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「森の中は魔物が出るな……まあ、この辺りだと当然か。地脈のそれはまともに感じられる状況にないが、他の場所に比べて自然が豊かだし……とはいえ、森にもならないような場所もあるし、地脈の影響、漏れもそこまで広い範囲じゃないか? いや、特定の場所だけ通らない、か。川に近い方が……? いや、そんな感じでは。湖も謎だし……あのあたりを通るのは構わないが、行けるかはまだ不明だな。結構遠めだし。その前に近くにあった街の方がいいか。道が通じていないが……街があるなら道さえ通じれば今拠点としている場所とも繋がりができる。だけどこんな場所でわざわざそうしていないのはもしかしたら繋がりを作りたくない……孤立したい? いや、流石にそれはないと思うが……まあ、行ってみればわかるか。どちらにしても道を作らなければいけないし……向こうと繋がりができた場合のことはその時の話だな。あまり気にしてもダメか」
公也は空から見えた遠方……そこまで遠くもないが、この未管理地域に存在する関係上、行くには二日三日はかかるだろう場所にある遠方と言ってもいい街である。日数的にはそこまでなくともこの地域では魔物が他より多く、動物も多いし危険が他より多い。また魔法道具などの物資上の関係もあり、街から街への移動に数日かかる時点で遠くである、少なくとも行き辛い場所であることには違いない。
しかし遠方と言っても二日三日、行こうと思えば不可能ではない。この未管理地域に来るような人物であれば多少の無茶を通していくこともできなくはない。それでも現時点で街同士の繋がりがないのはそれぞれの街に繋がりを作る意図、目的がないからではないか……と考えることもできる。もちろんそうかもしれないという話であり絶対にそうだと言えるものではない。ただ、一切繋がりがないとは考えづらい。もしかしたら何か関わり、繋がりはあってもかしくない。そのうえで道を作らない理由があるかもしれない。場所的に魔物の脅威も大きいし外との維持だけで精いっぱいだとか理由はあるだろう。あるいは自助努力を優先するがゆえに積極的繋がりを作らない……助けるということをしないために作らないようにしている可能性もある。
まあ、そんなことはいくら考えてもわからないしそれぞれに理由があるにしても公也が道を作らない理由にはならない。先に進むために道を作る、自分だけが進むならそれは要らないがアリルフィーラたちも同行するために必要である。結果として道ができ繋がりができてしまう、当人たちの望む望まないにかかわらず作られてしまうことになる。そこに関して公也が考えたところで仕方がない。できた時、関係者が考えることである。もしかしたら道が作れないから今まで関わりを作らなかったという可能性もある。道ができた時、改めて繋がりを作る、関係を作る、そうなるかもしれない。結局そこは分からない。
「まずあの街への開通……安全地帯、森の中に森ではない空間があるからそこに道をつなげ……そこからさらに道を……拠点にはできないだろうけど安全を確保しやすい場所の方がいいからな。魔法で簡易的な防壁みたいなのを作っておくのもありか? まあ別に俺たちが利用するでなくともあるなしではある方がいいし……」
いろいろ考えながら、公也は森を切り開き道を勧める。簡易に馬車が通る道を作るだけなら魔法でも<暴食>でも難しくはない。無意味に樹々を切り倒すのも勿体ないし切り倒した樹々は回収し利用する……まあ、別にそこはあまり重要でも何でもない。<暴食>を迂闊に使わないというだけであり、魔法だろうと剣で斬るのだろうと切り倒すだけである。
「街? ほがんとこなんて知らんや。ちった話に聞んだこどあんがや……んだ、噂か与太んかと思ったわ」
「聞いたことはあるのか」
「こんとこ森ん中なんて普通は入れんちゃ。危なすぎんよ」
「魔物も多いからな。道もない。それでも入るやつはいるんじゃないのか?」
「戻ってこれんちゃ。行ってそれきりやよ。戻ってきちゃっこもあっけど、奥ん入ってなかに」
「……そうか」
「んだも、人ん奥にいるん話はあっちゃ。街は流石に眉唾やんけえ」
人が森の奥に入ることはあるが、基本的に奥に入った人は戻ってこない。戻ってくる人がいても森の中に入っても奥には行っていない……少なくとも二日三日も先に進まない。多くの人物は入っても日帰りで戻ってくる。数日森の中で野営できるだけの物資を用意してはいることはない。これはそもそも森の中で長期の間生存、生活できないのが一因にあり、また公也みたいに空間魔法でもなければそもそも持ち物を多く持って入れない。そもそも森の中に探索目的で入るのは厳しく、素材の確保などいろいろと考えるとどうしても探索範囲は狭くなる。街を離れて先に進むのは難しい。
仮に奥の方に行くとなればそこまで無謀な行動を取れる人物しかいない。そんな無謀な行動を取る人物は大体の場合は途中で死ぬ。仮に森の向こうの街に行けても今度は戻ってこれるかどうか。二日三日で行けると言ってもそれは目的地を知っていてこそであり、森の中を道しるべもなく街の存在を知るでもなければもっと時間がかかるのは間違いない。たまたま街の方に向かい、安全も何も捨ててまっすぐ行くんであればなんとか到着できるかも、くらいの話。ゆえに普通は見つからず、見つけられても戻ってこれない……ゆえに話として聞くことがあっても今まで一度か二度くらいであり、それも内容が本当かどうかもわからない者だろう。
もっとも、そういう無謀な行動を昔集団でしたかもしれない、というはあり得る。記録には残っておらずともそういう奇妙なことはなんだかんだ起こり得る。この地、未管理委地域であるがゆえに。
「んでも街があんなら面白んかね」
「面白い?」
「ずったこばいんで仕方ねかい。外ん出たかもんも多かね」
「そやなあ。わのとこん倅やわ森ん外に出たがっとや」
「みとこも同じかて。比護もなか、安心できんちゃ」
人が寄ってくる。なんだかんだこの森での暮らしは危険であり、そこに住む者にとっても不満は多い。逃げてきた人物やその世代はまだ不満はあっても仕方ないと思っても、その子供、次の世代はまた話が違ってくる。外からきて、外に出て、そんな繰り返しもこの地ではまあまあ起こっている。一つの街しかないというのも不満の要因だろう。もし他の街があるなら、そことの繋がりがあれば……そちらに行って外に出ない可能性もあり得る。いや、流石に外に出ないのはわからないが、少しはここに残ってもおかしくはないだろう。
まあ、それも街があればだし、そこまでの道がなければ厳しいし……というわけで少しわいわい話があった程度。結局のところあればいいな、面白いなという内容だけだった。結局そういう街があるかどうかは定かではないというのが彼らの話である。あまり話の内容としては公也に旨味のないものだった。




