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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
1552/1638

9





「そういうことで拾ってきたアディリシアだ」

「アディリシアです。魔石さえもらえれば割と魔法道具作りを含め何でもやるのでよろしくお願いします」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


 公也がアディリシアを紹介して還ってきたのは無言である。まあいきなり女性を連れてきて紹介されれば驚くだろう。ただ、その反応はそれぞれで違う。むっとした感じのフィリアとウィルハルトにぽかんとした感じのアリルフィーラとシーヴェ。この二つの反応である。


「何故奥方と一緒に旅をしているのに他所の別の女性を連れてきているのですか。流石に人としてそれはどうかと」

「……そこまで言われるほどか?」

「言われても……まあ、仕方がないかと。私もアリルフィーラ様との旅の途中にいきなり人を連れてくる……それも女性を連れてくるのは行動としてどうかと思います。もっともそれに関してはもともと二人の旅というわけでもなく、また彼を仲間に引き入れている事実もありますからアリルフィーラ様との二人旅に余計なものを、というのは今更です。しかし女性を連れてくるのは正直どうかと思います……今更ではありますが」


 フィリアとウィルハルトの意見は妻である女性との旅の途中に別の女性と仲良くなりそれを仲間として入れる、連れて行くことを選んだことが良くないというものである。言われて然るべしの内容である……が、そもそも公也がそういう誰かに惚れたとかそういうものがないのはフィリアは知っているし、もともとアリルフィーラとの旅に自分とシーヴェがついてきているし、シーヴェに関してはアリルフィーラが旅の途中に公也と二人きりにするなどの応援をしているし、途中でウィルハルトが旅の同行者になったりともはや二人旅、別に新婚ではないが夫妻との旅行という形としては大分崩れているのでそこに関してうだうだ言うのは今更とは思っている。

 しかしやっぱり女性を連れてきたことに対しては……妻もいる状況で連れてくるのは流石に妻、つまりはアリルフィーラに対して失礼というか酷い扱い、対応なのではないかと思わなくもないだろう。

 一方でその本来なら自分から文句を言うべきアリルフィーラの方はシーヴェと同じで唐突な公也の言葉、紹介に驚いた感じである。あくまでいきなりだから驚いただけで公也が女性を連れてきたこと自体にはそこまで大した反応を見せていない。アリルフィーラは元々そういう公也の唐突に誰か連れてくるような行動に慣れているというか、大体いつも通りだなと思っている。シーヴェは誰だろう、程度の考えだ。別段女性であるからと公也との関係に疑いを持ったりはしていない。


「アディリシアさん、ですね。えっと、公也様、拾ってきたと言われましたけどどういうことでしょう?」

「拾ってきたは流石に大雑把か。旅に連れて行くつもり……というか、旅どころかたぶん俺に、アンデールまでついてくるつもりだ」

「……どういうことですか? 別に人を連れて帰るというのは……まあ、わたしみたいなケースもありますけど。なんでその人はついてくるんですか?」

「本人が言っているが魔石目当てだ」

「……魔石」

「魔石ですか」

「魔石を……作れるのがバレたと?」

「いや。俺が教えた」

「何故教えたんですか……? 普通はそんなことしない……」

「教えることのデメリット、問題ならここだとそういうことで問題にはならないと思ったからだな。話をするのに魔石で釣って、色々と有益な話をしたからたくさん渡そうとしたら魔石をたくさんに作れる俺が欲しいとか言ってきたんで断ったらじゃあついてくるって」

「………………」

「………………」


 眉間に皺を寄せて頭が痛いというかのようにフィリアとウィルハルトは額に手を置く。内容的には結構ぶっ飛んでいるというか、真っ当な考え方をしているならばそうはならないだろと言いたくなるようなものである。公也が欲しいと言ってきたということや、それを断ったらついてくる……なんというかかなりアクティブな行動、考えである。もしかしたら公也に対して一目惚れか何か好意を持つようなことでもあったのでは、と思いたくなるほどである。

 しかし実際には公也が行った通り、純粋に魔石目当て……言い方が悪くなるが金蔓として貰うだけ貰っていろいろ自分の趣味ともいえる魔法道具関連の作成や実験や諸々に使いたいという実に欲望に忠実なもの。それ以外の公也に対する恋愛的好意などは一切ない。一応好意はあるが、それは魔法使いとして、魔法道具を作る物として、大量の魔石の持ち主として……彼女の感情に恋愛的なあれこれは基本的にない。これからそういうものを持ち得るかどうかすら怪しいくらいである。


「つまり魔石目当てですか。本当にそんな女性を連れて行くと?」

「魔法道具を作れる。それも空を飛ぶような物も作れるし、家の中にいっぱいに置かれるほどの沢山の魔法道具も作っている。また彼女の家は一人暮らしみたいでその一人暮らしでも問題なくこの森の中で過ごしていられるような設備があった。それも自作らしい。それらの魔法道具作りの技術は無為にするにはちょっともったいないと思う」

「もったいないとかそういう問題でもないと思いますが……」

「その通りです。安全面の問題や主の心情への影響などを気にするべきでしょう」

「まあ、確かに彼女が安全かはわからないけどな。だからどうするかって訊ねるつもりで連れて来たんだが……」


 公也の行動に関しても、女性自身に対しても少々不満や反対の感情を見せるフィリアとウィルハルト。従者からすれば主を蔑ろにする行為だし安全的にも魔法道具作りのできる人物は魔法が仕えるという点で危険もある。そもそもどこの誰とも知れない相手と同行するのはどうなのか、そう思うところだ。しかしこれはウィルハルトはどうこう言えるものでもない。ウィルハルトだけはむしろどうこう言われる側、お前が言うなと言われるものだろう。


「魔法道具作りができるのならアンデールに来てくれるのはありがたいかもしれませんね」

「目的はあんまり好ましくはないかもしれませんけど……わたしは別に何も言えないかな……?」


 アリルフィーラはアディリシアに利用価値、魔法道具作りという他にはない能力があるためいいかもしれないと思っている。シーヴェは自分では決め辛く、アリルフィーラや公也がいいならいいやと思っており、また自分のように何かを見出され連れて行く、ついて行く存在が他にいるのは似たような仲間と感じるため悪くない、仲良くできるかもという想いはある。

 そして基本的にこういう流れだとアリルフィーラと公也に強い決定権があるため、二人が別に問題ない、連れて行ってもいいと思っているのであれば、それはそのまま通ってしまう。


「…………アリルフィーラ様が賛同されるのなら仕方がありません」

「安全面に配慮……魔法道具を作れるなら何かいい魔法道具を作り旅を快適にしてもらうとか……女性なので同行は問題ないですが、生活に必要な用品が……」


 ゆえに反対の感情が強い二人も受け入れざるを得ない。ただ、それでもあっさり連れて行くとは言えず、旅に出るなら必要な物資やら何やらいろいろ考えなければいけない。ただ、賛同……つまりはアディリシアがついて行くということにはなる。また旅の同行者が増える形となった。



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