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森が広がる街の側、よく見れば見える隠されている……というよりは使われずに自然の中に消えている道を追い、その方向に公也は樹々を切り開く。馬車を通す必要はないが、先に誰かいるのであれば道があった方が都合がいだろうしわざわざ森を進むのも公也としては面倒なところがある。樹々を切り開く方が普通は面倒くさいがそこは公也が魔法が得意である、豊富な魔力があり魔法が自由に使えるからこその強みである。
アリルフィーラたちはウィルハルトも含め街の方で待機……森の奥は仮に道を切り開いても安全ではないし先にいる人物が安全かどうかわからないため、来ないほうがいいという考えである。もっとも街の方も決して安全だと断言できるわけでもない。そこに住む人たちが果たしてどこまで友好的かわからないし、街自体が狭く森を切り開いた影響で魔物が活発化、切り開いた場所の近くにいるアリルフィーラたちを攻撃する可能性がある。なので安全ではない可能性がある。まあ、魔法で作った簡素なものとはいえ建物があるし、魔法道具による防御もある。仕え騎士として守りに強いウィルハルトもいるし、そこまで心配する必要はないだろう。多少の事なら公也も間に合わせることくらいは出来そうだし。
「凄い場所だな。本当にこの先に人がいるのか?」
道を切り開きながらであるため結構時間がかかるが、問題なく進んでいる。ただそれでもやはり結構時間がかかる……切り開くから当然だが、凄く手間がかかる。手間がかかるというのは時間がかかるということ……一切人の手が入っていない、自然のまま放置されている状況、本当にその先に人がいるのか、そう思うくらいに人が移動している様子がないという話である。話に聞いてはいるがはたして人がいるのか、いたとしても今も生きているのか、そこが不安になるところである。
ただ、公也は先に話をしているため知っているが空を飛んでいる人物がこの先にいる人物かもしれないという情報を得ている。空を飛べるのであれば森の中を通る必要はないため道が全く使われていない状況にあるというのはわからなくもない。空は空で危険があるが、森の中を進むよりは進みやすいのではないか。
「さて……ん?」
進んでいると何かを通ったような感覚を公也は受けた。少しだけ空気が変わるような、何らかの境を通ったような……より詳しく言うのであれば、魔法的な干渉を受けたような感覚を受けている。
「魔法? いや、そんな感じはしなかった……常時発動するタイプならいわゆる結界か? 魔法道具の中にはそういうのもあるだろうし、魔法でもそういうことはできる。魔石の関係を考えればこの大陸では魔法道具で実現しているんだろう。地脈利用でそういったこともできるがこの大陸は地脈も大分特殊みたいだし……この森の中だと地脈関連はちょっと話が違ってくるか? いや、それでも利用できるほどの強さではない可能性が……まあ、何にしても結界かそういう類のものが使われているっぽいか。流石にどういうものかまではわからないが」
公也は魔法に関してそこまで詳しくわかるような能力をもちわせていない。自分で使う分には問題ないが他人が使っているのを見極められるほどの才、能力はない。そのあたりのことができるのは知る限りでは夢見花のみ、彼女がいれば何かわかったかもしれないが流石に公也だけしか来ていないためどんな結界なのか、まではわからない。もっとも結界であればそこまで危険性を気にする必要はないだろう。基本的に結界は領域的なものであり外と内を分かつ境の役目が大きい。中にいる者を識別したりするものもあったりするが、直接的な干渉を起こすようなことはあまりない……もちろんそういうこともあり得るが、それでも今公也に対して大きな干渉がない以上何もしなければ安全かと思われる。結界の主が何かしてくる可能性もあるが……公也であれば多少何かあったところで大きな問題はない。死んでも死なないため何かしてくるなら敵認定し攻撃するだけだろう。
「とりあえず……行ってみるか。結界があるっていうことは人がいるのは間違いないか。魔力や魔石がないと維持できないし。この結界は……敵意の感知とかか? あるいは危険な存在の排除、進入禁止……まあこれが危険の回避に使われている可能性が高いって感じかな」
結界の存在はここの中にいる人物の生存を意味する。魔石や魔力により結界が維持されている以上継続してそれらの供給が行われているということ。なので会いに行くことは出来そうな気がする。まあそれが安全かどうかまでは不明だが。
「ここか。ここだけ周りから少し整理されている……というか家があるしな。なんか要塞みたいなのが……」
公也が訪れた道の先に、小ぢんまりとした木々がない空間が存在する。そしてそこには要塞のような建物が存在している。もちろんこう、がつんと大きな圧迫感のあるような実際の要塞ではなく、あくまで小さな家に要塞のような攻撃や防御の装備を配備されているといった感じである。仮に魔物や獣が来て家を攻撃しようと襲い掛かってきたならばその装備が襲ってきた魔物や獣を排除するだろうと推測できる。まあ見ただけでその装備がどういう効果を持っているのか、どれほどの威力を持っているかはわからない。実際どれ程のものかは見てみないと判断できないだろう。
「……近づいても大丈夫か。近づいただけでどうにかなるわけではないみたいだな。人の気配……は感じられそうにないな。あんなだし。とりあえず……ノック、挨拶……あ、入り口あそこか。声をかけるのが一番か?」
家を見て恐らく入口らしき場所が存在を確認した公也はそちらの方へと進む。この世界の家には当然だがチャイムのようなものはついていない。貴族の屋敷などではドアノッカーのようなものがあったりするがこの地に存在するこの要塞な家にはそんなものはついていない。そもそも人が来ることを想定しているとは思えない。なのでそういう中にいる人物に来客を伝えるような設備がない。あるいは魔法道具でそういう設備を作れる可能性はある。それがあったとすればもうわかっていてもおかしくはないが。
「すいませーん。誰かいますかー」
「はーい!」
声をかけると中から返事がした。どうやら一応人はいるようだ。その人物が中から出てきた。




