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「流石に魔物が出てくるな」
「明らかに多いです。大した強さではありませんが……」
「海や川に比べれば全然だろうな」
「比べることがおかしいです。近づくだけでも魔物に襲われ危険だというのに……」
「下手に近づくとでかいのが出てくるからな」
「……確かにそういう記録はありますが。なぜ知って……まさか」
「ちゃんと倒したから問題はない。まあ、他のところに迷惑をかける危険があるから川も海もあまり近づくつもりはないから」
「当然です」
銛の中を進むと獣や魔物との遭遇が多い。多少森を切り開く中に出会う場面も多かったが、しかしそれだけで済まず今も馬車で進む中よく出てきている。魔物も馬車の音とかに敏感だとか、あるいは公也が切り開く場合は逆に近づくのが危険すぎるゆえに寄ってこなかったか。森を切り開いた空間に安全確認や状況確認をしてから魔物や獣が出てくるようになったか、環境の変化で色々と行動に変化があったか。そういった様々な要素があって出てきたりでてこなかったりだろう。
そんな魔物を相手にしながら進んでいる。ウィルハルトは多いという意見であるが強さとしては然程ではないと言っている。公也も強さに関しては同意しているがその強さに関して川や海の魔物を上げている。この大陸において川や海の魔物はか人間にとっては強すぎる相手。滅多に出てくるようなこともなく、その存在に関しては幾らか記録が残っている程度。ゆえにその強さを明確には知らない……が、やばい事実は知っている。そして公也がそれを知っていることはウィルハルトからすれば可笑しいだろう。ゆえに川や有為に近づいた、という事実に気づくわけである。
まあ終わった話なのでいまさら言っても仕方ないことである。ただ、これ以後近づくことを許容するわけにはいかないためそこだけは注意するべき点である。
「俺からすれば多いというほどでもない。これくらいなら普通だ」
「そちらからすればそうなのでしょう。ここではこの数は珍しいですが」
「湯水のように湧いてくることはないが……」
「そんなことになると困ります」
「まあ、川や海と比べるとそこまで多くはならないのは当然なんだろうな……」
この森を含め未管理地域は強大強力な魔物の存在や川や海に集中する地脈の流れの影響があり他と違う環境になる。しかしそれは公也からすれば自大陸の魔物が発生する場所と大して変わらない。そういう意味ではあまり多くないと感じるものである。もちろん川や海は特殊すぎるため違うのは当然、わからないが湯水のように魔物が発生している。
「しかし…………これでよく国が無事でいるものです」
「魔法道具などもあるしちゃんと境の管理はしているんだろう?」
「それでもです。私みたいに実力がある人物ならばともかく、魔法道具があっても多くの魔物を相手にするのは厳しいです」
「結構攻撃系の魔法道具はあると思うが……魔石の問題があるか」
「はい。あなたみたいに複数作れるならともかく、一般的な魔法を使える人物では一つか二つ、人数がいても毎日使う分に費やされる量しかない。攻撃系の魔法道具にどれだけ回せるか。防御の魔法道具に回せる量もあります。もし大量に魔物が境に押し寄せれば……突破されることでしょう」
「まあ、そういうことはないだろうけどな。魔物にわざわざ森の外に出る理由があるかって話だし……」
魔物が自然豊かな森を出て自然の薄い未管理地域の外に出るかといえば疑問が浮かぶ。魔物も食料は豊富な方がいいし過ごしやすい環境の方がいい。未管理地域は魔物も動物も多く生存競争は激しいが食料は豊富で自然豊かで過ごしやすい……そもそも魔物にとって適した生活環境はその生まれた地域であることが多い。川や海の魔物などがわかりやすく、森でも当然森に適した魔物が生まれやすい。森の外でもそこで生まれた魔物は生活できないわけではないが、やはり森の方がはるかに生活環境は良い。そもそも森の外に集団で出るということも何らかの目的があるか指揮する魔物でもない限りは厳しい。
「外に出る理由ですか……」
「そもそも今まで出ていない辺りで出ることはないだろうと思うが」
「確かにそうですね。ですが例外はいつでもあり得ます」
「……そうだな。よほど特殊な何かがあれば出てくることもあるか。と言っても対策は打てないんだろう?」
「そうですね……そういう点でも色々厳しいでしょう。だからこそ中にいる人たちの存在は必要です。こちらは手を貸せませんが」
「この道もあるなしでどう変わるか……」
「いい方向に変わってくれるとありがたいですね。こんな道を作った結果、魔物が移動しやすくなり街を襲うようになるかもしれない……と考えると危険かもしれないですね」
公也が作った道は馬車が通れる道であり、人が通りやすい道である。しかしそれは魔物も通りやすい道である。もちろん通りやすいからこそ多くの魔物が使い、また見通しがいいゆえに魔物や獣が他の魔物や獣に発見される可能性も上がり、積極的に使いたくはないかもしれない。ただ、魔物が通りやすくなるため街に行きつく可能性も高くなる。これまでは森事態が天然の防壁となっているわけだが、道がその防壁に穴を作ったため危なさは上がるだろう。それは公也達が北側の街だけではなく行く方の街でもそうだ。ただ、人の行き来もしやすくなるため危険以外の面も少しは良くなるかもしれない。まあ道ができただけで魔物の脅威はどうにもできていないのでよくすることも難しいかもしれないが。
「ん?」
「どうしました?」
「……空に何か。あ、飛んでいったな」
「魔物ですか? 空を飛ぶ魔物くらいいると思いますが」
「鳥型の魔物とか虫の魔物とかは空を飛んでいてもおかしくはないな……ただ、今見たのは人っぽかったんだよな」
「人型ですか。そういう魔物もいるでしょう」
ハーピー、ハルピュイア、呼び方はともかくいわゆる鳥人と呼ばれるようなタイプの魔物はいる。獣人でも鳥の特徴を持つ獣人はいないわけではない。ただ獣人の方は空を飛ぶようなことはほぼないし、こちらの大陸では獣人自体の存在が稀少なためそれらではないだろう。では魔物である、そう推測はできる。
「いや、人型じゃなくて人だった」
「……人が空に?」
「しかもなんか凄い吹っ飛び方をしてたな……」
「吹っ飛ぶですか」
「まあ、あまり気にしても仕方がないと思う。追うのも難しいし見えたのも一瞬、みたいな感じだったしな」
「そうですか」
「……しかし向こうの街も大分近いし、もしかしたらそこの住人か何かかもしれない」
「……そうだとすればそれはそれで不安がありますね。空を飛ぶ人間は普通ではありませんので」
「…………そうだな」
公也も空を飛べるタイプの人間なので普通ではない、と言われるとちょっと凹む。まあ公也が普通ではないのは当然だが。しかしそんな空を飛ぶことができる人間がいるというのは色々な意味で危険性が高い。普通は空を飛ぶことはできない、空を飛ぶのは他の人間に比べ強みとして大きいものだ。ゆえに……そんな人物がこんな場所にいるのは色々不安なところがある、ということになる。もっとも気にしすぎたところで対策は簡単ではないし、そもそもどういう存在なのかもわからない。見えたのも一瞬で何者なのかの把握もわからないため、今は考えずともいいだろう。




