守るためならこの程度できなければ困ります」
「割とでたらめだな……」
空を飛ぶ相手に対し自由に空中で活動できない人間である公也やウィルハルトは当然まともに空中の相手をするのは厳しい。しかし馬車の防衛はしなければならずなかなか大変……なはずなのだが。ウィルハルトはそんな空中からの相手に対して特に苦労して戦っている様子はない。剣を振るいなぜか空から襲ってくる相手を叩き落としている。普通なら簡単にそんなことはできない。魔法使いや魔法道具やそういうのならまあわからなくもないが……ウィルハルトは騎士だ。技でもなく、なぜか剣を振るい空を飛ぶ相手を叩き落としている。
「それはそちらも同じではないですか? あなたも剣で斬り飛ばしている。あなたができているのに私ができていないのもおかしな話だ」
「俺の場合は……まあ、普通の人間よりははるかに特殊だから。武器も特別だし、魔法の延長と考えればおかしくはないと思うけど」
公也もウィルハルトと同じようなことはできる。しかし公也と比べるのも妙な話。<暴食>の力を持ち膨大な力を有する公也はある種の神や超越した存在に近い。もちろん未だ人間の延長ではあるが、それでも一般的な人間とは隔絶した強さを持っている。そして魔法もあるし、公也の場合はミンディアーターという武器もある。ミンディアーターは武器として極めて特殊であるためその力を使えば空を飛ぶ相手に斬撃を延長して斬りつけるみたいなこともできるだろう。
そもそも比べることがおかしい相手にウィルハルトは限定的な部分ではあるが近づいている、というのはなかなかな強さである。まあそれはあくまで剣を使うものとしては、という話ではある。魔法使いでもないただの騎士であるウィルハルトはあくまで普通に戦う者としての強さしか有していない。仕え騎士で剣で魔法すら切れるだろう実力を持っていたとしても、空を飛ぶ相手を剣で叩き落せるようなとんでもない剣の冴えを持っていたとしても。公也みたいな大規模な魔法やメルシーネのような広範囲を焼撃するような火炎もない。真っ当に斬る、剣で戦う、その程度のもの。まあそれでも一般から見ればだいぶ異質と見るべきだろう。
「主を守らなければいけません。この程度できなくては」
「……そこまでして真剣に守らなくてもいいと思うけどな」
「あなたはアリルフィーラ様のことを守らずともいいと?」
「そういう意味じゃない。魔物の攻撃はそこまで頻度が多いわけではないし、そもそも魔法道具による防護もある。追加の馬車の車体の方が近づく敵に対して自動攻撃をしているから俺やお前が無理に守る必要はないと思う」
公也たちがわざわざ馬車の外に出て空の道を歩き、魔物や獣から馬車を守っているがそれは決して必要なものではない。ないよりはいいが馬車の方の防御の魔法道具やアディリシアの作った新車体の方が持つ攻撃、危機対応の魔法道具の効果などがあるためそこまでしなくてもいい。しかしそんなものがあってもウィルハルトは主の守りのために行動する。そもそも攻撃させないことが彼にとっては重要だ。より確実な安全を。
「それでも守るために行動するべきでしょう」
「……まあそのあたりのことは俺から言えることじゃないし。そっちの好きにすればいい。別に悪いことをしているわけでもないし」
特に何を言うでもなく、二人はそれなりに来る空中の敵を相手にしながら進む。




