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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十八章 未管理地域
1550/1638

7







「あなたがこの大陸出身ではないということで、あなたの話し方が普通の話し方……魔法的な干渉を受けないときの話し方であるとより確信に近い事実がわかります。魔法的な干渉を無効化してこうして話せる以上はやはり魔法的な干渉によって話し方が変わっているのでしょう」

「魔法的干渉か……何によってそれが為されているかはわかっているのか?」

「いえ。ですがこの大陸全土に干渉している以上何らかの大きな力が働いているとは思います」

「……ふむ」


 この大陸の地脈の流れを知っている公也はその原因はもしかしたら地脈の向かう先にあるのかもしれない、と考える。この大陸の地脈の流れは大陸の周りを囲むように海を巡り、川を通り山へと向かっている。概ね公也が川の近くに行くなり海の周りを見るなりして推定したその地脈の流れだが、その山へと向かう地脈の先は巨大な山の頂上を覆い隠すような大きな雲の中である。ずっと存在し覆い隠すその雲はどう考えても怪しく、何かあるのではないか……御伽噺や創作でよくある話でそういうことがあるため考えられることだろう。

 ましてや地脈の人為的な操作が疑われる現状、大陸全土が対象によるような魔法的干渉が存在するという事実があるならばその地脈の流れで集められた力がそういう干渉の目的に使われている可能性がある……そう考えてもおかしくはないだろう。もっとも、それに何の意味があるのか、どういう目的で行っているのかまでは分からない。民と貴族の言語の違いを分けたとして果たしてどれほどの意味があるものか。まあそれに何らかの意味があるから行われるのだろう。


「しかしそれを俺が受けない理由がわからないな」

「対象指定の問題では? 血筋で変わるのであれば血縁による変化です。この大陸にいる人間の血筋、子供であるという要因……それらが原因なのかも。もっともそれで言うと貴族が何故対象にならないのか、貴族の血を引いた子孫も市井の民と交わればいずれは影響を受けるようになってしまうのはなぜかとかわからない部分もあります。ただ、この地に住まうものが対象であることは間違いないでしょう。だから貴方のようにこの大陸の者ではない存在は対象にならないのかと」

「なんというか……何が目的なんだろうな」

「さあ。私ならそれができたからやってみた、ということもあるかなと思いますから別に理由は重要ではないかと思います」

「そうか。しかし面白い話だな」


 公也としては大分興味を惹く話である。いずれは向かうだろう山の上、そこにあるかもしれない不思議の一端、それに関しての情報が得られた。そういう点で彼女との対話は大きく意味がある。


「魔石で釣って話を、と思ってたが……一つくらいじゃ足りないくらいいろいろ教えてくれるな」

「二つでもいいんですよ」

「いや、もっと渡すが」

「え? いえ、流石にそこまで過分な要求はしません。あればあるに越したことはないしこちらとしてはいいことですが、魔石は誰しもが必要とする品物です。旅人でしょう? こんな場所では魔石の確保も簡単では……いえ、まずまともに確保するのは不可能です。街にいる人も決して誰も提供してくることはないでしょう。そんな品物を報酬という形でも受け取るのは……少数ならともかく沢山は」

「いや、そこは問題ない。作れるからな」


 流石の魔法道具作りが人生というかそれ以外のことに興味がないような変人な女性だったとしても、流石に公也があっさり魔石を渡そうとしてきたことに対してはそこまでは流石にと反応してくる。変人で会っても良識はあるらしい。この大陸において魔石は重要な資源、必需品、魔法道具に絶対必要な品。それゆえに高値で売られるし、取り扱いも特殊だし、またこういった僻地では魔石づくりが重要な仕事としてかなり束縛が強い。一般的に旅をする人間が魔石を持っていても多くても十を超えるくらいだろう。そんなところから一個二個失われるだけでも大きな問題なのにそれを更に渡してくるというのは普通なら考えられない。してくると言ってくるならむしろ相手の心配をするくらいである。

 しかしそれは魔法道具を使う人物だったり、魔石の確保に手間……購入などしなければいけない人物である。この森の街ではない場所に住む彼女が魔石の確保に困っていない……数の問題はあるが確保自体には問題が起きていないのと同じ、自分で魔石を作れる人物に関してはその限りではない。通常旅でも毎日いくつも魔石が消費される、というほどでもないだろう。一日一個でも作れればそれだけで旅は問題がない。二個も作れれば普通の旅人なら困ることはない、そんな感じである。


「作れる、ですか。まあ魔法道具作りに興味を持っている、自分で作ったというのであれば魔石が作れてもおかしくはありません。しかし他の大陸の人なのに魔石が作れるのでしょうか? 教えてもらうのも簡単ではないはず……」

「まあそのあたりの事情は聞かないでくれ」

「はい。それなら二つ三つ……いえ、二つ三つ作るのもなかなか大変なはずですが。でも一日くらいなら問題はないと思いますし……あれ、でも」

「とりあえず五つほど。まだ欲しいならもう少し作るが」

「………………………………ふぁいっ!?」


 いきなりその場で五つ用意した公也に驚く女性。彼女でも最大三つ、魔力消費の関係上二つが通常であることを考えれば、あっさり五つ用意しまだ余裕がある、複数ほかにもまだ作れることを考えると……ありえない凄さである。


「あの」

「ん?」

「結婚して下さい」

「……え? いや、待て」


 いきなりの大胆な告白である。つい先日も似たようなことが公也ではない誰かに会った気もする。言った後に自分の発言に気づいたのか、あわあわと女性は手を振り始める。


「あ、あわわ、すみません!」

「ああ、別に……流石に本気だとは思ってないし」

「その、いえ、あの、私のために魔石を一生作ってください!」

「………………」


 言い回しだけみれば公也の知る限り告白に近い物、と考えられる発言がまた飛び出てくる。公也の知るそれは毎朝味噌汁を作ってくれとかそういうニュアンスのものだがそれに近い……しかし、彼女の性質を考えればどう考えてもこの発言はそのままの意味、そのままの内容を目的としているものである。いきなりそんなことを言ってくるのは相当失礼である……まあ、もともと彼女は変人という話だし、興味も魔法道具作りにその全霊が向けられている。それゆえに魔石の確保ができるかもしれない、困ることがないかもしれないということで公也……の魔石づくりの力を求めた、欲しいというのはわからなくもないことかもしれない。もっとも失礼は失礼である。



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