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出てきた人物は小さな感じのある女性である。幼くはない。身長は小さいが、体つきの印象などを見る限りではまず子供ではない。桃色の髪をし後ろで丸く纏めているため上方の印象と慎重から若干子供のように見えなくはない……ただ、やはり見た目の印象に比べ体つきがしっかりとしている、雰囲気や気配でなんとなく子供ではない、という感じだろう。
特に一番子供っぽさを無くしているのはその服装だ。なんというか服装がごつい、重そう、堅そう、そんなイメージのものだ。金属を纏っているような服装なのである。そんな服装をしている関係上、体もそこそこしっかりしているというか。小さいながらも若干筋肉質……というのを少し露出している腕の部分や足の部分に見ることができるだろう。まあはっきりわかるほどではないだろうが。
「どなたですか?」
「ああ……えっと、聞かれると困るな。旅人なんだが」
「旅人さん? なんでこんなところに?」
「今は少し近くの街に滞在させてもらっている。そこで話を聞いてここに魔法道具を作っている人物がいる、みたいな話を聞いて興味を持ったというか……」
「それはまた変な方ですね。はい、確かに作ってますよ? でも別に魔法道具を作っている人は珍しくないと思いますけど」
女性の言う通り魔法道具を作っている人物自体は珍しいものでもないだろう。ただ、こんな僻地で魔法道具を作っているような人物は珍しい。しかしそんな場所で過ごしている相手から変な方と言われるのもなかなか酷い話である。果たしてどちらの方が変なのか……両方変なのは間違いない。
「よくこんなところに来ましたね。ここ森の中で入ってくるの大変だったと……あっ!? 森の一部がなくなってますね!? なんでですか!?」
「ああ、俺がここまで道を作ってきたんだが……」
「凄いですね。そんなことするの面倒くさいので今まで無視してきましたけど。道ができたなら街へと行きやすくなるかもしれません。用事がないので行くことはないですが」
「そうなのか……」
彼女は森を切り開くこともできる。しかし面倒なのでやらなかった……街へ行けるようになっても用事がなければ行かない、まあそもそも交流もろくにないしこんなところでずっと過ごしているならそうもなるだろう。
「それで、何の用事ですか?」
「いや、特に用事自体はなかったんだが……」
「そうなんですか。私は魔法道具を作るので忙しいのでこれで」
「ああ、えっと、空を飛んでいたのは君でいいのか?」
「え? あ、もしかしてみてました? ちょっと恥ずかしいですね。まだまだ全然うまく制御できないし長くも使えないですし。出来の悪いものを見られるのは嫌ですねー」
公也が見た空を飛んでいる何かはどうやら彼女で正しいらしい。しかし空を飛ぶ魔法道具は作ってもまだ未完成らしく、それを使って飛んでいるのを見られたのは恥ずかしいらしい。そのあたりの感覚がよくわからないが、ある意味では変わりものらしい、もしくは職人気質の方か。
「……いろいろ話を聞いてもいいか? 魔法道具作りには興味があるんだが」
「話ですか。そういうことする時間が……」
「魔石を提供してもいい」
「是非お話させてください」
「…………」
魔石を提供すると言った途端、あっさり態度を変える女性。物につられる……というのも少し違い、彼女みたいな魔法道具を作ったり使う人間にとっては魔石の確保が死活問題であるがゆえの反応である。まあ物につられているわけであるが、魔石でなければ絶対に反応することはなかっただろう。なのでつられるといっても少し話が違う感じである。まあそんな話はさておき、家の中に招かれる公也であった。
「凄いな」
「何がです?」
「魔法道具がたくさんあることだな」
「別にそんな変わった話じゃないです。作るのが難しいわけでもないですし、一度作っちゃえばずっと残ります。解体したりして再利用しなければそのままですし。使わないからスペースの無駄遣いの方が多いくらいですから」
家の中に入って公也が見たのは色々な魔法道具が置かれている光景である。それは設置され使われているような物もあれば重ねて積まれて使われていなさそうなどうどもいい扱いを受けている物もある。その中には誇りが積もっているものもあり長い間放置されているのがはっきりしている物もある。
「片づけないのか? 処分したりとか」
「もったいないですし。せっかく作ったのを無くしちゃうのも嫌ですから」
「だがずっと積んでいても無駄じゃないか?」
「何かに使うかもしれないですし。気が向けば改造しますよ」
「……それはたぶん絶対しない感じだろうなあ」
片づけるのが下手らしい。もしくは単純にそういう作業を嫌うか、または持ち物の処分が苦手か。職人魂で作った物を大事にしすぎるとかそいう方面かもしれない。何にしても魔法道具がたくさん存在して若干狭い。
「改造……この魔法道具を作ったのは?」
「全部私です。この家も私が作りました」
「……建築できるのか」
「魔法道具なので。全部何もかも魔法道具ですよ。魔法道具なら私でも作れますから」
「しかし魔法道具がこれだけあっても使えないんじゃないか?」
「そうなんです! いろいろな魔法道具使いたいですけど、魔石がないんですよ! 私が作れても一日二個か三個くらいで! そんな魔石の量しかないからなにも全然でき兄んです! 空を飛んで魔法道具の仕上がり確認だって数日に一回飛ぶだけでダメなんですよ!? 他の魔法道具だって起動するようにしなければいけないし! 維持するだけで精いっぱいで精一杯で!」
「そ、そうか」
勢いが凄い。実際魔法道具を作る人物は魔法を使わなければいけないし魔石も使うしで魔力消費は大きく、毎日魔石づくりをしても作った魔石はすぐに必需品の魔法道具に回され消費される。特にこの家は他とは隔絶した場所にある関係上守りが全部自分で何とかしなければならず、街とのかかわりもないため魔石は自分で確保しなければならない。個人で確保するのはなかなか大変なものである。
「魔石の確保のために街に行ったりはしないのか?」
「街の魔石は街のために使われます。個人で使うことはできません。魔法道具作りも街のためです。私が作りたい魔法道具は使えません。魔石作れって言われるでしょう。私みたいな魔法も使える魔石も作れる見たな人材は絶対に街に貢献する形で働かなきゃいけません。そんなの嫌です。魔法道具作りたいんです」
「……世知辛いな」
もともとこの未管理地域にいる住人は自分から目的を持って入ったか、あるいは魔法道具や魔石づくりが嫌で逃げて来た人物である。しかしこの環境の問題もあり、そこでも魔法道具作りや魔石づくりを必要とされる。世知辛い。ただ、ある程度の自由を持っていられるという点ではいいところもある。もっともその分場所の危険がとんでもないわけだが。やはり世知辛い。




